第7話 先代聖女からの提案

「はじめまして、新しい聖女とその聖騎士さん。私は先代の聖女アーニャです」


 アーニャは右手の甲に浮かび上がる聖女の証である花の紋章をアイリス達に見えるようにかざす。次いで隣に立つ全身を鎧に包んだ者に左手をかざして紹介する。


「彼は私の聖騎士ガーライルです」

「宜しく」


 アーニャもガーライルも史実の通りだとすると現在の年齢は80歳前後のはずだが、両者とも声に力強さが感じられた。


「初めまして、アイリスです」


 アイリスが挨拶をする。

 ふと隣に立っていたジークを見るとアーニャ達を見て固まっていた。


「ほら、ジーク挨拶しなくちゃ」

「あ、ああ。そうだなっ……ジークです」


 はっと我に返ったジークが慌てて一礼する。


「そんなに緊張しなくてもいいのよ。けれど、それも仕方ないわよね」


 ふふっと口元に手を当てながらアーニャが笑って見せる。アイリスはその笑顔に温かさを覚えた。


「聖女と聖騎士同士の挨拶は済んだようだな」


 両者の会話の合間を見てクラージュ王が口を開いた。


「ええ、お待ち頂いて感謝します陛下」


「先代と今代の聖女達が揃う光景など、そう簡単に見られるものではないからな」


 王にアーニャとガーライルが礼をするのを見て、アイリスとジークもそれに続く。


「さて、今お前たちが来るまでの間にアイリスとジークについて色々と話が出ていた所だったのだ。そこでアーニャ、お前達の意見を聞きたい」


「概要は私からご説明いたしましょう」


 宰相であるトーラスがアーニャとガーライルに先ほどまでの経緯を説明した。

 話の内容を理解したアーニャが口を開く。


「確かに今までは聖女の家系から次の聖女が選ばれてきましたが、それは既に過去のもの。大いなる意思がアイリスを選んだのであれば、それが全てだと私は考えております」


「ほう」


「そして、どんな経緯があれ今代の聖女であるアイリスがジークを自らの聖騎士に選んだのであれば、それもまた大いなる意思の導きなのでしょう」


 大臣達はやはり思うところがある表情を浮かべている。アーニャはそれにも気が付いているようで、そちらに目を移して続ける。


「ですが、アルカディアに生きる者達の中に不安や懸念を持つ者が出てくるのも事実でしょう」


 ふむ、と王は呟く。大臣達も真剣にアーニャの話を聞いていた。


「そこで私に一つ提案があるのです」


 アーニャは目を優しく開き、まっすぐ王を見つめる。


「提案とな。……申してみよ」


「誰からも認められるため、受け入れられるためにはそれ相応の対価が必要となります」


「対価……ですか?」


 アイリスに尋ねられたアーニャは優しく答えた。


「ええ、そうです。聖女と聖騎士とはこの世界アルカディアに生きる全ての者達にとって希望でなければいけません。それにはアイリス、ジーク、貴方たちはそれ相応の聖女と聖騎士たらんとする証を立てねばなりません」


「証を立てる……」


 ジークが呟く。

 アーニャは静かに頷き、言葉を続ける。


「陛下、彼女たちには『試練』に挑んでもらいたいと私は思っています」


「具体的にはどのようなものなのだ、アーニャ」


 試練という言葉に王が反応を示す。

 ここでいう試練というものは恐らく生半可なものではないことを王も話を聞いていた大臣達も考えているはずだ。


「今から60年前、ちょうど人間族と魔族の間で起こった『人魔戦争』の終結の際。私は五つの氏族の長達にそれぞれ異なる試練を託していたのです」


「そんな昔に……してその試練とは一体」


 王が更に尋ねる。

 アーニャは軽く呼吸を整えるとその内容の説明を始めた。


「『試練』とはの本質を見極めるためのものです」


 ガーライルはアーニャの話をただ静かに聞いていた。


「アイリスとジークの二人には、これから『巡礼の旅』をしてもらいたいと私は考えております」

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