第27話 お姫様×3

 アルフレッドが優勝をした。そして、ユージンは準優勝だった。男子トーナメントの全ては終了をしたが、これで大会が終わりと言う事ではない。


 女子の部の大会、そして、優勝者と元Sランク冒険者ドドドのエキシビションマッチが残っているのだ。


 女子の部は明日だが、男子の部、エキシビションは直ぐに執り行われる。


「ゆ、ユージン君、だ、大丈夫?」

「なにがだ?」

「い、いや」



 準優勝をしたと言うのに彼の顔は喜びなど一切なく、クシャクシャになっており怒りに震えていた。


「ぼ、僕は準優勝凄いと思うよ」

「優勝以外は勝ちない。全員敗者だ」

「あ、ごめん」


 ユージンは優勝ではないと納得が出来ないようで顔が激おこ状態だった。


「そう言えばユージン君の焔斬りって、凄くカッコよかったけど、あれも師匠の直伝なの」

「あぁ」

「師匠ってどんな人?」

「それは言う事は出来ない」

「そっか……まぁ、ボクも同じなんだけど……焔斬りってどういう原理なの?」

「俺の師はただ、斬るだけで摩擦による炎を出す。それを真似て、魔法に剣を付与した模倣だ。取りあえず、俺は形から入ることもある」

「確かに形から入るのは大事だよね」



 テッシー、ウィル、ユージンの順番で席に座り、アルフレッドのエキシビションを観覧する。


「あ、ワテは眼が見えへんから、エキシビションの鑑賞ムズイわ」

「え、あ……」

「ウィル、今の笑う所やで」

「そ、それはちょっと、笑えないかな」

「まぁ、魔力感知でやり取りは分かるから、結局鑑賞はするんやけどな」



 テッシーが自身の眼が見ない事を自分で弄るが笑っていいのか分からないウィルは何とも言えない顔をしていた。



「あ、始まるで」



 テッシーが優勝者のアルフレッドとドドドの魔力の昂ぶりに気付いた。ウィルもユージンもその試合に集中をして、観覧に臨む。


 彼等にとって、アルフレッドの動きはまさに異次元とも言えるものだった。魔力の流暢な動き、歴代勇者の開発した魔法、そして編み出した剣術、それらが掛け合わされた完成系とも言える戦いぶり。


「勇者ダンと、アルフレッド君……どっちが強いかな」


 ウィルが思わず、そう口に出した。


「阿呆が、比べるまでもない。勇者ダンだ」


 ユージンが彼の問いに即答をした。ウィルもそれを本当分かっていたのか特に異論を返さなかった。


「勇者ダンを人間の枠組みの強さで測ろうとするのが間違いだ」

「確かにそうかもね」

「アルフレッドは、まぁまぁの強さだが……人間の枠内の話だろうな。アイツの強さで誰かの強さを測る物差しにはできん」

「……せやな」

「そうだね……」



(勇者ダン……やっぱり僕の想定を超えている。そう言えば試合を見ててくれるって言ってたけど、どこにいるんだろう?)


 ウィルがちょっと辺りを見渡すが、その姿は何処にもなかった。後ろに知り合いのバンが居て、その両隣にタオルを巻いて顔を隠している女性が二人。ウィルは勇者ダンを見つけられなかった。



(鉄仮面を被っている人は何処にもいない。きっと、信じられないくらいの隠密の技術で風景に溶け込んでいるんだッ!!)



 まさか、ウィルも真後ろで顔をタオルで隠している女性二人に挟まれているフツメンが、勇者ダンとは思わないようだった。



「私には勝てない……いくら元Sランクでも」

「流石は勇者の血筋を継し者だ。だが、俺はまだ負けんぞ。老いてもまだまだやれる」


 アルフレッドは流水のように剣の先から水を噴射させる。それは蛇のように生きており、変幻自在に闘技場を翔る。



(信じられん。この年齢でここまで自由に魔法が扱えるとは……)


 ドドドの槍が何度退けても、しつこく、まさに蛇のように狡猾に彼にまとわりついた。


(恐るべきは勇者の血。だが、それだけではない。戦いなれている!! この少年は……恐らくだが優秀な師が居るのだろう。王族だから、そう言った専門的な存在が居るのか?)



(魔法は恐らく、歴代勇者の一部だろうが……ふっ、ここまでとは。想定以上だ。まるで嘗ての勇者ダンのようだ)



(俺は昔、剣に全てをかけていた。だが、たった一人の男に剣に自身を打ち砕かれた。それ以降は剣を振るのをやめて、槍を使い始めたが……。上には上が居る者だな)



(勇者ダンよ。見ているか、時代は常に動いているぞ……俺達の予想を超えて、次世代の若者は育っている)



