第28話 悪い奴
二日目、戦士トーナメント女子の部が始まる。参加メンバーが続々と集まる中、キャンディス・エレメンタールと、彼女のメイドであるクロコは既に会場入りをしていた。
「お嬢様、初戦の相手は修行をしながら世界を渡り歩く、武闘家。『魚海拳』のミーウ選手だそうです。世界一優秀なメイドであるクロコが、調べてまいりました」
「あーはいはい。ありがとですわー」
「聞いておりますか? お嬢様……先ほどから手鏡でずっと髪型チェックをしておりますが」
「えぇ、聞いておりますの。ただ、ダン様が来るのに前髪のポジションが決まらないとなるとこれは一大事ですわ」
「どの道、戦えば髪型は崩れるのでは?」
「えぇ、それを加味して戦いますの」
「戦う前から縛りプレイ宣言ですか……」
クロコはキャンディスに呆れてた様子だった。
「あ、そうですわ。クロコ、わたくしが作ってきたお弁当は?」
「ええ、勿論持ってきております」
「そう。それ、絶対に無くしたり落としたり、してはいけませんわよ?」
「勿論ですが……これ結構量が多くないですか? お嬢様一人で食べきれるとは思えませんが」
「もう、そんなのダン様と食べるために作ってきたに決まってますわ」
「あ、さようで」
「そうですわ。では、わたくしは控室に行かなくてはならないので、あとは頼みますわよ」
「かしこまりー」
キャンディス、通称キャンディは適当に手を振りながら控室に向かって行った。その途中で木に寄りかかる鉄仮面の男を発見する。
「ダン様!」
「声が大きい。静かにしろ」
「申し訳ありませんわ。会うのが嬉しくなってしまい、つい……わたくしの応援に来てくれましたのね」
「ふっ、そんな所だ」
「えぇ、嬉しいですわー! めっちゃ頑張りますわー!」
「声が大きい、バレたらどうする。俺とお前の関係は――」
「――えぇ、わたくしとダン様の関係は秘密ですものね……ふふふふ、わたくしだけ。わたくしだけが……弟子……ふふふふふ」
(キャンディ……なんかめっちゃ、笑ってるな。急にそんな笑いだすと、ちょっと身構えるぜ)
そんなこんなでダンの弟子への激励は終了し、戦士トーナメント女子の部がスタートした。
◆◆
「あ、ウィルも来てるのか」
俺が女子の部を観戦しようと席についていると、ちょっと遠くにウィルが座っているのが見えた。隣には女の子が居る。おいおい、いつもリア充かよ……あ、そう言えばあの子、どっかで見たとある。
ウィルの幼馴染のメンメンとか言う子だっけ。あ、ウィルにポテトあーんして、食べさせようとしている。おいおい、ウィル。顔赤くなってあーんしてくれているメンメンちゃんの気持ちに気付かないとか重罪だな。
幼馴染の恋心に気付けない奴は死刑すら生温いわ。美少女なら更に罪が重くなる。
さて、一回戦がそろそろ始まるな。
「バンも来てたのね」
「あ、どうも」
顔に布を巻いているリンが登場。そして、後ろにも布を巻いている人物が二人いる。
「女子の部も見るのね……いや、いいんだけどさ。どういう意図で見てるの?」
「まぁ、暇つぶし的な感じですね」
「そう……あ、こっちの顔を隠している二人は……紹介した方がいいの、かしら? えっとね、伝説の勇者パーティーの覇剣士サクラと武闘家のカグヤよ」
「どうも、昨日ぶりだね。バン君」
「……誰? この人」
よく知ってる二人だー
「……スンスン……」
カグヤが俺に近づいて、匂いを嗅いでいる……。
「変わった匂いがする」
まさか、加齢臭か……!? くっ、恩恵で若さを保っているとはいえ加齢臭がすると言うのか。三十路だしな!!
