第30話 新たなる弟子

 キャンディの決勝が始まる。彼女が出てくると会場は一気にわいた。彼女はここまで圧倒的だったしな。


 技術の模倣、体術のレベルも数段高い。



「キャンディだっけ? 結構凄い」



 カグヤが褒めるとは珍しい。基本的には興味すら抱かないのに……キャンディはやっぱり優秀なのかもしれない。



「僕が教師をしてる学校の生徒さんなんだ。まぁ、あんまり絡みは無いけどね」

「そう……わたしも教師やってみようかな」

「それは、しなくて良いと思うよ」



 サクラとカグヤが楽しそうに話している。リンは唸りながら何故か、ウィルの隣にいるメンメンを凝視している。



「ね、ねぇウィル。この後、一緒にご飯でもいかない?」

「え? この後は武器屋に行こうと思ってるんだけど。もしよかったら一緒に行く?」

「あ、うん。じゃあ、その後、ちょっとご飯行こう。実はカップル限定のご飯屋さんがあって興味があったんだ……」

「へぇ、そうなんだ! 分かったよ!」

「や、やったぁ!」

「そんなに喜ぶなんて……メンメンは食いしん坊だね」

「そういうことじゃないんだけどね……まぁ、いいや」


 きっとメンメンはカップル限定に一緒に行けて喜んでいるんだろうけど……ウィルは気付いていないようだ。

 ウィルとメンメンの様子をずっと見ているリン。そして、リンはメンメンをもう一度、凝視した。


「この感じ……アタシと同じ匂いがする」


 メンメンとリンは使っている香水でも同じなのか。さて、決勝の相手は、二重使いダブル・オーダーのメリルと言う魔法使いらしい。


「メリル……わたしは知らない」


 カグヤは決勝の相手は知らないようだった。だが、反対にリンは知っているようだった。


「アタシは知ってるわ。アタシは多重魔法展開処理マルチタスクという恩恵ギフトを持ってるのは知ってるわよね?」

「知ってる、リンはチート。そこに恩恵魔力暴走マジック・ワンがあって魔力が超多い、そこからの十二階梯魔法を五連展開とか、化け物過ぎる」

「ダンに比べたら、大したことないでしょ。それであの、メリルって子は二重使いダブル・オーダーという恩恵があって、魔法の二連同時展開が出来るみたいなの」

「リンと似てるってことなんだ……」

「しかも、六階梯まで使えるらしいわ。キャンディスって子は凄いけど、今までの相手は格闘系だから模倣できたわけだし、流石に魔法二連展開、しかもかなりの魔法技術ある子だから苦戦は必須でしょうね」



 へぇ、魔法の二連展開とか凄いね。流石に俺もそれは出来ない。魔法は一個ずつしか使えないし。


 まぁ、持論だけど、戦いに魔法って正直使う必要って殆どないんだけどね。斬れば大体終わるし。



「戦いに魔法とか必要ない。近接でぶっ飛ばせばすぐ終わるって思ってるでしょ」

「あ、いえ、別に……」



 リンの奴、俺の心を読んだのか……。



 さて、決勝が始まった。最初にメリルが水と炎の魔法を展開する。一回で五つの炎を出す魔法。一度に水の槍雨を降らす魔法をいきなり下に下ろす。



「ここまでの相手とは違いますわね……」



 避けまくってる、キャンディ。おー、よく避けられるなぁ。結構厳しそうだと思ったがまだまだ余裕そうだ。だが、相手も六階梯使えるらしいし、まだまだ手の内は明かしてないだろう。


 六階梯とか出されたら、流石にヤバいだろうなぁ。キャンディは使う前に倒した方が良いだろうなぁ。


「なるほど、流石は決勝まで残っただけはありますね。キャンディさん」


 メリルは杖を何度も降って、魔法を展開するがキャンディはそれを避け続ける。それを見て、ジリ貧だと思ったのだろうか。メリルが杖を振るのをやめた。


「六階梯をお見せしましょう。貴方はそれほどの強者であると認めて……」

「……面倒ですわね」



 メリルの周りには魔法紋様が浮かび上がる。周りの観客も驚いているからきっと魔力の昂ぶりも凄いのだろう。俺はリンとずっと一緒に居たので、全然凄くは感じないが……



氷結一点ブリザード・ストライク! かーらーのー! 炎象徴鳥ファイア・エンブレム・バード!!」



 冷凍、氷ビームみたいなのが放たれ。その隣に炎の鳥が一緒に飛んでいく。これは勝負あったか! と誰もが思っているようだ。というか俺も思った。


 まぁ、六階梯魔法だからね。速さも凄いし……キャンディは出される前に決着をつけるべきだった。あ、でも、何の魔法があるか分からないから間合いは不用意に詰めない方が良いのか?