 アルフレッドの強さに驚愕をしながらも、必死にドドドは必死に喰らい付いた。だが、それも数歩及ばず槍を砕いた。



「……俺の負けか」



 元とは言え、Sランクが少年に負けた。


「うぉ、マジか!!」

「元Sランクが敗北とは! これはスクープになるぞ!!」

「流石は歴代勇者の血筋だ」

「これが新時代の若者か」



 ざわざわと会場中が湧いていた。アルフレッドは勝利すると一礼をして、その場を去って行った。


 かくして、男子の部、戦士トーナメントは終了をしたのだった。



◆◆




「ねぇ、リンちゃん」

「ん? なに?」

「この後、一緒に温泉行かない? 近くにあるんだって」

「ふーん、まぁ暇だしいいわよ」

「やった!」



 観戦が終わった後、リンとサクラはバンと別れて、二人で辺りを歩いていた。


「温泉ねぇ、あんまり行ってなかったなぁ」

「でしょでしょ! 折角だしね!」


 リンとサクラが二人で歩いていると、誰かが彼女達に声をかける。


「リン、サクラ……」

「あ、カグヤじゃない」

「カグヤちゃん、奇遇だね」

「……どうして、二人はここにいるの?」



 綺麗な黒髪のショートボブ、青い綺麗な眼が特徴的な少女。勇者ダンと一緒に世界を渡り歩いた武闘家、カグヤがそこに居た。



「僕たちはこれから温泉行こうかなって」

「……どうして、わたしを誘ってくれなかったの? 除け者にしてたってこと?」

「ち、ちち、違う違う! 偶々リンちゃんと会ったから、一緒にどうってなっただけだって!」

「そうよ。別にカグヤを除け者にしようとか考えてないわ」

「ならいい。丁度、わたしも温泉行こうと思ってたから、一緒に行く」

「勿論だよ!」


 女三人で温泉に行くことになった。女湯の脱衣所に入ると、全員服を脱ぎ始める。


 丁度、そのタイミングで他の客の声が聞こえて来た。


「今日のトーナメントの優勝したアルフレッド様、カッコよかったよね! 流石は王族って言うか!」

「準優勝のユージンって子もクールで素敵だったなぁ。勇者ダンの時代は終わりかもね」

「勇者の新時代って奴かもね」



 それを聞いてカグヤの眼がギロっと鋭くなるが、それをリンとサクラがまぁまぁと抑える。


「今日、なにかあったの?」

「戦士トーナメントだね」

「そんなのやってたんだ?」

「カグヤちゃん、知らなかったの?」

「うん、本当に温泉はいりに来ただけ」

「あ、そうなんだ」



 三人共、タオルを体に巻いて女湯に突入をする。体を一通り洗うと湯船につかった。


「ふー……そう言えばリンちゃんは最近、勇者君と会った?」

「……そうね、呪詛王の時でちょっとあったかしら」

「わたし、リンにそれ凄く聞きたかった」



 サクラ、リン、カグヤの順で端っこに集まって談笑をする。カグヤは無機質な顔でリンにグイッと顔を近づけた。


「勇者の顔、見なかった? なんかこう、何かの不手際があって」

「………‥‥…さあ? 見てないわね。いつも通り、安定の鉄仮面よ」

「そっか……それは凄く残念……勇者の顔見たかった」

「そう……そう言えばサクラはどうなの? 一緒に教師やってるんでしょ?」

「うーん、勇者君は教師やってても鉄仮面被ってるから……。素顔は見えなかったなぁ」

「ふーんそうなんだ」(つまり、一番リードしてるのはアタシね!)

「……なんか、リンちゃん嬉しそうだね」

「そ、そんなことないわ!」


 ぺちぺちと、自分のニヤニヤ顔を叩いて、彼女は表情筋を元の顔に戻す。



「さ、サクラはダンと一緒にどんな仕事してるのよ!?」

「え? え、えっとね、偶に公演やったり、講師やったり……時間が余った時は一緒にお弁当食べたりかな?」

「……そうなのね。というかお弁当は仕事なの?」

「違うけど……でも、一緒に中庭で食べてるよ」


 リンが思わず、このサクラは危険なのではと思った。サクラはピュアで、未だに自分がダンを好きだと周りにバレていないと思っている。


「手作りってこと? 教師楽しい?」

「うん! 凄く楽しいよ! 勇者君優しいから、偶に資料とか作るの手伝ってくれたり、授業とかでもフォローしてくれたりするからあんまり大変じゃないし!」

「フーン、そうなんだ……へぇ、良かったわね」

「サクラ……ずるい。羨ましい。わたしも教師やろうかな?」

「い、いや、カグヤちゃんにはまだ早いんじゃないかな? 凄く大変だし! まだ早いかな!」



 無意識に一緒の時間を邪魔されると嫌だなとサクラは思ったのでカグヤの教師進路を拒絶した。



「あ、あのさ、ちょっと気になってたんだけど……勇者君って好きな女の人とか居るのかな?」

「さぁ、知らないわね」

「わたしも知らない」


 そんなの知ってたら苦労しないとリンとカグヤは内心で思った。


「そ、そっか」

「何でそんなこと聞くのよ」

「あ、その……実家の方から言われると言うか」

「実家? どっちの実家なのよ? お城の方かしら? それとも貴族の方?」

「あ、お城の方」


 リンにどの実家なのか聞き返されて、サクラはお城の方の実家と答えた。


「サクラのお城の実家ね……そう言えばアタシ達って全員、どこかしらの姫よね。アタシは妖精姫フェアリープリンセス、サクラは滅国姫ロストプリンセス、カグヤは月姫ムーンプリンセスだし」

