4日目午前:異郷の家族

 しん、とした静けさの中にグオッグオッというくぐもったヒキガエルみたいな鳴き声が森の中に響いている。小さな虫の鳴き声も聞こえる。少し風があるのだろうか、さわざわと葉の擦れ合う音も聞こえてくる。

 のそのそと起き上がりウロからい出るともう外はかなり明るくなっていた。木々の隙間から日照装置の光が差し込んでいてまぶしかったので手のひらでひさしを作って周囲をながめた。誰もいない。っていうか動物が見当たらない。鳥すら飛んでいない。

「おはようございます、修徒様」

 突然目の前に真っ黒なローブのフードをかぶったきれいな女の人が現れたので思わず悲鳴を上げた。クリス、頼むから前から近づくかまたはもうちょっと足音をたてて近づいてくれ。心臓にわるい。

「申し訳ございません」

「あー……。いや、それはもういいけど。とりあえず敬語やめてくれよしゃべりづらい」

「申し訳ありませんがこのようにプログラムされているもので。その指示に従う事はできません」

 ……そんな事までプログラムされてるのか。製作者に会ってみたい。

 クリスは僕の鞄から上着を一枚取り出して僕に手渡し、鞄を木の枝に引っ掛け直す。そして僕の準備が整うのを待つ。

「アンドロイドはどうして死にたがっているんだい?」

 僕の質問にクリスはうーん…と少し困った顔をして

「他のアンドロイドはおそらく修徒様とそのお仲間さんを止めようとあの手この手を使ってくるでしょう。けっして死を望んでいるわけではないのです。私も、死を望んでいるわけではありません。私はただ、終わりが欲しいだけなのです」

「それ同じだろ。終わりと、死と」

 クリスは何も答えずに森の奥へと歩き始めた。僕は慌てて鞄を木の枝から外して背負い、追いかける。足下の草がちょっと邪魔だ。

「なあクリス、じゃあクリスは何で……終わりが欲しいんだい?」

 答えるためにクリスが急に立ち止まったのでちょうど追いついた僕はクリスの背中に激突した。

「……ご存知のように私たちは改造された『元』人間です。やる事なす事全て完璧にこなします。歳はとりますがシステムが暴走しない限り仕事に支障の出るような機能の変調はありません。死ぬ事もありません。眠ることも、食事をする事も必要ないのでできません。ですが、」

 クリスは一度そこで言葉をきり、ぶつけた額をさする僕を振り返り平謝りに一応謝って続けた。遅いよ謝るの。

「ですが私は覚えているのです。人間だった頃の事を。もう一度人間に戻って食べたり飲んだり眠って夢を見たりしたいのです。そして、この長い長いアンドロイドとしての生を終え、人間として人生の終わりを迎えたいのです」

 よくわからない。

「修徒様が信じてくださればそれで私は良いのです。私はただちょっと、自己満足したいだけなのですから」

 足下のうっとうしい草むらが途切れた。獣道へ出たらしく、草を分けるように細長く森の奥へ一本の茶色い線が続いていた。森の中は薄暗く、グオッグオッ、と起きたときに聞いたようなどんな生き物が発しているのかわからない鳴き声が聞こえてくる。

「皆さんは首都で合流する予定になっております。今からそこへ案内させていただきます」

「首都までどのくらい時間かかるんだい」

「そうですね……だいたい昼過ぎぐらいまでかかるかと。近道を選びますが」

 答えながら頬をひっかく。微妙に目線をそらして何時ぐらいに着くかはっきり言えませんと動作から伝わってくる。やっぱり普通の人間にしか見えない。

「クリスって本当にアンドロイドなのかい?」

 クリスは僕を振り返り、でもまたすぐ前に向き直ってそのままローブの袖から真っ黒な拳銃をするりと一丁取り出した。意外なものの出現に驚いて立ち止まった僕を気にせず銃口を手のひらに押し付けて何のためらいも無くひいた。

 ぱん。

 軽い発砲音の直後にぐしゅっと嫌な音がしてクリスの手に大穴があいた。そこからどぼどぼと赤黒い血があふれてこぼれ、地面にとろりとした血だまりをつくる。

「心配はいりません。すぐにふさがりますから」

 穴の開いた左手をさっと振ってしばらく待つと、一度血が止まり、次の瞬間穴の周囲から茶色いオイルのような液体がばっと吹き出しそのまま貼り付くように穴を塞いだ。クリスがそこを右手でひと撫ですると後も残さず穴はきれいに消え去った。