 

 とか、色々考えたらキャンディに魔法がぶつかりそうになる。あちゃー、これは流石にダメかな?



「こ、これは決まったか!」

「や、やったんじゃないか!?」

「いくらなんでもこの魔法は耐えられない」


 周りも色々言っているが……そして、キャンディに魔法が当たると思ったその時。彼女キャンディの口が大きく開いた。え? 何してんの?


 そして、ブラックホールのように魔法はキャンディの口の中に消えていった。更にキャンディの拳には炎と氷が宿っているように輝き始める。



魔法喰いマジックイーター。わたくしの恩恵ですの。魔法を食べることが出来て、食べた魔法を一時的に自身に付与できるますの」

「な、なんだとッ!? そんなの聞いてないぞ」



 チートやん。便利過ぎやろ。その能力。


 メリルさん魔法食べられてめっちゃ驚いてる、いや、俺もその恩恵は聞いてない。だから、めっちゃ驚いてる。


 

「まぁ、普段は清楚な感じが出ないから使わないのですが……流石に六階梯は生身で受けたら危なそうでしたので」

「く、くっ、ふざけるな!! そんなのズルい所の話じゃない!! ハッタリだ! 何かのトリックだ!! 大地放射アースドドン天元水ウルトラウォーター

「もぐもぐ……ごっくん」


 あ、また食べられた。火、水、氷、土が付与されちゃったよ。どうするんの? これ……


「ま、まだまだ!!!」

「キャンディス・パーンチ」

「ぐぇ!!!!」



 キャンディの強化されたパンチがメリルに突き刺さって場外に吹っ飛んだ。アイツ、俺いる? 自分で強くなればいいんじゃないだろうか?


 魔法食べて自分のものにするとか……聞いてないよ。いや、取りあえず優勝おめでとうって言っておくけど……


「あら、あの子強いのね」

「そうですね」

「バンなら勝てる?」

「さぁ、どうですかね。あの子、チートみたいに強そうだし。まだまだ何か隠していても不思議ではない感じですからね。底が見えない感じがします」

「バンも見えないけど……底はさ」


 強さの底ね……正直俺も分からん。俺って13歳くらいから本気で戦った事ないんだよね。真面目に活動してたけど。本気は殆どない。


 二割以上、力出すと空気摩擦で服が解けちゃうからさ。伝説の防具とかも、ちょっと本気で走ったら空気摩擦に耐えられなくて解けちゃったし。


 この二割以上本気出すと空気摩擦で溶けるって性質、俺と相性最悪なんだよね。鉄仮面とか本当に直ぐに溶けちゃうから、フツメンがバレそうでひやひやするじゃ済まない。



 全力で戦う→な、なんてスピードなんだ!? 見えないとリン達が驚く→鉄仮面が溶けて俺の顔が露わになる→いや、そんな凄い動きで俺様系キャラやってたのにフツメンなんかい!


 みたいなのが一番怖かったからね。だから、全力全開は無理だろと常に思っていた。だが、本当に全力出したら誰にも速度が速すぎて、見えないから、気にする必要はないと思うかもだが……空気摩擦で服が溶けてるから全裸だろ?


