第38話 カッコよく助っ人として登場したら既に弟子が全て終わられていた件

 突如として学園内に謎のモンスターが発生した。ウィルとアルフレッドが真っ先の発生源の場所に向かった。



「なんだ、あれは」



 知らせを受けた二人の前にいたのは数多の生物を組みあせたキメラのようであった。顔は獅子のようだが、尻尾は別種の蛇に酷似しており動いている。


 龍のような翼も生えており、とても自然的に生まれた存在とは思えない。




「私はあんなモンスターは見たことがない。いろんな過去の書物も読んだことがあるがあんな総体に酷似をした存在を知りえない」

「僕も知らないよ」



 アルフレッド、ウィルが短く言葉を交わしながら臨戦態勢に入る。ウィルは剣を抜いて、アルフレッドは剣に炎を付与する。


 二人が闘気を出したことにモンスターも気づいた。キメラとでも言える化け物が二人に襲いかかる。



(私の付与した炎剣で……っ!?)



 アルフレッドが真っ先の己が先陣をきって、剣を振ろうとする前にすでに彼の前に影が刺した。



 ウィルが先に駆け出したのだ。



 頭の中で未来を構築する技術、先読みを覚えつつある彼は咄嗟にアルフレッドよりも前に出ることができたのだ。




(私より、だとッ……!)




 アルフレッドは驚愕をした、目を見開き、己が何らかの幻惑を見せられているとすら感じた。


 自分は同年代ではトップレベルで強い、騎士学校でも上位クラス、エリートと言われている。だというのに、一歩先をいかれていた、


 彼が剣を振るときの瞬間は、まるで時間が止まったかのように感じられた。全身の力を込めて、一気に剣を振り上げる。風を切る音が、空気中に轟音を轟かせる。


 それを見ていたのはアルフレッド、そして、騎士学校に通う生徒たち。一歩踏みだした瞬間から、ウィルの姿を彼らは捉えていた。


 剣は煌々と輝き、まるで閃光のように眩しい。その剣は、敵を一刀両断することもできるほど鋭利である。そして、その瞬間、彼の中にある力が解き放たれるような感覚。


 あまりは覇気がない少年から一気に解放される力の片鱗、その後、剣の動きは止まらない。一気に剣を振り下ろし、敵を倒すための攻撃を開始する。


 どことなく彼の表情は自信に満ち、その姿に一部は心臓は高鳴り、一部は命をかけるかのように戦う姿に身震いさえした。


 

 そして、一撃を放つ瞬間、剣を振り下ろす力が最高潮に達する。まるで世界を切り裂くかのような剣の動きに、敵は砕け散る。その瞬間、彼が英雄に近い存在に感じられた。



 キメラは文字通り、二つに割れた。大きな肉片が二つ転がる。



「ウィル、お前……」




 アルフレッドはその一振りに理解し難い才能を感じた。それは彼だけでなく周りにいた騎士の卵達にもその片鱗を理解させられた。




「誰だ、あいつ……」

「綺麗な太刀筋、ちょっとかっこいいかも……」

「クソあいつ目立ちやがって」



 見知らぬ存在に疑惑をぶつける者、有志に見惚れる女性や、面白くないと感じる者。さまざまだ。



「私の方が速いが……最初の一歩目では負けたか。私は勇者にならなくてはならない存在。誰よりも、いや、勇者ダン以外に私は劣ってはならない」



 微かに暗示をかけるように自分に言い聞かせたアルフレッド。キメラの数は残り七体、それら全てを自分が打倒をすることを決めた。




「俺たちだって騎士学院のAクラスだぞ」

「おうおう、よくわからん奴に好きに」






 空気を切り裂く一言。本来であれば戦闘本能を震わせた仲間に対して、それらをさらに増幅させるために声援を向ける。


 だが、その戦士の魂を押し潰す王者。その言葉。



 王者アルフレッドからの威圧。



 目の前にいる、化け物キメラより更に大きな圧力。生物として、格が違うと再認識した。




「「「「「「ッ!!??」」」」」」




 生徒達の心は犇く。己が凡才と思わせられる。これが勇者の子孫、紡いできた血筋の集大成。



 瞬きすら勿体無いと思える剣技が起こる。炎の息吹が踊るようにキメラの間を抜けた。美しい火の道が生まれたと思ったら既に全ては切れていた。




 眩しい炎はバケモノの肉片すら残さない、全てを灰にする。



「あ、りえねぇ。こんなに強いのかよ。アルフレッド」

「やっば、マジカッコいいんだけど……アルフレッド君ッ!」

「嫉妬しないの?」

「それすら湧かねぇだろ、あれは」




 憧景が湧かない、諦めとも言えるほどの強さだ。しかし、ウィルだけは違った。じっとアルフレッドを見ていた。


 そして、動きが鮮明に捉えることができていた



(確かにすごい、……)



(僕は彼より弱い、魔法で剣を包むことはできない。僕にはない強さを持っている、それが悔しい。だけど、今思っているのはそれだけだ)




(歴代の勇者の血筋によって生まれた彼は勇者ダンほどでは全然ない。言ってしまえば、微塵すら彼ほどには及ばない)