 さっき開けた口を閉め損ねて開けたままぽかんと穴のあったはずの手のひらを見つめる。クリスはその口に、どこから出したのがリンゴを突っ込んだ。

「ふがっ! ふぁふぃふふゅんふぁふょ!」

「朝食です。そういえばまだだったのではないかと思いまして」

 朝食は確かにまだ食べてなかったけどまるごと口に突っ込まなくてもいいじゃないか。やっとのことでリンゴを口から外して頬をさする。思い切り引き延ばされてひりひりする。口に入れるなら洗ってからにしてほしい。それ以前にまず食べやすい大きさに切ってほしい。睨む僕の視線にクリスは何か気づいたらしく、あ、と声を出してポケットから小さな金属の部品をとりだしてその辺に生えてた草できれいにきゅきゅっと拭いてさっき手のひらを打ち抜いた拳銃に装弾していきなりこっちに向けて、え、ちょっとまてちょっとまて何考えてんだクリス!

 どこん。びしっ。

 銃弾はストレートに僕が持っているリンゴを貫通し、ついでにちょうど僕の後ろの木の陰から飛び出した耳の長いピンク色の動物(うさぎ?)をしとめた。手の中でリンゴが砕け、うさぎがその場にばったり倒れる。

「昼食の材料にしましょう」

「……」

 うさぎのような生き物を拾い上げて大きな木の葉に包み、ローブのフードにいれる。僕はだいたい食べやすい大きさに割れたリンゴを口に入れた。しゃりっと音がしてじゅう、と果汁が口の中ににじみ出る。おいしいリンゴだ。もっと普通の方法で小さくしてほしかったけど。

「……クリスは……銃を使うのがうまいな……」

「お褒めいただき光栄です。アンドロイドですから、当然ですけどね」

 先を歩くクリスに続いて薄暗い森に足を踏み入れる。グオッグオッという謎の鳴き声と、僕とクリスが踏んでザクガサ騒ぐ枯れ葉以外に音は無く、森はしんとしずまりかえっていた。頭上の木で光が遮られて進めば進むほど暗くなって足下もよくみえなくなってきた。木の根もどこにあるかわからなくてもうちょっとで足を引っかけてこけるところだった。手探りで鞄の中の懐中電灯を探したが奥の方にあるようでうまく取り出せない。あきらめよう。

 グオッグオッ

 突然耳の近くでふくろうにしてはものすごく低音の鳴き声がして思わず立ち止まった。鳴き声はグルグググルッというさっきとは別の鳴き方になり、さっきまでは一カ所から聞こえていたのがあちこちから聞こえ始めた。そしてどんどん鳴き声の数が増えていく。

 僕の唇にクリスの人差し指があたる。

「赤帽鬼たちが警戒しています。しばらく静かにしていてください」

 目の前を一瞬小さな赤いものが通り過ぎた。直後、その一匹がピリッと鳴いた。騒がしかった赤帽鬼たちの鳴き声が急にやみ、森は一気に静かになった。

 息をひそめて周りを見渡す。何の音も聞こえない。自分の心臓の音が森の闇に響いているような気がする。

 ずっと右足に体重をかけていたのでいいかげんだるくなってきて左足に体重を移した。そっと、絶対に音を立てないように気をつけたつもりなのに踏んでいた草とその下の土が擦れ合ってじゃりっと音をたててしまった。

 周囲の木々の葉を切り裂いて赤い帽子の小人がとんできた。握りこぶしより少し大きいぐらいの身長。小さなほそい剣を逆手に持って一気に僕の顔面めがけてすっとんでくる。鋭い剣は明らかに僕の喉を狙っていて、う、動けない。足に力が入らない……!

 キュイーン。

 もうすこしで斬りつけられるというところでいきなり僕らの周りの地面から円を描くように透明な壁が出現してまるで強化ガラスのように赤帽鬼をはじきとばした。そのまま壁は上にのびてドームをつくる。はじき飛ばされた赤帽鬼はそのまま宙を数メートル飛んで木の枝に衝突し、その下の草むらに落っこちた。他の赤帽鬼は次々に僕らの入ったドームに襲いかかり頭上はどんどん赤い帽子をかぶった小人で埋め尽くされて行く。長い白髪が帽子からはみ出して見えている。顔はしわくちゃでみにくいけど赤帽鬼が灰色のマントじゃなくて赤い服を着ていたらサンタクロースそっくりだ。あ、ひげもない。

 サンタクロースもどきたちはそれぞれ持っている剣とその鋭い爪でがりごりとドームの表面を削り始めた。集団で一カ所を集中的にがりがりやるのであっという間にそこだけ薄くなって行く。ついに小さな穴があいた。サンタクロースもどきのうち一匹が剣を引っかけてさらに穴をひろげようとする。グルグルと笑い声をあげながら。

「修徒様」

 クリスが急に肩を引っぱりバランスを崩してしりもちをついた。クリスがドームの内壁に手を触れる。

 バシュッ!