 いや、流石に全裸で外を歩く趣味はないしね。やっぱり服は着ていたい。見えてないから全裸でいいやとか変態の透明人間の発想だし。俺にはちょっとその世界の扉を開けたくはなかったのだ。


 と、昔の回想に浸っているとキャンディが優勝の表彰をされていた。おめでとう!! よくやったな。まぁ、俺がいなくても優勝とかできてただろうけどね



◆◆



 メンメンは一人で花を摘みに行っていた。済ませた後、ウィルが居る会場の観客席に向かう。この後は、想い人であるウィルとデート(自分ではそう思っている)があるのでちょっと緊張をしていた。

 

 だが、彼女には悩みがあった。だって、ウィルは全然彼女の気持ちに気付かないからだ。


「ウィル……全然私の気持ちに気付いてくれない……」

「その悩み、アタシが解決してあげましょう」

「だ、誰!?」



 突如として、彼女の後ろから声が聞こえた。顔を布で覆っており、顔は見えないが多分女性であると判断できた。耳が尖っている所を見ると、妖精族だろうか。


「怪しい人……来ないでください」

「い、いや、アタシは怪しい人ではないのよ! こ、この顔を見て!」

「ッ!? 大賢者、リンリン様!」



 眼の前の妖精が布を取ると……彼女の眼の前には美しい妖精の女性が居た。美と言う名がとにかく似合うような女性だ。


「え、えっと、なんで私なんかに……」

「ふふふ、昔のアタシと似てたからアドバイスをしたくなってね。あの、ウィルとか言う男が好きなんでしょ?」

「え!?」

「あー、はいはい。全部アタシには分かってるから。落ち着いて」

「は、はい」

「でも、全然アピールできなくて、強い言葉とかで突っぱねちゃってたりして、悩んでるのね」

「ど、どうしてそこまで!?」

「ふふふ、アタシも同じだからね」

「あ、勇者ダンの事ですか?」

「そうね。だから、先輩として色々教えてあげたいと思ったの」

「……え、えっと……遠慮します」

「な、なんでよ!?」



 リンはまさか、断れるとは思ってもみなかった。どう考えても断る理由もなさそうだし、自身は伝説の勇者パーティーのメンバー権威的にも凄まじいからである。


「だ、だって、何年も一緒に旅をしてたのに結局結婚できなかった人の恋愛思想を習っても、悪化しそうと言うか……」

「凄いアタシの心をナイフで刺してくるのね。恋の為ならアタシにも動じないその姿勢、気に入ったわ」

「いえ、気に入られても……」

「アタシの失敗談とか学んでおくに損はないわ。それに、最近アタシ、勇者と上手く行きはじめてるし」

「え? そうなんですか?」

「そうよ。もう、鉄仮面の下も見ちゃったから」

「えぇ!? そうなんですか!? 誰も見たことないのに!?」

「そうよ……今度実家にも遊びに行こうとも思ってるわ」

「け、結婚前の挨拶みたいな!?」

「え? あ、うん……そうね……そうよ!」



(あ、見栄張って結婚の挨拶とか言っちゃった……)


 リンは本当に善意でメンメンに声をかけた。ウィルとのやり取りを見て、ダンと上手く行っていなかったときの自分を想起してしまった。見ていられない、アタシが何かをしてあげたいと同情心で彼女に声をかけた。

 だが、思わず見栄を張って結婚の挨拶と口走ってしまった。


「た、ただ、この結婚はまだ内密だから……うん。黙っててもらおうかしら」

「わ、分かりました。てっきり、私は、リンさんはなんやかんや告白できずに四十歳になってしまうんじゃないかと思ったんですけど杞憂だったんですね。それなら師事を受けてもいいかもです」

「う、うん……良いと思うわ!」

「じゃあ、お願いします! リン様」

「あ、うん。任せておきなさい」

「因みにですが住む家とか決まってるんですか?」

「え……あ、えっと。そこら辺はね、その……子供の問題とかもあるし、何人くらい欲しいかとか話し合ってる最中だから、まだ、これから……かしらね」

「うわぁぁ、勇者と結婚とか勝ち組ですね!」

「まぁね! アタシ、勝ち組だから!」

「どっちから告白したんですか!?」

「あ、あっちからかしら? 結局、ずっとアタシの事が好きだったらしいから……数年越しに言われた感じ……? うん、そうなのよ……」

「うわぁぁぁ!! なら私もすぐに告白されるようになりたいです! お願いします」

「うん……ついでに魔法も見てあげる、魔力の質もよさそうだし。治癒魔法とかで治してあげた、接する機会も増えるでしょ」

「あ、なるほど。これからお願いします。リン様」

「あ、はい」



(……どうしよう、後半全部見栄を張ってしまった。結婚も家も全部、嘘だし……、まぁ、これから真実にするから別にいいわよね……い、いいわよね?)



 メンメンはリンリンの弟子となった。




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