「カグヤちゃん、初対面の人に失礼だよ。ごめんね、バン君。この子、まだまだ子供だから許してあげて」
「気にしてないんでお気になさらず」
匂いはいい匂いだと思うのだが……自分では分からないうちに加齢臭がしていると言う可能性もある。そうなると冒険者交流会で不利になる可能性が……
「変わってるけど……どっかで嗅いだことある匂い……前にどっかで会ったことある?」
「さぁ? どうですかね?」
「……出身は何処?」
「この星です」
「わたしは月だよ」
カグヤも大きくなったな。月から落ちて来た時は子供っぽかったけど……まぁ、今でも子供か。でも、多少は成長をしたのかもな。
「さて、会場の皆さん! 昨日の男子の部は多大な盛り上がりを見せましたが、本日の女子の部も大いに盛り上がってくれるでしょう。では、一回戦! 騎士育成学校に通う、エレメンタール家の令嬢。キャンディス・エレメンタール!!」
「「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
あ、出てきた。キャンディが入場してくる。会場中が熱気で沸いているなぁ。だが、大会運営の人がゴクリを唾を飲みながら、もう一人の選手の説明をする。
「おいおい」
「くるぞ、くるぞ!!」
はて? 何が来るのだろうか? 会場の客たちはなにやらワクワクしている様子であるが……
「そして、まさか、この武闘家の武術を生で見れる日がこようとは!!! 世界を渡り歩き、強者と戦う事を日常とし、自らの拳を高めることに生涯をかける猛者――」
「――『魚海拳』、ミーウ!!!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うううううううううううううううううううううぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」」」」」」」」」」
「ミーウだぁぁあ!!」
「うぉぉぉぉお!!!」
「可愛い!!!」
「サインしてくれ!!」
え、なに? めっちゃ会場盛り上がってるじゃん。そんな凄い人なの? 全然知らないんだけど……、隣のリンもピンと来ていない様子だ。
「えっと、どなたなのかしら? あんまり武術にはアタシ詳しくなくて……」
「リンちゃん、知らないの? 魚海拳は結構有名だよ。ね? カグヤちゃん」
「うん。有名。本当は大会見ないで帰る予定だったけど、魚海拳の使い手が出るって言うから見ようと思った」
「へぇ……そんなに凄いのね。バンは知ってた?」
「いえ、全然知らないです」
「カグヤちゃん、解説できる?」
「魚海拳は魚と海と言う斬っても切れない関係を元に作られたらしい。魚は水の中でしか基本生きられないから……ミーウは昔から海で修行してたらしいから、海と魚と一緒に生きることで魚海拳を会得したらしい。さっき言った海と魚、斬っても切れない関係の如く、清らかで淀みない動きの型を何度も循環させながら戦う長期戦向きの武術らしい」
ふーん、結構有名人って事か。全然知らなかったけど……あ、リンも説明聞いても全然ピンと来てない感じしてる。
だが、そんなに強い使い手となるとキャンディでは勝つのは難しいかもしれないなぁ。
「……武術は遊びではない。今ならまだ間に合う。棄権した方が良いよ。お嬢さん」
「どうでもいいですわね」
「ふっ、偶に君みたいな子がいる。騎士育成校に通っているからと、強さに奢りを持つ者が……だが、私から言わせればそんなのはナンセンス。閉鎖的な学び場では、凝り固まった世界から出ることはできない。常に自由な自然と対話をし、常に身に危険を置いて、常に海で過ごしてきた私には絶対に勝てない」
「……ふむ? あまり強そうな言葉を使う割にはさほどな感じですが…‥」
「そうか、ならば身を持って教えてあげよう。世界の広さを――」
「――もう知ってますが」
「では!! 一回戦始め!!!」
◆◆
最初に駆け出したのは魚海拳、ミーウであった。両手を広げ、キャンディの顔面に向かって拳を持って行く。それを彼女は裏拳で弾く。
「ほう、今のに反応するとは……では、これでどうでしょうか?」
手を開き、張り手のようにする。それを彼女は両腕をクロスしてガードをする。
「
「ッ」
ハリての大きな音がキャンディの耳に鳴った。ただのハリてなのに彼女のガードした腕には煙が登っていた。
「なるほど、これも……」
「曲芸にしてはまぁまぁですわね」
「ほう、言いますね……では、今度はそちらからどうぞ……
「あ、そうですのッ」
彼女が淡々と蹴りを飛ばす。しかし、それをミーウは完璧にガードする。上段蹴り、踵落とし、拳ラッシュ。それも全て亀の甲羅のように固い腕によってガードされた。
「ふふふ、効きませんよ」
「……なるほど、大体わかってきましたわ」
「貴方は私の海のように深い底を把握できませんよ。右手では
一瞬でキャンディの前に拳が十六個あった。先ほどのようにガードをする。驚異的な動体視力と判断能力で彼女は拳を逸らしていく。しかし、一発だけ彼女の額に当たった。
パンと音が鳴って、彼女は数メートル転がった。
「まさか、今のを一撃だけで済ますとは……なるほど。それなりには海の広さを知って……」
「おい、コラ……髪型崩れたじゃねぇか。ボケカス」
「……え?」
キャンディの髪が明るいオレンジ茶色から、真っ赤な色に変わって行く。それを見ていたクロコは頭を抑えた。
「あ、キレちゃった……」
「取りあえず、想い人の前で恥かかせたお前は海の藻屑決定な」
「……性格が変わった事には驚きですが……それだけではッ」
「
キャンディはミーウの魚海拳の技を模倣し、彼女の前で披露した。先ほどのようにぱちんと大きな音が響く。
「ッ、私の技をッ!!」
「まだまだぁぁあ!!!」
「そんな、写し取るなんて……貴方は海で生きていたわけでも」
「家で金魚飼ってるから出来るのかもな」
「そんなんで出来てたまるかッ!! いいでしょう。これが全力全開で放つ奥義!!