 ドームが一瞬光ったと思ったらドームに引っ付いていた大量の赤帽鬼たちが黒焦げになって一斉に滑り落ちた。今の一発で感電か何かして死んだらしい。全ての赤帽鬼がドームから滑り落ちるとドームはシュン、と跡形も無く消え去った。

「お怪我はありませんか、修徒様」

 怪我は無い。っていうかさっきのドームはいったい何だよ。

「プロテクター、というアンドロイドのオプション機能です。ボタンひとつで起動してくれるのでとても便利ですよ」

 クリスがローブの右袖をまくった。袖で隠されていた腕にはテレビのリモコンのような機械がネジや金具で固定され埋め込まれていた。機械の周りの皮膚は茶色く変色している。ボタンは他にも色々あったがアルファベットで書かれていて読めなかった。筐体と同じ少し錆の混じった鼠色のボタンの中にひとつだけオレンジ色のボタンがあった。

「…このボタン、何だい?」

 クリスは何か少し考えて、スイサイドボタンですとだけ答えた。どんな機能なのかは説明せず、袖をもどして歩き始める。っておい。

「そっちは今来た道だけど」

「あれ? そうでしたっけ? ……方向はこっちであっていますよ」

 おいおいおい急に不安になってきたよ。まさか方向音痴か。アンドロイドは失敗しないっていうのは嘘か? ついて行って大丈夫かこれ。けど置いていかれたら僕はどこにも行けない。それは困る。追いついたところでクリスがまた急停止しやがったが今度はぶつからずに済んだ。何で止まったのかと先を見ると獣道が左右二手に分かれていた。クリスは真顔で振り向き

「首都ってどっちでしたっけ」

 ……ずいぶんと頼りない案内人だな。案内人が道訊ねてどうするんだよ。首都がどっちかなんて知るわけないだろが。

 クリスはしばらく首を傾げて考えた後こうなったら最終手段ですとつぶやくとローブの中から抜き身の刀を取り出して地面にたてて手を離した。刀はしばらく地面に垂直にバランスよく静止してゆっくりと右の道の方に倒れた。

「首都はこっちみたいです!」

 どんな道案内だよ! 占い級だよその信用度の低い道案内!

 刀をローブにしまい、あきれて何も言わない僕を置いてクリスはさっさと右の道へ入って行く。待て。置いて行くな。そして当たり前みたいに刀の倒れた方向に行くな。

「修徒様。お仲間さんがお待ちです。急ぎましょう」

 はあ、とため息をつき、僕はクリスを追って雑草の生い茂る獣道に分け入った。今の僕にクリスについて行く以外の選択肢は、残念ながら……無い。



 右の道は緩やかな上り坂で、傾きとしては歩きにくいことはないけれどあちこちに小石がころころ転がっていて、まるでさあうっかり踏めそして滑って転んで下まで滑り落ちてしまえと言っているようだった。獣道の両脇の背の高い草が足下をさらに見にくくしていてあまり速く歩けない。おっと危ない。木の根に足をひっかけてこけそうになった。

「修徒様ー! まだですか!」

 だからクリスが歩くのはやすぎるんだってば。どうして石踏んづけそうだからゆっくり歩こうとか思わないんだよ。アンドロイドだからそういう失敗は絶対に発生しないって言うんだろ。せめて僕への多少の気遣いを見せてよ。

 草をかき分け足に当たった小石を蹴飛ばして必死で進んでようやくクリスに追いついた。

「ちょ……ちょっと休憩しないかい、クリス…」

「もうすぐ山頂ですから。山頂に着いたらお昼ご飯にしましょう」

 遠足みたいな言い方するけどな、もう何時間も歩いてるぞこれ、ため息をつく気力もなくだらだらと足を運ぶ。あ、森を抜けたか。上り坂もちょうどそこで終わりだった。

「本当に『もうすぐ』だったのな」

 急にひらけて広場になっていた。日照装置の光が地面に反射してまぶしい。ふりむくと坂をくだってふもとの先に薄暗く海が波うっていて、その岸からずっとここまで深い緑の森が続いていた。上を見上げたがそこに空は無く、真っ黒な空間があるだけだった。

「到着しました。休憩としましょう」

 クリスの言葉に一気に足の力が抜けてその場にへたり込む。朝からひたすら坂を登り続けてきたのだ。さすがに疲れた。

 一方のクリスは疲れなど微塵も見せず元気に茂みに埋まって何やら探している。枝をたくさん拾ってきて細断し、適度に積み上げる。先が二股に分かれた枝は地面につきたてて、そこにさっきしとめたうさぎのような生き物を貫いた枝を渡した。土と小石で簡単にかまどの形をつくった。あー、僕らよりもずっと手際がいいや。

