7日目:水の都
ざあざあと水の流れる音で目が覚めた。母さんが洗濯でもしてるのかと一瞬思ったけどずいぶん音が大きい。というかそれ以前にここは家じゃないし、今母さんは近くにいない。
寝ぼけ眼をこすりつつ体を起こすと同じく布団の上でぼんやりしていた明日香と目があった。しばらくぼーっと見つめ合って何かの拍子に明日香がはっとして顔を真っ赤にして目をそらした。寝癖でぼさぼさになった髪を手でぐしぐし直して顔もごしごしこすってあくびをひとつして、それからもう一度ふりかえっておはようシュウとにっこり笑ってみせた。なんなんだ今の行動は。首をかしげながら窓の外をカーテン越しに眺める。明るい。もう朝か。太陽の光が漏れているように見えるがあれは街の昼照明だ。
適当に自分の
「どこ行くの?」
「何だか水の音が大きいから見に行ってみる。昨日って雨降ってないよな」
「何言ってるのシュウ。ドームの中で雨が降るわけないじゃん」
きょとんとした顔で返されてああそれもそうかと自分に呆れて苦笑いして頭を
ドカンと大きな音を立てるのも構わず部屋を飛び出して玄関に走り戸を吹っ飛ばす勢いで外に出た。昨日来た時と何も変わらない風景。階段を下りてみると最下段から白黒タイルに足をおろしたところでピチャリと音がした。ピチャリともう片方の足もタイルの上におろすと両足から
上を見上げるとドームの屋根が見える。明日香が言った通りこんなところで雨が降るわけが無い。じゃあこの水はどこから来たんだ。
「修徒さん! よかった、まだ外出していなかったんですね!」
ロングスカートをびっしょり濡らして誰かがこっちに走ってくる。水蒸気でかすんで結構近くに来るまで手を振るその人が
「今他の滞在者の方々に脱出の呼びかけをしてまわっていたところです。早く他の方と一緒に脱出してください」
「ちょっと待ってください何が起こってるん」
「知りません」
質問を完了しないうちに横を通り過ぎて階段を駆け上がっていく。追いかけて玄関を抜け部屋に戻る。慌ただしい空気を感じ取ったのかまだ布団の上ながらみんなもう目を覚まして起きあがっていた。
「待ってくださいっ、えと、脱出、脱出ってどこから脱出すればいいんですか? 誰か案内してくれないんですか?」
「夏輝は要救護者の救出にあたります。千秋は避難の呼びかけにまわっています。あなた方の道案内は冬人に一任します。叩き起こして構いませんから冬人に頼んでください」
早口に言い並べて出て行く。乱暴に戸が閉まる音を聞きながら周りの布団に目を配って白い布団の色にとけ込むように白いカッターシャツを着た冬人さんがすやすや眠っているのを発見した。
「おい修徒、何があったって?」
公正に肩をぐいと引き寄せられる。僕だって何が起こってるのかよくわからないんだけど。でも早くどこかに移動しないといけないのはわかっている。どう言えばいいのか思いつかなくて答えられずに冬人さんに手を伸ばす。
「答えろよ、何なのさ脱出って」
「避難と聞こえたが何から逃げねばならんのだ。わかるように説明したまえ」
「また内乱なの?」
「戦争でも始まるんじゃねえだろうな」
「おい答えろよ修徒」
みんなが周りに集まってきて冬人さんを起こす邪魔になりだんだんイライラしてきた。僕だって知りたいよ何で水がたまってきてて逃げろって言われてるんだか。自分でもわかってない事を説明しろ説明しろと騒がれてさらにイライラする。何なんだよ何でみんな自分で外に行って自分の目で何が起きてるか見て来ないんだよいい加減にしろようっとうしいんだよ邪魔なんだよ
バンッ!
