第26話 優勝したのはまさかの勇者の弟子

 ――わぁぁぁあ!!!


 会場中が湧いていた。まぁ、準決勝だからな、当然とも言える。ウィルとユージン一体どっちが勝つのだろうか。


「俺は魔法を使わない」

「え?」

「貴様は魔法が使えないのだろう? 剣だけで向かってくるのなら。俺もそれで向いうち、うち倒すまでだ」

「……ユージン君」



 ユージンが急に舐めプ宣言をしている。ウィルが魔法を使えないから、剣で勝負するしかない。ウィルの剣の腕がどれほどなのか知りたいのだろうか?


 理由はよく分からないが……


「では、ユージン選手対ウィル選手……試合、始め!!」


 試合開始の合図がされると二人は一気に駆けだした。互いに剣を抜いて、振りぬいた。金属音が会場中に響く。衝撃が強いようで二人の髪は揺れていた。


 そこからさらに加速をして、二人は剣を振っていく。


「う、うぉぉぉぉ!! み、見えねぇ!!」

「す、すげぇ、すげぇよ!!」

「おいおいおい!!」


 観客が凄い盛り上がっている。そうか、二人はこんなに観客を盛り上げるほどに強いのか。二人が出会った時より強くなっているのは知っていたが、どの程度の強さの位に居るのかは知らんかった。

 まぁまぁ、強いって事なんだな。いやでも、この戦闘大会がマイナー大会の可能性もあるな。

 結局、あの二人がどのくらい強いステージに居るのは分からん。

 それに隣ではリンがめっちゃモグモグポテト食べてるし。彼女が大して驚いている様子はない。


「どうですか? あの二人」

「そうね……まぁ、強いんじゃない? 何歳だっけ?」

「今年で二人共16歳ですね」

「16かぁ……若いわねぇ、アタシが16の時は――」



 しみじみと虚空を見上げている。何か過去を振り返りながら何かを語っているリンを置いておいて、試合観戦に戻ろう。


「それでアタシはあの時思ったのよ」


 ユージンとウィルは互角の感じで剣戟を繰り広げている。周りの歓声もどんどんヒートアップしている。あ、ウィルがユージンに殴られて吹っ飛んだ。


「なんで、アタシはこんなに弱いのかなって……」


 しかし、ウィルも負けじとユージンを殴り返した。剣と体術の混合スタイルは俺の得意とするところ。普段から二人を修行としてポコポコにしているから無意識のうちに俺のスタイルが身についていたのだろうか?



「それでさ、そんな時――」



 おお、また剣戟ラッシュに戻ったな。



「アタシ、魔王の事で悩んでてさ」



 うーん、そろそろ決着カナ? ウィルとユージンが一度距離をとった。



「ここまでとはな。魔法を使うまでもないと思っていたが……ウィル。これは……俺の剣の師から学んだ、秘技だ。それでお前を負かす」

「僕も……自らの師の魂の秘伝で君に勝つ」

「究極の域に俺が足を踏み入れる一歩にしてやる」



 俺、秘技とかアイツらに教えたっけ? 全然覚えがないんだが……。


「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」



 おおー、二人が咆哮しながら突撃した。ウィルは……あぁ、前、オレのデコピンを勝手に解釈して、覚えたデコピン斬りか。対するユージンは爆炎を剣に纏って大きく振りかぶった。



「デコピン斬りッ」

「焔斬りッ!」



 ドカーンって音がして、試合は終了した。どうやらユージンが勝ったらしい。おめでとう。ウィルもよく頑張った。まさか、3位になるとは思ってもみなかった。

 あとで、褒めて上げよう。


 そして、アルフレッド対テッシー……テッシーが善戦するもアルフレッドの勝利だった。アルフレッドとテッシーが勝負しているときもリンは隣で昔の事を振り返っていたが……申し訳ないが俺は全然聞いてなかった。