 クリスが袖を少しまくってボタンのひとつを押す。機械からのびる端子の一つから火花が散り、一瞬で小枝に火がついた。そのまま周りの枝へ燃え広がっていく。

 頬を汗がつぅっとつたった。暑い。直射日光にたき火の熱でさらに暑い。僕まで蒸し焼きされてるみたいだ。やめろ、僕は美味しくないぞ。食べるところもたいして多くないし。喜邨君なら……。

 明日香は無事首都にたどり着いただろうか。曹と氏縞、……と公正も無事だと良いけど。

「お考えごとですか、修徒様。お悩みでしたら相談に乗りますが」

 その敬語にお悩みだよ修徒様は。しゃべりにくいって言ってるのに何で直してくれないんだよ。ため息をついて目をそらす。

「……なあクリス。アンドロイドって歳とらないし死なないんだっけ。それってどんな気分なんだい」

 ふと思いついてきいてみた。クリスはそうですね、私だって人間並みの年数しか生きてませんから、と前置きした。

「修徒様。人間の平均寿命を八十年としましょう。修徒様は今おいくつでしたっけ」

「十四」

「つまり今まで生きてきた時間を約六回繰り返せば寿命です」

 今までの人生六回繰り返す。うんざりするな。

「私の場合、何度繰り返しても終わりがありません。膨大な時間がずっとそこに残っているのです」

 クリスが少し焦げたうさぎの肉に数回ナイフを刺して一部を切り取り、大きい葉っぱで作った皿に載せて僕に手渡した。僕はそれと、一緒に渡された小枝を受け取ってさっそく小枝で肉を突き刺してかぶりついた。口の中にしみ出る肉汁。やわらかな歯ごたえ。あつあつで火傷しそうだけどおいしい。味付けはクリスが持っていた塩と胡椒だけ。うん、このぐらいシンプルな味付けにしてくれれば良いのだ創作料理をつくるなら。いちいち味の濃いものを組み合わせるからピリ辛チキン(焦げ)のイチゴジャム載せとかいう食うに食えない妙なものができあがるんだ……ってそれは母さんの話か。

「どうです?」

「おいしい。ありがとう。クリスは食わないのかい」

「アンドロイドは食事をとる必要がありませんから。遠慮なさらずしっかり食べてくださいね。これからまだたくさん歩くんですから」

 まだ歩くのかよ。

「来た道戻ったりするなよ」

「ご安心を。ここから先に進みます」

 立ち上がり、足下の草付近の地面を銃で撃った。するとそこにボッコリと四角い穴が開き、中にはしごが見えた。穴の中は真っ暗で底は全然見えない。っていうか何でこんなところにこんな深そうな穴が。

 クリスは四角い穴の周りに積もった砂を簡単に払い、食事を終えた僕を急かすように穴の前に座って手招きした。僕は手に持った枝の処理にしばらく困ってから結局その辺の草むらに投げ捨て、おそるおそるもぐりこんだ。はしごの段の金属の棒はひんやりとして気持ちがいい。ゆっくり片足をおろすと下の段に足が触れた。そっちに体重を移して今度はもう一方の足をその隣におろす。それから手を片方ずつ離して持ちかえる。

 バサバサ、ゴウン、と頭上で音がして視界が完全に真っ暗になった。どうやらさっきの穴にはふたがあってそれをクリスが閉めたらしい。足で下の段を探り、手探りで次の棒を探し、探し、探し……。

 ……全然進めないんだけど。

「もうちょっと速く進めませんか?」

 誰のせいだと思ってんだよクリス。クリスがふた閉めたから真っ暗になっちゃって見えなくて進めないんだよ。わかってほしいよそこ。配慮足りなさすぎなんだよ。

 無理ですというのも何だか格好が悪いしがんばって速く降りようとするのも腹立たしいし(それ以前に踏み外して落ちたら大変だし)クリスの言葉は聞こえませんでしたみたいに無言でゆっくりゆっくり降りる。クリスは何か考えるようにしばらく降りてこないで同じ棒に捕まっていたがやがてローブの中を手探りしてかちっと何かのスイッチが入るような音が鳴り、僕の目を閃光が突き抜けた。

「ライトつけるならつけるって言えよ!」

「いえ、暗くてよく見えないのだと思いましたので…」

「いや消さなくていいから! 急につけてまぶしかっただけだから!」

 何も考えずに上を見上げてた僕も悪いけど。また明るくなったおかげで下を見て自分の足の位置が確認できる……ってどんだけ長いんだよこのはしご! 終わりが見えないんだけど! 手足滑ったらあの世に飛び込みなんだけど!