「わたしは、ほぼ月とは縁切れてるから姫じゃない」

「あはは、僕は姫としては死んだと思われてるし……」

「死んだと思われてるのに、実家から何を言われるのよ」

「じ、実はさ、王様、つまりは僕の兄からは戻って来て欲しいって言われてるんだ」


 サクラがそう言うと、リンとカグヤはおー、と反応をする。正直どんな反応をするのが正解なのか二人は分からなかっただけだ。



「僕の国は魔王サタンに四歳の時に滅ぼされたのは知ってるよね?」

「あ、うん。知ってるけど、あんた、それを言って良いの?」

「昔の事だし。それに今は復興中だし」

「そう、ならいいわ」

「それで、丁度復興中だから物資が足りなかったり、モンスターとか魔族が攻めて来た時に警備が手薄らしいんだ」

「それは大変よね」

「サクラ、大変、心配」


 リンとカグヤがそれぞれに相槌を打つ。


「アタシの国にも支援するように前に言ったけど……妖精の国も色々大変だし」

「月には親交は求められない……」

「あ、いや、物資とかの支援をお願いしてるんじゃないよ? そこでなんだけど……死んだと思っていた姫が実は生きていた! しかも勇者ダンと結婚した! みたいに、そのしたい、らしいです……」

「「え?」」

「姫と結婚って事になれば、勇者君は国に来るでしょ? 魔族の警備は問題一切ないし。勇者君が居る国ってなれば、他国が親交もとうと支援してくれるんじゃないか、って考えが兄にはあるらしいんだ……こ、困っちゃうよね? ぼ、僕と勇者君が結婚とか……さ。で、でも、ちょっと、考えた方が良いかなって思っても居るんだよね。だ、だって、元とは言え、僕は姫だし……で、でも、なんだかんだ、僕が一番勇者君に近いのかな? な、なんてね? こ、困っちゃうよね?」

「何も考えなくていいわ。妖精国が支援するから。アタシが強く、お母様とかお兄様に言っておくから何も問題ないわ」

「うん。月には何も求められないけど。何かあったらわたしが行くよ」

「え、あ、急にどうしたの? 顔が冷えてるけど……」


 急に真顔でリンとカグヤに言われたサクラはたじろいだ。これ以上はこの話はしなくて良いと、カグヤが新たな話題を出す。


「二人は何歳?」

「「……どうして、そんなことを?」」

「サクラはもうすぐ30、リンは28……わたしは今年で19……うん、やっぱり若い子が好まれると思っただけ」

「「……」」



 カグヤは二人から、冷えた視線を向けられるが何も問題ないと思っているようで話題を更に変えた。



「サクラ、また胸が大きくなった?」

「あ、うん。肩こって大変なんだ」

「わたしも、凄く大変。本当に肩がこる」

「だよね、本当にこれは何とかならないのかな?」

「……」



 カグヤとサクラは胸が大きいが、リンは控えめの大きさなので思わず自分のと二人のを見比べた。


「肩こる……すごく、大変……」

「だよねー」

「……そうねぇ!! 本当に肩こっちゃってアタシも大変なのよ!!! いやー、本当に辛いのよねぇ!!」

「リンがそのセリフを言うのは無理あると思う」

「僕はリンちゃんの方が羨ましいと思うよ。小さい所から大きくはなるけど、大きい所から小さくはならないからさ。一番選択肢あるよね」

「……よろしい、喧嘩よ」



 思わず、極大魔法を五連展開しようかと思ったがリンは止めておいた。



(ダンがフツメンを気にしてた時に、美人のアタシが顔なんか気にしなくていいって言った時……ダンはこんな気持ちだったのね)



 暫くの間、彼女達は会話を続けた。何事も、他愛もない適当な会話だった。最近は待っている調味料とか、新たな魔法が発見されたとか……だが、全員頭の中では全然関係ない事を考えていた。


(サクラとカグヤの話を聞いて思ったけど……多分だけど、何だかんだでアタシが一番リードしてるわ……してるわよね? ダイジョブよね? 年齢とかダンは気にしないわよね? まだまだ見た目は若いし)


(僕が一番勇者君と結婚する可能性高いなぁ。勇者君は結婚するつもり無いって、噂で聞いたけど……手作り弁当とか食べてくれてるし! ちょっとしたアピールは出来てるよね!)


(リンとサクラの話を聞いて、確信した。やっぱりわたしが勇者との一番可能性ある。年齢的には若いし、うん、二人はもうすぐ三十路だし……若い子が勇者も好きだよね。多分だけど)


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