ミーウの最高速の連撃がキャンディに迫る。しかし、彼女は獰猛な笑みを浮かべていた。そして、ミーウは驚愕をする。彼女の動きは正しく、今し方、自分がしている奥義に近しいからだ!!
「右手で
「ま、まさか!? これすらも模倣をしたと――!」
その通りであった。彼女は一瞬でそれを再現した。互いに拳がぶつかり合う。
(そんな、まさか……まさかまさかまさか、あり得ない!? この技は私のはずなのに――私が奥義を打ち合って押し負けている!)
ただ、写し取られたわけではない。模倣された、更にその上で更に純度を彼女は上げてきたのだ。故に原点を優に超える動きになった。
いや、単純にキャンディの才能がダイヤモンドだった。そして、打ち合いが終わり、ミーウは拳を痛めた。だが、それで終わらず……
そこから、
「なっ!?」
(何と言う、極端で無茶苦茶、踏み込みッ! しかもそこから拳に力を回すまでが滑らかで速いッ!!)
キャンディは踏み込み、その力を拳に持って行きつつ大きく振りかぶった。ミーウはそれを己の持つ最高の防御札でガードする。
「
腕を十字に固めて、更には足を埋めるくらいに地面の上で踏み込み踏ん張る。
「うるせぇ! わたくしの方が強いッ!!」
彼女の拳が彼女の十字に固めていた腕に突き刺さる、拮抗をすることなく、ミーウは吹っ飛んだ。会場の外壁まで飛んでいき、めり込んでいた。
「多少は世界を知ってるからな……お前程度じゃ、わたくしは倒せ――」
キャンディは会場を見渡して、自身のメイドであるクロコを見つけた。クロコが口パクだが、観察眼に優れているキャンディは何を言っているのが彼女にはすぐに分かった。
『お嬢様! 勇者ダンが見ているはずでは!? 清楚な自分を心がけてください!!』
口パクだし、音は聞こえない。だが、メイドの言葉が頭の中で反響をした。何度も何度も……
『お嬢様! 勇者ダンが見ているはずでは!? 清楚な自分を心がけてください!!』
『お嬢様! 勇者ダンが見ているはずでは!? 清楚な自分を心がけてください!!』
『お嬢様! 勇者ダンが見ているはずでは!? 清楚な自分を心がけてください!!』
「あ……」
思わず、彼女は心の声が漏れた。今の自分はどうであったのか……? 下劣な言葉遣い、髪型とか激しい動きでぼさぼさ、ダンの気を惹きたいから化粧もしてきたけど汗でちょっと滲んでいた。
「あ、あああああああああ」
「――まさかまさかの大判狂わせ。優勝候補でもあり、魚海拳のミーウが一回戦で敗北。試合前は乙女な少女かと思ったら、それは牙を隠し、ブラフであったのでしょう。試合前から勝負は始まっていたと言うことか!! 本性は清楚とは反対とも言えるバトルジャンキー狂人女子!! 狂人キャンディスの二回戦が楽しみです!!」
「あああああああああああああ!!!」
彼女の怒りで染まっていた赤い髪が、明るいオレンジ茶髪に戻った。だが、反対に顔赤くなっていた。
「や、やってしまいましたわ……」
ぴゅーんと新幹線のように彼女は去って行った。試合会場では狂人キャンディの一回戦突破を称える歓声が響いていた。
◆◆
ウィルは驚愕していた。世界には沢山凄い人が居るんだなぁと思った。キャンディス・エレメンタール、彼は名前を聞いたことも無かった。反対に魚海拳はウィルも知っていた。
ウィルはキャンディスが負けると予想していたがそんな事も無かった。圧倒的とも言える強さで彼女が勝ったのだ。
「世の中広いんだなぁ……」
そう言いながらウィルは次の試合までにトイレを済ませようと会場と少し離れていた。すると若い優しい男性に声をかけられる。
「おや、君は……もしかして、昨日の男子の部で三位であったウィル君かい?」
「え、あ、はい」
「いやいや、感動です。試合拝見しておりました、大変見事であったと思いました。おっと失礼、私の名はカーミラと言います」
「どうも、ありがとうございます……」
(カーミラって、カーミラ商会の?)