 下から地下特有のつめたい風が吹いてきて僕の背中をなでていき、それにつられるようにつうっと微妙な冷たさの汗が流れる。こ……こわい。

「……もうちょっと速く進めませんか、修徒様?」

「……ごめんくりす……やっぱりライト消して……」



 同じ動作も繰り返していればだんだん慣れてくる。だけどあんまり長いこと同じ動作をしていると慣れすぎて集中がきれてくるもので僕はうっかりはしごの次の段を踏み外した。

 死んだかと思ったけどすぐに固いものの上に着地して無事だった。あれ、なにこれだんだん下に降りていく。うわ、消えそうはしごはしご……。手探りで冷たい金属の感触を確認してつかまると同時にその固い物の感触が消えた。何今の。あ、あと数段だったのか。余分に足をおろしてつま先を地面に激突させてしまいあまりの痛さにびっくりしてはしごから手を離し、落ちるように地面に転がる。クリスは全く心配する様子もなく何事もなかったかのようにささっとはしごを下り刀をローブの中から取り出してそこで困ったように動きを止めた。

「あの……ライトをつけても良いでしょうか修徒様…」

 いちいちきくなと言いかけたけどそういえば僕がつける時はつけるって言えって言ったんだ。

「あー……いいよ。うん。つけて」

 はい、と返事が聞こえて直後、一瞬視界が真っ白になった。どうして人の目に向けてスイッチオンするんだ。何か僕の目に恨みでもあるのか。

 はしごを下りたそこは小さな部屋のようになっていた。四角い穴の壁はとても頑丈そうな金属で補強されそれがさらにワイヤーらしきもので固定されていて、その足がその部屋四隅にどっしりと埋め込まれていた。何に使うのか木製のランドセルがちょうど入りそうなロッカーが置いてあり、その正面に金属製の枠に金属製のドアがはまっていた。ドアノブにはチェーンがかかっていてそれは金属製の枠についた金具にひっかけられて厳重に何重にも巻かれさらに南京錠がかかっていた。あれ、でもこの金具チェーンを固定してないからチェーン簡単に外せる。南京錠の意味が無い。

 クリスは腕の見せ所とばかりに長いローブの袖をまくって腕を自由にするとまずこちゃこちゃと刀の先で南京錠の鍵を突っ込む部分をほじくりはじめた。やる気満々でものすごく真剣に南京錠と格闘している人(?)に南京錠をつつかなくてもドアが開けられるという事をつたえるべきか否か迷ってとりあえず目をそらしてロッカーを見る。

 何も入っていないロッカー。からっぽの棚にはうっすら砂が積もっている。誰が何のためにここにこれを置いたのだろう。誰が何のために使ったのだろう。

「それはレフトシティーと戦争中、防空ごう兼兵士待機場としてこの穴を利用していたときに食糧庫、武器庫として使っていたものですよ」

 まるで頭の後ろに目がついているみたいにクリスが答え、僕はロッカーからも目をそらしワイヤーの張り巡らされた壁をみつめる。クリスはしばらくの間南京錠をつつきまわしていたがついにこじ開けられないとあきらめて刀を片手にさげて立ち上がり、八つ当たりのようにずばんとチェーンをそれでぶった斬った。ガシャーンっと大きな音を立ててチェーンの破片が飛び散る。

「開きました修徒様!」

 やりきったという達成感に満ちた声でこちらを振り向く。開いてたんだけどね? 反応に困るぞ。

 その部屋を出るとどこかの病院の廊下のようなところだった。後ろでクリスがドアを閉める。

「どこだいここは」

「首都と首都の外側との境、とでも言いましょうか。連絡通路を兼ねたしきりになっているんです」

「ふうん……。そういえば。ねえクリス、さっきのはしごの最後の所で出現したあれ、何?」

 沈黙。中途半端に口をあけたまま表情が固まる。何かヤバいこと言ったか僕。

「あ……あれは修徒様が〈力〉で出された物でしょう? 自覚されてなかったのですか?」

 え、そうなのか。あれ僕の〈力〉? ……へえ。なんというか、もうちょっとこう空飛んだりバーンと爆発したり派手でかっこいいの想像してたからいまいち……。まあ助かったからいいけど。ためしに足の裏から地面に力をこめるイメージで押し出してみたら白い立方体が地面からにょっきり生えた。おお、なるほど。僕らしくシンプルで地味だ。クリスがよくぞご無事でとか言い出したが何のことだろう。