「というわけなのよ」

「なるほど」

「まぁ、昔の話だから……でも、今でもアタシはあの時の事を一生忘れないって思ってるの」

「なるほど」

「それでね。あの時、アタシが言いたかった本当の事ってさ」

「なるほど」



 リンの話一割も聞いてなかったと思うから、全然全貌が見えない。申し訳ない。弟子の戦いだったから流石にちゃんと見て上げないとって思ってしまったのだ。

 リンのその話はサクラにでも聞いてもらってくれ。お似合いカップルだしさ。


「あ、リンちゃん」


 ほら、丁度サクラも来たようだ。布を巻いて素顔を隠している。まぁ、伝説の勇者パーティーだしね、のこのこ素顔を出すわけにはいかないよね。


「サクラ、アンタ、どうして」

「いや、居るかなって思ってさ。あ、隣良いですか?」


 サクラが俺に聞いてくる。どうぞと、促すと俺の隣に座った。リンとサクラが隣とは……あ、アルフレッドとユージンの決勝が始まる。



「私には勝てない」

「黙れ」

「私はあの時よりももっと強くなっている」

「それは俺も同じことだ」



 さて、どっちが勝つことになるのかな。そう思って観戦していると


「あの、バンさん」

「おー、ウィルか。三位おめでとう、やるじゃん」

「ありがとうございます」



 ウィルが俺よりもちょっと前の席に座っており、挨拶をしてきた。礼儀正しいなウィルは。


 やっぱりこういう所が良いところ。ウィルの隣にはテッシーも座っていた。



「テッシーも三位おめでとう」

「……ホンマに魔力感知できんからあんま話しかけるを遠慮してくれへん。めっちゃびびんねん。でも、おおきに」


 

 テッシーとウィルが一緒に観戦か。先ほどまで戦っていた、猛者たち。準決勝まで残っていたから周りの観客たちもウィル達に凄く注目している。


「おい、さっき戦ってた奴らだ」

「なるほど。あれが天槍のテッシーか」

「狂犬ウィルも居るぞ」


 何か知らないうちに、二人に二つ名みたいなのも付いてる。まぁ、二つ名は別に驚く事じゃない。俺も良くつけられた。



「へっ、偶々だろ? トーナメントに入った所が良かっただけだ。去年三位の俺からしたら今年は大したことないぜ」



 ウィル達が注目されていることが気に入らない奴もいるようだ。でもさ、昔の実績を持ちだして、現在進行形に結果出してる奴らを貶すってダサくない?



「ねぇねぇ、ウィル君って言うの?」

「テッシー君って彼女いるの?」



 ウィルとテッシーの隣に女の子が座って、逆ナンパみたいな状況みたいになっている……。なんて、羨ましい。イベント起こり過ぎだろ!!


 しかも、ウィルとテッシーに話しかけてくる子は両方美女だ。クッソ、羨ましい。両手に花じゃん!!


「ウィル君ってカッコイイね」

「い、いえ、そんなことは……」

「好きな女の子タイプってナニ?」

「え、え、えっと考えた事もないです……」



 ウィルイケメンだからな……クソ、世の中顔かよ!! 俺が何回冒険者交流会出てると思ってるんだよ!!


 フツメンなのに鉄仮面被って、俺様系キャラやってしまったがために素顔を隠している俺が惨めな気分になって来るよ。


 こんなマイナー大会のベスト4で俺よりモテやがって……俺が世界何回救ったと思ってんねん!!!


でも、ちょっと女の子にモテたからって調子に乗るなよ。ウィルにテッシー。俺は世界を何回も救ってるからな。


 あ、ウィルとテッシーに嫉妬してたら、気づかないうちに試合終わってた。優勝おめでとう、アルフレッド、よく頑張ったなユージン。準優勝でもたいしたもんだぜ。


「ねぇ、バン?」

「なんですか?」

「さっきから心ここにあらずって感じだけど、どうしたの?」


 リンが首を傾げながら聞いてきた。


「いえ、なんでも」

「そう? なんか、前の男の二人を見てたから」

「いえ……その、凄いモテるなって」

「あー、なるほど。バンってもてたいんだ?」

「えぇ、まぁ」

「バン君、意外とモテそうだけどね」


 サクラが俺を意外とモテそうって言って来た。美形にそう言われても慰めにもならないよ。両隣にリンとサクラとか言う美形が居ると肩見せまいな。



「ち、因みにバンの好きな女性のタイプってある?」

「フィーリングの合う人ですかね」

「……それは冒険者交流会用の答えでしょ?」

「リンさん、よく分かりましたね」


 そう、リンの言う通り、冒険者交流会で俺が取りあえず言っている答えだ。当たり障りのないような、良い人っぽい印象を与えたいから必ず、こんな感じの答えにしている。



「本音が聞きたいわ」

「そうですね……息吸ってるだけで偉いって褒めてくれながら、ハグしてくれる可愛い人ですかね」

「……斜め上の回答が来たわ。でも、覚えておくわ。あ、勘違いしないでね? 一般論としてそう言う考えを持っているって人が居るって事を知っておくべきと言う多様性を重視した考えにアタシがなる為に覚えておくって言う意味だからね?」

「あ、はい」



 取りあえず、アルフレッド優勝おめでとう。ユージン準優勝おめでとう。


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