カーミラ商会、元はただの平民であるカーミラから始まった商会だ。瞬く間に新鮮な果実、野菜などを流通させ大金を手にした成り上がりの男と言うのは有名だった。
「いやいや、本当に素晴らしかったです。私、感動しすぎて本当に涙が出るほどでした……それでウィル君は誰かに剣を習って居たりするのでしょうか?」
「え、えっと」
勇者ダンに俺とのことは誰にも言ってはならないと言われたのを思い出した。
「いえ、我流です」
「それは益々凄い……えぇ、本当に我流ですか……。それは非常に勿体ない。どうでしょう。私は紹介をやっている身でしてね、様々な剣術の師範や、Sランクの冒険者、魔法のスペシャリスト、などと知り合いなのですよ」
「お、おお! それは凄いですね!」
「そこでなのですが……どうでしょう。私の研究所に来て来ませんか? 強さの研究をしているのです」
「強さの研究……」
「はい、今よりももっと強くなれます。それこそ……勇者のように」
「えぇ! ほ、本当ですか!」
「えぇ、勿論」
「……ちょ、ちょっと考えてもいいですか?」
「えぇ、勿論……、良い返事を期待していますよ」
そう言ってカーミラと名乗る彼は去って行った。
「……勇者ダンから僕は教わってるから……勝手に他の人の指南を受けるのはダメだよね。それは勇者ダンに失礼だし……でも、様々な剣の師範、Sランク冒険者、魔法のスペシャリスト。僕魔法を使えないし、強さの研究所かぁ……行って見たいような……」
「いずれ、勇者ダンみたいにならないといけないし……僕は、もっと強く――」
「――やめておけ」
「え?」
振り返ると見慣れた鉄仮面。そして、重厚な声、ウィルが目標にしている勇者ダンで会った。
「ゆ、勇者様!?」
「アイツはやめておけ……妙な匂いがする。溝のような腐った匂いだ」
「そ、そうなんですか? 優しそうに見えたのですが……でも、勇者様が言うならきっとそうなんですね……」
「あぁ」
「分かりました! 辞めておきます!」
「そうしろ。限られた中でコツコツ修行をする方がお前にあっている。それに色んな技術や指導者を増やせば良いと言う事ではない。一人ひとり考え方、教え方、物事の見方、それは違い過ぎる。俺の教えと、アイツの教え、二つが矛盾をした時、お前は迷うだろう。そして、戦場で迷いがあった時、どうなる?」
「はッ! し、死にます」
「その通りだ。故に指導者を複数、構えるのは俺は好まない。これは俺がどうこうしたいのではなく、お前が混乱をするのを避けるためだ。まぁ、どうしてもと言うなら止めはしないし、好きにすると良い」
「い、いえ! よくよく考えたら不器用な僕が色んな教えを受けるのはパンクしそうなのでやめておきます。先ずは眼の前の最強から写し取れるだけ、写し取る事だけに集中をするべきだと思いました」
「その通りだ。だんだんわかってきたな」
「は、はい! そんなことを言っていただけるなんて嬉しいです!」
「うむ、励めよ」
「は、はい!」
ウィルはカーミラの言葉を忘れた。強さの為に研究所に行こうと思ったが、勇者ダンがやめろと言ったのでやめた。行かないメリット、行くデメリットを表示されて彼は再び歩き出す
◆◆
「うぇぇぇえぇん!! だぁん様ガァァあああ!!」
「落ち着け」
「で、でもぉぉ」
試合に勝ったキャンディに激励を送ろうと思ったのだが何故か泣いてた。どうした? 試合に勝ったのがそんなに嬉しかったのか?