 無駄にきれいでぴかぴかの廊下には僕らの他に誰もいないようで、すごく静かだった。クリスは僕の横をすり抜けて前に立ち、つかつかと歩き始める。そしてすぐそこの角を曲がって足音が聞こえなくなったのであわてて追いかけて角を曲がる。クリスのことだからたぶん曲がってすぐのところで立ち止まって僕が衝突するのを楽しみに待っているだろうと思ったらそこにクリスはいなかった。廊下の先にもクリスの姿は見当たらない。

 ……またかよ。やめろよ案内しといて突然放り出すの。僕道知らないんだってば。他のみんなとどうやって合流すればいいんだよ。本当どうしようこの通路からどうやって出るかもわからないし食料もってないし水も持ってないし

「お、修徒か?」

 聞き覚えのある声が廊下二番目の角から聞こえてきて、そこからものすごく見覚えのある顔がヒョコリと顔を出していた。その一人目公正に続いて喜邨きむら君、つかさ氏縞しじま、明日香。

 明日香は僕を見るなり一瞬ほっとしたような表情をしてあわててすねた顔をとりつくろって目をそらし、僕を見つけてがっかりしたともうんざりしたともとれるため息をつきかけて、途中でやめて急にダッシュで走ってきてとびかかってきた。よける間もなく抱きつかれる。

「シュウ! ごめんなさい、ごめんなさい……っ! ……お、遅いよもう会えないかと思ったじゃないっ! ばか、馬鹿馬鹿馬鹿シュウの馬鹿! 心配させないでよっ!」

 ちょ、ちょっとまて明日香。首に手を回すなそして力を入れるな息できないってば。殺す気か。

「公正が一応連絡通路に見に行ってみようって言い出して来てみたんだよ。ホントに居たな。案外役に立つじゃねーか」

 喜邨君……せっかく公正の名前忘れてやろうと思ったのにさらりと言うなよ。

「いや連絡通路にもいないだろうなと思ってたんだけどさ。ほら、明日香が泣きついてくるから」

「な、泣いてないもん」

 涙目で言い返しても説得力がない。明日香は僕のTシャツをびしょびしょにした後手で顔をぬぐって僕の手を引っ張った。

「私の家が近くにあるの。とりあえずみんなでそこに行くことになったんだ。案内するから、ついてきて」


 ……家。

 ああそうか。この通路を抜けたら人家の立ち並ぶ街があるのだ。ついつい元の世界の街を思い浮かべてしまう。毎日見知った顔に会う学校。帰りにもうちょっと居残りたくなるグラウンド。毎朝時計に追い立てられて走り、だらだら歩いて帰った通学路。帰り道によく寄り道した本屋。中学上がる前はよく遊んでいた近所の公園。家について、呼び鈴を押せば「おかえり」と母さんが出迎えてくれる。

 そんなことを考えているとなんだか本当にこの通路を抜けたら元の世界に戻れるような気がした。微妙に明るくなった前方を見つめる。もしかしたら。

「おっしゃぁぁぁぁ!出口まで競争だ氏縞!」

「望むところだお前などに負ける気がしない!」

「言ったな貴様あ!」

 馬鹿二名が出口にダッシュ。先に走り出した曹が足下の石に気づかずつまずいてバランスを崩し、転倒。今のうちに追い越そうとしたのか氏縞が曹の上をジャンプで通過しようとして、即座に起きあがった曹の背中に激突してふたりとも地面に落下。うわ、痛そう。

「おい氏縞! 貴様我輩の上に乗るなど許せん! 即刻降りたまえ! 貴様にこの曹様を下敷きにする権利は無い!」

「いきなり起きあがったお前が悪いんだろーが。もっとゆっくり起きあがってくれれば俺だってお前になんかぶつからない」

「そんなことしたら貴様が先にゴールするだろう!」

 ふと出口の方に目を向けると曹と氏縞の交通事故など別空間の出来事だといわんばかりに明日かも公正も喜邨君もとても楽しそうにしゃべりながら外へ出て行った。さすがにちょっとは心配してやれよみんな……。やがて曹と氏縞もみんなの無関心に気づき、おかげで急がば回れの意味を体得したとかなんとか嬉しそうに言い合って外へ出る。すぐにどっちのおかげなのか喧嘩を始めたが。そして僕も外に出る。

 そこは団地だった。細かくひび割れた灰色のコンクリートの道路の両側に似たようなマンションがいくつも立ち並んでいた。六階建てのマンション群はどれも古くて、あちこち崩れているものもあった。崩れた先には生活用品の混ざった瓦礫が山になり、寄せ集められて道幅が確保されていた。ひしゃげた鉄骨が断面から無数に生え、どこからのびているかわからないワイヤーがあちこちで垂れ下がっている。