大きな音がして一斉にそっちを振り向いた。居間の入り口の戸をぶん殴ったままの格好で
「……外、見る」
開いた戸の先を指差す。公正たちはお互いに顔を見合わせてそろそろと立ち上がりぞろぞろと部屋を出て行った。
「……」
一気に静まり返った部屋に取り残されてはーっとため息を吐いた。
「ごめん。ありがとう」
「別に。うるさかったから」
質問攻めから解放されてようやく冬人さんを揺り起こす。むにゃむにゃと眠そうに何か寝言を言いつつ寝返りをうって僕に背を向けて起きあがる。うーん、とものすごく気持ち良さそうにのんびり伸びをしやがった。
「修徒! 水、水が!」
「外が海になってる!」
「このままたまってきたらここ沈むんじゃねえの?」
「逃げねえと」
「どうやって逃げんだよ、ここはそもそもが海の底なんだぞ」
どかどかとすごい足音とともにみんなが戻ってきた。状況は把握してもらえたようだ。
「だから春香さんに脱出してくれって言われたんだよ。で、冬人さんが道案内してくれるん……」
言いかけてちょっと自分の言葉に不安を感じた。何なんだろうとたった今の発言を頭の中でもう一回リピートしてみて顔に黒々と縦線が入った気がした。
「冬人さん。アクア・チェスからの脱出方法って、……知ってます?」
「んー? 知らないよー? どうしたのー? お出かけー?」
「……」
……やっぱりかっ……! 一同揃って頭を抱えた。
仕方ないのでとりあえず冬人さんを引っ張ってみんなで外に出る。階段を下りてタイルに足をおろし足首まで水につかって靴の中に水が浸入し一瞬思考が停止する。水が冷たかったからというよりその深さにひやりとして。さっきよりずっと水量が増えている。
「わー。プールだプールだー! 泳ごー!」
「プールだとか言ってる場合じゃないですよ。早くアクア・チェスを出ないと僕たち溺れて死にます」
「大変だねー」
もうじっとしてる場合じゃない。水が流れてくる方向に走り出す。
「おい待てよ修徒。行くあてあるのかよ」
「無いけどじっとしてたらそれこそ沈むだろ。だから出口を探して、」
「だから待てってば。何でお前はさ」
「僕が何だよ。公正だって脱出方法知らないくせに」
「知ってる知らないの話じゃなくてだな」
「じゃあ邪魔するなよ」
パンッとどこかで高い音がして視界が一瞬右にぶれた。はたかれた右頬がひりひりしてきてさすりながら公正をにらみ返して左手でみぞおち狙いでげんこつを突き出す。手で止められて足払いをかけたらその足で逆足払いをかけられて僕が転倒してうつぶせに水に突っ込む形になった。水を飲みそうになって呼吸をしそこなった所を助け起こされる。おとなしく立たされてもう一度公正と向かい合う。
「ひとりで突っ走るな。お前が
今〈力〉が同関係あるのかさっぱりわからず首をかしげて数秒、公正の〈力〉が物探しだったことを思い出した。
「あ。……あー……。ごめん……。……出口、わかるのかい?」
「一応。数カ所巨大ポンプが外部とつながってる。後の問題は、ここを出ても水中ってことだ」
「それならきっと大丈夫だよ。泳げない人手ぇあげて!」
明日香の号令にみんな黙って顔を見合わせる。泳げない人はいないから水の中に出ることになってもとりあえずは大丈夫。何を心配してるんだ公正。まさか公正、泳げなかったりしないよな?