 ウィルは自身の感覚が徐々に麻痺している事に気づいた。勇者ダンと言う頂点を日々見ているからこそ、それ以外は全て格下である。


 事実だから、自然とそう見える。



「ウィルだけが、私をただの超えるべき存在だと見ていた」



 アルフレッドも自然と彼を認知していた。この場に彼とウィルは対峙していた。



「凄いよ、アルフレッド君は、でも、僕は勇者になりたいから」

「そうか。それでいい」



 騎士の生徒達の歓喜の渦は聞こえない。勇者ダンの弟子二人だけがこの場に立っていた。




■■




「いやいや、驚いたね」



 騎士学院、キメラが発生した場所からかなり離れた場所。アルフレッドの強さを見ていたとある男は驚愕をしていた。



「ここまでとは、思わなかった」



 新人類創造寮。あらゆる生物を辿り神に至ろうとする目的を持つ集団。その中にいる、とある研究者、彼はアルフレッドの動きを見て驚愕をしていた。



「ここまでの存在だとは。勇者の子孫を甘く見ていたようだね。だが、いくらなんでも、この強さは想定外とも言える。ふむ? ただの子供が歴代の勇者の指南書があるからと言ってここまでになるか……?」




 彼の動きはまさしく、勇者の子孫とも言える代物だ。だが、彼は未だ若い子供。それに以前はあれほどではなかった。いきなりあれほどの力を手に入れることができるのかと懐疑的な目線を彼は送る。



「まぁ、いい。次の手を……っ!? きたか!! 勇者ダン!!!」




 彼の目線の先には鉄仮面を被った男がいた。アルフレッドの勇姿に全員が見惚れているので気づかない。しかし、彼の目には確かに勇者の姿が映っていた。



「これは、引くべきだな。魔王の呪いで弱体化しているとはいえ、彼が相手となるとデスペラードも調整が少しかかる。それにこの学園には……」



 生徒の中に一人だけ、喜んでいない者がいた。男性の生徒だ。その生徒を少しだけ見て、彼は去っていく。




「勇者ダン、呪いがあるとはいえ。凄まじい男であることは変わりない。だからこそ、デスペラードが必要なのだ。あれはいずれ『魔神』に辿り着くはずなのだから」



「ふむ、アルフレッドか。レポートにまとめておくか」



 しばらくの間、彼は手帳に慣れた手つきで記していく。実力、攻略、確保、解剖の可能性。



「今日は引くか。おい、森奥に待機させておいたデスペラードを回収しろ」

「た、大変です! デスペラードが何者かにバラバラにされています!!」

「なに!?」



 男の回答に彼は焦った。あれは勇者ダンに対抗するために復活させた。最高傑作とも言える代物だからだ。




「勇者ダンとは互角に仕上げておいたはずだッ!! 学園の伝説の鉱石を手に入れれば魔神にすら……! くそ、騎士団にまで手を回して、肉片だけでも回収しろ!!」










■■



 


 大急ぎでカッコよく登場をした俺。しかし、既にアルフレッドが倒してしまっていたようで大騒ぎだった。


 ちょっとドヤ顔で登場をしたのが恥ずかしい。



『またせたな』(イケボ)



 みたいなことを言わなくてよかったぁ。すぐさま見てないうちに退散しよう。



「勇者様!」

「ウィルか」



 お、ウィルだけは俺に気づいてよってきた。あっちではアルフレッドが女子からモテて、男からも称賛されている。うん、弟子を破門にしたい。女にモテてるからって調子に乗るなよ。


 お前がやったのはちょっと魔物を倒しただけだ。俺なんて魔王を何回も倒してるからな。だから女にモテても調子に乗るなよ。



「勇者様、僕強くなってる気がします」



 わなわなとそわそわしながら、自身の手を握っているウィル。そうなのか、俺はあんまりそんな気はしないけど。


 あーでも、この間も大会で入賞してたしな。自分で言うのもあれだが強すぎて他との違いはあんまりわからない。



「強さが着実に身に宿っていくのが分かるんです。多分日々、格上との戦いがあるからこそだと思うのですが」

「うむ」

「さっきの敵、俊敏性では僕よりも上で。でも勇者様と普段から撃ち合っている僕からしたら「格上と戦うこと自体が普通」と言う感覚があったと言うか」

「うむ」

「だからこそ、間合いの取り方が的確にできたと言うか」

「うむ」

「たしかに、あまりに格上の相手には通じない戦法だったと思うのですが」

「うむ」

「つまり……勇者様の修行のおかげでして!!!」




 話が長い!! よくわからないけど感謝してるのがよく分かった。アルフレッドは女子にモテモテだけど、こいつは俺にお礼を言ってきた。うむ、見直したぞ。



 この間の大会で入賞をした時は、ちょっと上位だからと女にモテモテだったのが気に食わなかったが、また好感度が上がったぜ。



 ウィルとの会話を終えて、仮面をとってすぐに退散した。うーんと背筋を伸ばしながら帰りの道を歩く。


 とある森を歩いていると、なんか大きめの魔族に出会した。


 あれ? どっかで出会ったことがあるような



「ワレはダレだ。何もオボえていない」



 どうやら記憶喪失らしい。



「しかし、使命はオボえている、ニンゲンを滅す。めっする。絶命させる」

「物騒だな」

「おま、えは……なつかしいが、おまえは敵!! どこかで!!!!」



 急に拳を振り上げてきた。そのまま殴りかかってくる。俺じゃなきゃ死んでるだろうな。


「なに!?」

「まぁ、俺なら無傷だろ」



 この魔族、絶対悪いやつだろ。黒い魔力だしな。



「とりあえず、滅んどけ」

「ああああああああああああああああああ!!!!!!!」




 偶に出るよな。こう言う魔族は。さーてと、帰りましょ。







(え、嘘でしょ)



覇剣士と呼ばれていた彼女は思わず絶句をせざるを得なかった。拳一発で魔族を吹っ飛ばしたからだ。



(あれって、昔勇者くんに傷をつけたデスペラードに似ていた。それを。しかも、拳を繰り出す瞬間が時間が飛ばされたように見えなかった。瞬きをしていない。気づいたら彼は拳を出し終わっていた)





(あれほどの速さ。僕より強い人間なんて限られている。あんなできるのは……まさか、勇者君!?)








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