 ……ああ、やはりここは別の世界なのだ。こんなの、テレビで見た遠く外国の廃墟都市が一番似ているかもしれなくらいで見覚えがない。あれだって市街戦激戦区の報道だったはずだ。もしかしてここは戦争をしている地域なのか。

 隣に立った明日香が呆然と足を止めたまま動かない。

「うそ……」

 呆然と言葉が漏れた。公正も驚いたように立ち止まり、辺りを見渡す。喜邨君は「兄貴がやってるFPSゲームみたいだな」とつぶやき、曹と氏縞を引き連れて瓦礫の山に興味津々で近づいていった。不自然に何も無い空き地が廃墟の影にいくつか見えて、僕も興味をひかれて歩き出す。案内人二人はその場を動かない。

「出る場所間違えでもしたのかい」

「いや。ここで間違いない……はずだ」

 公正が答え、明日香がきゅ、と眉根を寄せる。明日香がふらふらと歩き始め、角を曲がる。追いかけるがキョロキョロと目線を巡らせ心もとない。しっかりしてくれよ、案内人。ふと上を見上げ、さらにそのまま上を見て、……やはりそこに空は無かった。見慣れたあの白い綿雲の浮かぶ青い空はどこにもみあたらず、ただ真っ黒い空間が存在していた。まるで夜のような空なのにどうして明るいのかと思ったら振り向いた先に太陽のように眩しい光源があった。日照装置か。

 あ、と明日香が声をあげた。視線は路地を大通り方面に抜けている。探検を始めていた喜邨君たちを呼んで明日香を追う。明日香はまっすぐ路地を奥へ進み、12の数字のついたマンションで足を止めた。周りのマンションよりはいくぶんかマシだが無数に弾痕が残り、ヒビが縦横無尽にはしり、窓ガラスはほとんど割れたままになっていた。最上階の一部は骨組みだけになっている。

 外付けされた螺旋階段を、カンカンと軽快に上る。幸いゆがんではないがひどく錆びていて、喜邨君の体重で乗って大丈夫か気になったがきしみもしなかった。案外丈夫なようだ。……ていうかどこまで上るんだ。いい加減足が疲れた。朝から歩き通しなんだよ僕たちは。

「六階だよ」

 明日香の声が震えた。え、と骨組みだけになった部分を見上げる。

「六〇二号室。あと二階分あがれば終わりだから。頑張って」

「……、あー最上階かよ。くっそエレベーターねーのか、だりー」

 喜邨君がわざとらしいくらい明るい声でいい、ほら早く進め、と氏縞をこづいた。こけそうになった氏縞が曹にすがりつき、巻き込まれて曹もつまづく。てめ殺す気か、とさっそく喧嘩が始まった。

「シュウには私の家族の話、したっけ?」

 ひきつった笑顔できかれて、運動会の時に来てたおじさんとおばさんだろ、と答える。中学に入ってすぐの頃のイベントで保護者テントに来ていた。小学生ならまだしも、中学生の運動会を見に来る親は少数派なのでそこそこ目立っていたっけ。

「あの人たちは、……家族じゃ、ないよ。里親。こっちに居るのが本当のお父さんと、お母さん。あとね、お兄ちゃんと妹も居るんだよ。お兄ちゃんは普通の人だけど妹は、ちょっと変わってるかも! あ、でもきっとみんな仲良くできると思う。大丈夫、大丈夫だよ……」

 声が尻すぼみになり、視線がそれる。六階フロアにようやくたどりついた。階段すぐの六〇一号室は無く、鉄骨と壁の一部だけが残り、崩壊がひどい部分は床が抜けて五階の部屋内部が見えていた。亀裂をさけて廊下を進み、六〇二号室のドアの前に立つ。

 もとからあったドアではないのだろう、木材とプラスチックの板を張り合わせて作られたお世辞にも立派とはいえないドアに大きく六〇二と数字が振られ、下部には雑に郵便受け用の穴があいていた。明日香は泣きそうな顔でその数字を手でなぞり口をかたく引き結んで、すっと目を閉じた。

 コツコツ。

 音が二重に響いた。明日香の手は確かにドアをノックした。ひとつはその音だがもうひとつ聞こえた音は何だ。

『ただいマ』

 明日香がささやいた。

 しばらくの沈黙。かちゃり、とドアが開いて金髪の女の子が仏頂面をのぞかせた。左の耳に大きな金属の輪をつけていて、長い金髪をポニーテールにしている。柄の無い白い簡素なシャツ。ジーンズ。金色の目がしばらく明日香を見つめて、はっ、と見開かれた。