「あ、あれはぁ、わたくしの、ぎふとでぇぇえ、本性ではなくてぇええ」
「性格が変わってしまう恩恵の話なら前も聞いた。いつものお前が普通なのだろう? 今日の起伏が激しいのは恩恵、それは分かっている。俺は分かっているから安心しろ」
「な、なら、泣くの止めますぅぅ」
めっちゃ泣いてたけど、なんとか泣き止んだ。よかった。恩恵で悩むとは……でも、女の子だから世間体とか気にするのかね?
「まぁ、よくやった。次も励め」
「は、はい! 頑張りますわ! そう言えばダン様はカーミラ商会をしっておりますか?」
「知らん」
「ですわよね。よく分かりませんが以前わたくし声をかけられたことがありまして、ようは弟子的なモノになれと言われました」
「そうか。好きにすると言い」
「……止めると思っておりましたわ」
「別に空いた時間をどうするのかは自由だと思うがな」
「そう言う方針なのですわね……まぁ、断りましたわ」
「そうか」
「えぇ、指導者が複数いると教え方は様々ですもの。教え方、物事の見え方、一人ひとり考え方が違いますわ。指導者が二人いて、二つの教えが矛盾をした時、迷いが生まれますもの。迷いがあるのはわたくしは嫌いですの。迷いは人を殺しますわ」
なんか深い事言ってんな。どっかで使おう。
「ふっ、よく分かったな。俺もそれを言いたかった」
「流石ですわ! 敢えて自由にさせて自問自答をさせて、己の最適解を導かせるとは!!」
そんな考えては無いけど……そう言う事にしておこう。
「それと、関係ないと思いますが断った理由はもう一つありますの。カーミラ商会はわたくし以外にも強者に声をかけていたそうなのですが、声をかけらた人は全員強くなったらしいのですわ」
「そうか」
「それは問題ないと思うのですが……声をかけられた全員、カーミラ商会の護衛とか、傭兵みたいな感じになっているとか、全員カーミラ商会所属になってるそうなんですの」
「……そうか」
それはただ単にその商会のカーミラとか言う人が人望が厚いのではないのだろうか? 弟子になれみたいなことを言っておいて、弟子になったら本当に強くなり、更にカーミラの人望も厚いからこの人に一生ついて行こう的な感じなのではないだろうか。
まぁ、どうでもいいか。
キャンディと話した後に鉄仮面を外して、道を歩いているとウィルを見つけた。誰だ? あの話しかけようとしているのは……
盗み聞ぎをするつもりはなかったがちょっと話を聞いてみた。
ふむふむ、ほぇぇえ要するにウィルをスカウトをしに来たって訳だ。昨日のトーナメントで活躍をしたから、興味を持ったんだろうなぁ。
――ウィル、良かったな
自分の事を認めてくれる人が居るってのは嬉しい事なのは俺でも知ってる。それが更にもっと強くなりたいとスカウトを大手の商会がしてくれるなんて、名誉な事じゃないか。
俺も週一しか、見てやれねぇし、お前のやりたいようにすれば良いと思うよ。なんだかんだ、上手くやってる
頑張れよ。俺は
……
……
……
……いや、ちょっと待て。キャンディが言ってたな。声をかけて強くなった奴は全員傭兵、護衛になって商会に取り込まれるとか……。もし、このままウィルがカーミラとか言う奴の人徳に惚れたとしよう。
そうなったら、俺の弟子をやめるとか言い出すんじゃないか?
『勇者なんかより、カーミラ商会の方が強くなれそうですし、カーミラさんは人徳もありますから……弟子辞めますね』
という事になるかもしれない。正直に言えば俺には人徳がない。人望もない。薄っぺらい仮面に皆騙されてるだけだ。いや、騙されてるからこそここまで上手く行っているとも言える。
ここでウィルが本物のスペシャルな教師から教えを受けたら、俺の人望の無さ、指導力の無さが露呈してしまうかもしれない。
『勇者の後継より、カーミラさんに尽くします!』
みたいなのが一番最悪。なんだかんだ、ここまで育てたんだ。勇者を押し付け……じゃなかった後継として。
ウィルは弟子の中でもまだまだだし、マイナー大会で三位に成れるのがギリだが……俺は何だかんだコイツには後継として期待をしている部分がある。
人望が厚そうな男の元に行かせて、勇者の後継の夢が霞む可能性。そして、俺の指導から、カーミラ商会の指導に移る事によって、俺の指導力の無さが世間で拡散される可能性。
後者の場合、他の弟子もヤバい。俺の指導力がない事がばれる→あれ? 俺も勇者の指導受けてるんだが?→そもそも七人に声をかけて七股をしていたこと……それもバレたら大バッシングだ。
……ウィル、お前カーミラ商会の指導、降りろ
「いずれ、勇者ダンみたいにならないといけないし……僕は、もっと強く――」
「――やめておけ」
「え?」
危ない危ない、ちょっとやる気になってる感じがしてるな。
「アイツはやめておけ……妙な匂いがする。溝のような腐った匂いだ」
もう、なりふり構っていられない。何としてもカーミラ商会の魔の手から俺の弟子を守らなければ……。でも、カーミラ商会、悪口言ってごめん!