水位がさらに上昇してきたので一番近いポンプを目標に水の流れにそって歩き始めた。身長の低い
「おーい、このみんなこの
発見したのは我輩だ我輩の方が偉いのだと
来た道をちょっと戻って見つけた店をのぞくと金だらいと桶あわせてちょうど人数分見つかった。お店の名前は読めなかったけどたぶん金物屋かなにかだろう。この状況だし仕方ないしと自分に言い訳して金だらいに乗り込んだ。結構ふわふわと揺れるがちゃんと浮く。さっそく水面を滑りだした。
昨日子も降ろせ降ろせと騒ぐ縁利をぼちゃんと濁った泥水の中に落として自分の桶に乗り込んだ。予想通り曹と氏縞が金だらいをめぐって喧嘩を始めたが今そんなんやってる場合や無いでえと今日破が叱りどれを使うかは公正が指示して収束させた。明日香と昨日子、曹、氏縞、冬人さんは木製の桶、僕と公正と今日破、それから喜邨君は金だらいに腰を下ろした。人数分あった気がしたけどひとつ足りなかったらしく縁利と栄蓮は一緒に同じ金だらいに乗っていた。
「おー。らくちんだ。さすが俺だな感謝しろよ。この俺が金物屋を見つけなかったら今頃体力を水に流されながらちゃぷちゃぷ歩いてたんだからな」
「何を言う。我輩が見つけたのだとさっきから言っているではないか。他人の功績を盗むとはなんと愚かな」
「はいはい金物屋を見つけたのは曹だけどこの金だらい類を見つけたのは俺様だ。曹、お前はトンカチやカナヅチでこの洪水を乗り切るつもりだったのか? それこそ愚かだろ」
「金物屋を我輩が見つけなかったら貴様は金だらいなど目に入らなかったに違いないぞ。貴様は視野が狭いからな」
水に流されて金だらいはすいーっと舟のように進む。建物の壁を避けるため流れてきた細い角材(たぶんさっきの金物屋の商品)で
バス停のベンチの上で立ち往生している人や泥水に流されてきたのだろうか住宅に引っかかった流木とすれちがった。それがその人の〈力〉なのかふわふわと空中を浮いてどこかを目指して飛んでいくスーツのおじさんともすれ違った。途中、郵便配達車の屋根の上でべそをかいていた女の子を釣り上げていくのを見た。
「おい修徒。こっちだ」
公正にぐいっとひっぱられて進行方向が微妙に変わる。公正の金だらいも僕の方に少し近づいて進路を変えかけて急いで角材を水の中に突き刺して水の流れの分かれ道を右に行くようにする。水の流れが思ったより強くて左に押し流されそうになって思い切り角材で水の底を押したら勢い良すぎて右にいた公正のたらいに衝突してさらに波の上をぽんぽんとバウンドした。公正はたらいから投げ出されて水に落ち、たらいだけ流され始めて慌てて泳いで追いかけ縁をつかむ。
「何すんだお前。殺す気か」
なんだ、泳げるのか。つまらない……。溺れてしまえなんて思っちゃいないけどさ。いや本当に思っちゃいないけどさ。
そういえば曹と氏縞がいないなあと思ったら少し先で桶舟競艇をやっていた。流木の枝で舵をとったり漕いだりしてちょっと楽しそうだけど船が桶なのであんまり格好良くない。遭難者がやけくそになってどうせ流されるなら速く流されてしまえと漕ぎまくってるみたいだ。というか実際そうなんだけど。喜邨君はだいたい予想してたけど船酔いを起こして金だらいの端にしがみついている。重い喜邨君を載せているためただでさえ深く沈んで底を地面にこするような音が時折するぐらいなのに喜邨君が端に寄りかかるせいでアンバランスになって今にも転覆しそうだ。底が地面に当たるたびに上下にこつんと振動してさらにくるくると横に回転していて見ている僕が酔いそうになった。
「うわああああああああああああーーーーっ??!!」
突然叫び声が聞こえて振り向くとさっきまで流れにそって漕ぎまくっていた遭難競艇選手約二名が今度はこっちに向かってすごい形相で漕ぎまくっていた。川下りって往復競技だったっけと一瞬思ったけど明らかに競争してる感じじゃない。何か危険な生き物でもいるのかもしれない。前の方に角材を突き刺してブレーキをかけながら近づいてみようとして角材の先が水底を滑った。ちょっと待てよブレーキかからないぞ。流れが強すぎて逆にどんどん加速されてるんだけど。他の人に助けを求めようと思ったけど公正も明日香も昨日子も冬人さんもどんどん流されて角材で多少減速できる僕を追い越していった。後ろから喜邨君と縁利、栄蓮の舟にぶつかられて衝撃で角材を手放してしまい僕も一気に加速する。流される数メートル先に水面が無い。……滝だ……!
