第6話 王への謁見

 クラージュ王はまじまじとジークを見る。

 興味があるという雰囲気だ。そこにプルート神官長が追加でジークについて報告する。


「付け加えて説明させて頂きますと、件の我が国に不法に侵入した者がこの少年ということです」


 再び大臣達が騒めく。

 ほう、と王が呟きジークに問う。


「少年、名は?」

「ジークです」

「出自を聞かせてもらおうか」


 問われるだろうということがわかっていたのか、ジークは落ち着いた態度で答える。


「氏族連合フライハイト、狼族の族長シグの長男です。神官長様の仰る通り、一族から聖女様への贈り物の荷の中に潜み王都まで来ました」


 『氏族連合』とはフライハイトの正式な呼び方であり魔族である5つの氏族が協定を結び、結成されたものだ。

 国としてではなく、自分たちの種族の自由と尊厳を主張し先代の聖女の仲介によってスペルビア王国に認められた存在である。


「ふむ。その理由は?」

「……」


 ジークは王からの次の質問に対しては口をつむいだ。


「言えぬ、か」


「言えないではないだろう、陛下が聞いておられるのだぞ!」

「まさかこんな少年が密入国者だったとは。間者という線も捨て置けませんな」


 軍務大臣ビルゴと外務大臣エアリーズが次々と口にした。

 財務大臣のジュミナスは黙って様子を伺っているようだ。


「……まあよい。聖騎士となった今、自由に越境する権利がこの者にはあるのだからな」


 王の言葉と聖騎士という特別な立場ということで両大臣は黙らざるを得なかった。

 次いで王はアイリスの方を見る。


「次は今代の聖女に話を聞くとしよう」


 アイリスは一礼して王に自らの出自を話す。


「シルフォニア孤児院のアイリスと申します」


「ではアイリス。ジークを自らの聖騎士に任命した理由を聞かせてもらおう」


「彼が悪いヒトではないと思ったからです」


 アイリスは初めてジークと出会った際に、迷子の少女を一緒に助けたことを王に説明した。

 その時に感じたことを嘘偽りなく話す。


 その瞳は真っすぐに王を見ていた。


「なるほど……大いなる意思の導きだったということか」


 ふっと王が笑みを浮かべる。

 王の隣に立っていた宰相トーラスが口を開いた。


「王、そのような判断でよろしいのですか」

「聖女が聖騎士に選んだ者を罰する法など無いのだから仕方あるまい」

「……確かに」


 宰相も王の意見を了承しているようだった。

 だが、黙っていた二人の大臣達が進言する。


「ですが、陛下。今までは聖女の家系から次の聖女が選ばれていました。聖騎士も我が国の騎士団から選ばれていたのです。今回のような事態は異常という他ありません」


「このことが知れ渡れば、今回の聖女と聖騎士に対しての不満や不安、疑心を持つ者達も出てこないとも限りません」


 ビルゴ、エアリーズがそれぞれ意見を述べる。

 それに対しては宰相も口を開いた。


「それに関しては、何らかの対策が必要かと私も考えます」


「ふむ……」


 王もそれは理解しているようで深い息を吐き、アイリスとジークを見つめる。


 その時、アイリス達の背後に見える王の間への扉が音を出して開いた。


 清楚な身なりをした老齢の女性が王の間へと入ってくる。

 すぐ後ろには顔から足の先まで全身を白銀の鎧を纏った騎士が随伴している。


「遅れて申し訳ありません、陛下」

「おお、待っていたぞアーニャ。そしてガーライル」


 王の近くへと歩いてきた老齢の女性はアイリスとジークの顔を見ると優しく微笑んだ。

 

その者達こそ、先代の聖女アーニャとその聖騎士ガーライルだったのだ。

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