「そ、そうなんですか? 優しそうに見えたのですが……でも、勇者様が言うならきっとそうなんですね……」
「あぁ」
「分かりました! 辞めておきます!」
よしよし、今のウィルは俺の鉄仮面で騙されている。ここで畳みかけて、二度とカーミラ商会に入らないようにしなければ……
「そうしろ。限られた中でコツコツ修行をする方がお前にあっている。それに色んな技術や指導者を増やせば良いと言う事ではない。一人ひとり考え方、教え方、物事の見方、それは違い過ぎる。俺の教えと、アイツの教え、二つが矛盾をした時、お前は迷うだろう。そして、戦場で迷いがあった時、どうなる?」
誰だっけ? これ言ってたの? 説得力あれば誰でもいいや。
「はッ! し、死にます」
「その通りだ。故に指導者を複数、構えるのは俺は好まない。これは俺がどうこうしたいのではなく、お前が混乱をするのを避けるためだ。まぁ、どうしてもと言うなら止めはしないし、好きにすると良い」
「い、いえ! よくよく考えたら不器用な僕が色んな教えを受けるのはパンクしそうなのでやめておきます。先ずは眼の前の最強から写し取れるだけ、写し取る事だけに集中をするべきだと思いました」
「その通りだ。だんだんわかってきたな」
「は、はい! そんなことを言っていただけるなんて嬉しいです!」
「うむ、励めよ」
「は、はい!」
最後に褒め殺しでなんとか、カーミラ商会の魔の手からウィルを守ることが出来た。ふー、危ない危ない。
やっぱりお前が一番手のかかる弟子だよ。
◆◆
「カーミラ様、以前声をかけたキャンディス・エレメンタールが魚海拳の使い手、ミーウを下しました」
「そうですか……支援を断られたのは残念でしたね。良いサンプルになると思ったのですが……」
「他にも声をかける、サンプルはいらっしゃいましたか?」
「えぇ、数名。ですが、素体のレベルはやはり低い。昨日の男子の部の選手も良いサンプルではありますが……所詮は人間、次元の低い戦いでした」
戦士トーナメント会場から少し離れた場所。とあるベンチの上でカーミラは座っていた、彼の隣には黒ローブの男が立って何らかの報告などをしている。
「そう言えば、昨日、同じくして、資金源である偽勇者ダン教が潰されたと聞きましたが……犯人は分かりましたか?」
「いえ、それが……覇剣士サクラが討伐をしたと言う事になっておりました」
「それはあり得ません。彼は私と同じ、新人類創造寮の中でも神に最も近い
「まさか、本物の勇者が」
「それもどうでしょうか。今や過去の遺物、呪詛王の呪いで体が脅かされているとも聞きます。全盛期ならまだしも、弱っていると噂されている彼が勝てるでしょうかね……ふむ、妖精国に現れた銀髪の戦士の可能性の方が高い」
「……勇者ダンが呪いで弱っていると言うのは本当なのでしょうか」
「恐らくですが、本当でしょう。真・呪詛王とやらが攻めてきたのもその為と聞いています。だからこそ残念でした。全盛期の彼、私なら後1年で超せるでしょう。弱っていない彼と私で戦って見たかった」
「……それは非常に残念でしたね」
「まぁ、私達の目標は古に伝わる、神と魔神。勇者など眼中に入れる必要はないと言えばないのですが……まぁ、いいでしょう」
「そろそろ、また新たなるサンプルを……」
「えぇ、最近集めた一部は使い物にならなくなってしまいましたから……新たなサンプルに眼をかけておかなくては……実験はいくらやっても足りない。神に近づく為には人の手を尽くすしかない、どんな非道の手を使ったとしても」
カーミラは本当に悪い奴だった。
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