「わっ馬鹿か貴様らこっちに来るな危険だ……というか我輩を落とす気か貴様っ!」
「無茶苦茶言うなよ曹! 俺だって落ちたくないから必死で漕いでるんだろうが! 俺の枝が当たったぐらいで焦るなんてお前もたいしたこと無いな小心者!」
「曹! 氏縞っ!」
口論している場合か、言う前に崖の端に差し掛かり二人の姿が消えた。続いて公正、今日破、昨日子、冬人さんとどんどんのみこまれていく。
「明日香、つかまれ!」
水音に負けそうになりながら声を張り上げてすぐ近くの桶を引き寄せて手を伸ばす。すぐ飛び込んできてくれると思ったら即座に桶をつかんだ手を引きはがされて、さらに器用に僕のたらいの後ろに回り込んで思い切り押された。
「ちょっ、明日香何すん……」
言葉の途中で視界がぐるんと上を向きそれと同時に一瞬の浮遊感、そして重力にぐいっと引っ張られて一気に落下した。
「うわああああああああああ!!」
ドボーン、とくぐもった音が聞こえて息が詰まった。徐々に落下が遅くなりふわりと止まった。耳がきいんと痛くなるような静けさの中薄目をあけると青くきらきら光る水の中の少し離れた場所に僕がさっきまで乗っていた金だらいが沈んできていた。水の底は見えるがまだ深い。それなりの距離を落ちたらしく水面までの距離もかなりあった。金だらいを回収しようと平泳ぎ式にひとかきしたら目の前に大量の泡と一緒に巨体が降ってきた。きらきら光る水泡を振り払ってそれが喜邨君だと確認する。真下に居なくてよかった。タイミングが悪かったらこの巨大な鈍器をくらっていた。息苦しい。先に行こう。ぐいっともうひと掻き、水を蹴って水面を目指す。ぷはっと息を吐いて空気を肺に吸い込んで深呼吸。顔をぬぐって目を開けるとみんなずぶぬれの状態で桶や金だらいに乗り込んでいる所だった。浮かんできた喜邨君と衝突しそうになってあわてて避ける。さっき自分の金だらいが沈んでいったあたりに行ってもぐってみる。さっきよりもう少し深い所まで沈んでるみたいだ。早く取らないと。息を止めてばたばたと足を動かすけどなかなか進まない。足にひれがほしい。
ざぶん、と上の方で音がして見上げるとさっきの喜邨君より小さめの泡の塊が発生していた。縁利と栄蓮かなと見ていたらもう少し離れた他の所に2つ新しく泡の塊が発生した。たぶんあっちが縁利と栄蓮だろう。と、いうことは。
真上の泡が消えるまで見ていたらうずくまった体勢の明日香が現れた。しかも水圧でスカートが派手にめくれて白いパンツが丸見え、いや柄があったかもしれないけどそれを見たせいでたった今肺の中身をぶちまけてしまって酸欠状態の僕にはそんな余裕が、じゃなくて僕は女子のパンツをじろじろ見るような変態じゃないから……誰に言い訳してるかわからなくなってきた。ごめん明日香。僕は何も見てない。
酸欠で頭がくらくらするけど今水面に出る勇気は無いのでさらにもぐって金だらいをつかむ。上昇しようと思ったけど浮き袋として使える肺に空気が入っていないせいかじたばたすればするほど少しずつ沈み始めた。パニックに陥ってばたばた手足を振り回すとさらに沈んで意識が遠のいた。やばいやばいやばいこの際公正でもいいから助けて……!
まわりにある液体を気体と誤認識して吸い込みそうになる。肺が窮屈になってそれを解消しようとエラも無いのにそれを吸い込め吸い込めと僕の意思を無視して脳が要求して体が勝手に
……。おい。何やってんだお前はと他人を馬鹿にするものすごくいらつく目をしたくそ公正が脳裏に浮かんだ。何やってんだ〈力〉を使えよそこは。
体に力を入れて直方体が水の底からのびてくるイメージを送る。一瞬タイムラグがあって、勢い良く伸びてきた直方体が一気に僕を水中から空中に打ち上げた。苦しさのあまり〈力〉の加減をミスったらしい。空中をしばらく舞ってからだれかの金だらいに落っこちてそのふちでガオンと頭を打った。
「……何やってんだお前は」
降ってきた呆れ声に思い切り顔をしかめる。よりによって公正の金だらいかよ。
円筒状に中をくりぬかれた巨大な岩の中に居るみたいだった。井戸の底、という言い方の方が正しいかもしれない。ドームの天井がまるくぽっかり開いた穴の先に見えていて、おそらくさっき僕たちが落ちてきた所だろう穴のふちの一部から大量の水が滝になってごうごうとこっちに降ってきていた。
さて、と腕まくりしようとして半袖だった事に気がついた。気合いが入らないけどそのまま水の底に向かって手のひらをかざしたら公正に止められた。
「待て。そこの排水溝から出よう」
「ここから出るのはやめよう。そんな溺れるかもしれない事しなくても、昨日ここに来たときに通った上側の穴から出ればいいだろ」
「お前さ、その穴がどこにあるのかわかるのか? それに穴が見つかったとしてもそこまで直方体伸ばす集中力が無いだろ」
「やればできるって」
「喜邨一人降ろすだけで集中力きらしたくせに」
ぐむう、と黙って絶壁の頑丈そうな鉄格子のはめられた黒い穴をにらむ。水はそっちに引っ張られて吸い込まれていく。確かにここからなら出られそうだ。出た先で窒息してこの世も脱出しそうで怖いけど。
鉄格子に昨日子が近づいてそっと手を触れる。一瞬の間があってドン、と何かの爆発音のような音がして鉄格子にヒビが入り、粉々に砕けて流されていった。鉄格子でせき止められていた流木やら空き缶やらその他いろいろなゴミもあっという間に見えなくなる。僕らを押し流す力も一気に増強してぐいんと穴に引っ張り込まれる。
誰の声だかわからないけど前方からものすごい悲鳴が排水管の壁で反響してきこえてくる。まるで遊園地のジェットコースターだななんて最初のうちは余裕面して壁面に手を伸ばしてみたりしていたが外の光が入らなくなって真っ暗で何も見えなくなった瞬間に急に恐怖感に襲われた。気がついたら波やカーブで金だらいが上下したり傾いたりするたびにわあわあと声をあげていて公正にうるさい黙れと金だらいの底に頭をおさえつけられた。
突然さっきまで空気だった所が水になって息がつまり、体がふわりと浮いた。公正の手が頭から離れとたんに金だらいも見えなくなり勢い良く流されてあっというまに自分がどこにいるのかわからなくなった。水流にもまれて肺の空気が押し出されそうになる。負けるものかと鼻と口を塞いで流れに身を任せた。耳に水が入ったのかピイイイインと耳鳴りがする。どこをどう流れているのか全然わからない。
重たくてやわらかい物に押し付けられたような感覚で押し流しが急に終わった。そっと目を開くとそこはもう明るくなっていた。無事に外に出られたんだ。振り返ると真っ黒な穴からゴミや流木と一緒に喜邨君や縁利や栄蓮たちが吐き出されてきていた。最後に冬人さんが吐き出されてきて上を指差す。僕もさあ水面へと思って「行こう」つい口を開いてしまいそこから水が浸入してきて咳き込んだ。しまった。ごぽこぽと気泡が漏れて次々に上っていく。水中だというのに咳が止まらない。さらに水を吸い込んでしまい肺が重く息苦しく、もがくが体は浮かび上がるどころか底へどんどん落下していく。待って、上に行きたいのに何で沈むんだよ。っていうか誰か気づいて。助けて。視界に人影を探すが泡にまみれて誰も見えない。水が重い。うまく掻けない。だんだん力が入らなくなる。視界がぼやけて暗くなる。一瞬誰かが近くに居た気がして閉じかけた目をあけたがもう何も見えず、まぶたが落ちた。くそ、足うごかない……。だれか、たすけ……。
ピイーーンと嫌な耳鳴りが、暗闇にずっと響いていた。
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