「ひさしぶり、『キノコ』! ただいまっ!」

 その女の子が自分を誰だか気づいたのをみて即座に抱きつく明日香。女の子の表情が一瞬で嫌悪に切り替わる。ごすっと重い音。

「背、のびたね! 元気しでっ……た……。き、キノコ……おなかは……殴っちゃダメ……」

「抱きつかれるのキライ。言ったはず」

 低い声。何歳ぐらいなのだろう。十六、十八……? もっと上かもしれない。

「妹のキノコだよ」

「キノコ!」

 喜邨君、食べ物の話じゃないぞ。人の名前だぞ。よだれ垂らしそうな顔するなよ。

 どう見ても年上に見えるのに妹?

 ドア横に置いてあったミニホワイトボードにきゅきゅっと文字が書かれる。『昨日子』。なるほど、『明日香』に『昨日子』か。

「へえ、昨日子か。いい名前だなお姉さん、よくにあっ……ぐふっ……」

「曹君、褒めちゃダメだよ……。昨日子は褒められるの嫌いだから」

 へんなやつ……。

 明日香がうなりながら立ち上がる。

「キョウハ、あ、今日破って書いて、お兄ちゃんなんだけど一度『さすが』って禁句を言っちゃってナイフでぶっすり刺されてたから気をつけてね」

 恐ろしい。

 昨日子は何も言わずドアを開けたまま中へ引き返す。途中で「今日破、客」とだけしゃべったけど。明日香は昨日子を追いかけるように中にあがりこみほらみんなも入って入ってと手招きする。僕らはお邪魔しまあす、とちっちゃい声で一応言って玄関に入る。短い廊下の先に居間があってそこに通された。

「昨日子ぉ……。客言うても誰だかわからな何も準備できへんやろ。お、いらっしゃい。ようこそ。ゆっくりしてってや。……明日香!」

 居間では頭のてっぺんからつま先まで青ずくめの男の人が座布団にすわって麦茶をぐびぐび飲んでいた。ため息まじりに僕たちを出迎えて、でも明日香を見つけて目を丸くした。

「ただいま、今日破……。えっと、事情は後で説明する。あの、しばらく……この人たちと一緒に泊めてもらえない、かな……」

 今日破ははーっ……と息をついてふっと笑い、ガラスのコップをコトンとこたつの上に(この暑いのに布団が載っている)置いた。

「アホか、自分の家やろ。泊まるんちゃうやろ。なんぼでも居ればええ。その子らは友達か? 明日香の友達ならいつまででも泊めてやる」

 明日香は黙ってその人の水色の服に顔をうずめてじっとしていた。……泣いてるのかも。

 お世辞にも広いとは言えない部屋だった。八畳ぐらいの広さは一応あるのだがこたつと座布団が足下をうめつくし、座布団の無い壁際には本棚やら冷蔵庫やら洗濯機やら台所への出入り口やらいろいろ並んでいる。そんな部屋に八人居るわけで(しかも喜邨君は二人分以上のスペースを占領している)、結果かなり狭くなっている。

「あー、そういえばまだ自己紹介してへんかったな。俺は今日破。呼び方も今日破でええよ。こいつ、明日香の兄。よろしゅう」

 ぐずる明日香を引きはがしながら自己紹介。やっぱり明日香は泣いていたらしく鼻が赤くなっている。

「公正だ。……こちらこそよろしく」

 あ、そっか。僕たちも名乗るべきだよな。

「我が輩は曹様だ!」

「初対面でいきなりえらそうな名乗り方をするとは卑(いや)しい奴め! 俺は氏縞。しばらく世話になります」

 氏縞の言葉に曹が「誰が卑しいかあ!」と言い返して喧嘩(けんか)を始めたが周囲はスルー。みんな慣れて来たな。

「喜邨ゆたか。俺けっこうたくさん食うけどいいか?」

 オッケーオッケーってうなずいてるけどいいのか今日破。食費がすごいことになるぞ。

「僕は神永修徒。明日香のクラスメートです」

 今日破はそれを聞いてきょとんとした。

「くらすめいとって何や?」

 ……えっ? あれ? もしかして今日破って学校行ったことないのか?

「クラスメートっていうのは、同じ教室…勉強部屋で勉強する仲間のことだよ。あっち側では子供はみんな必ず学校に行くの。建物の中で先生の話を聞くんだ」

 今日破はふうんとおもしろそうにうなずいた。

「軍志望とか金持ちとかそないな条件が無いのはええな。向こうで元気にしとったんやな……よかった……。俺もその学校、行きたかったな」

「だめだよ、今日破があっちに来たら昨日子がお父さん、お母さんと三人暮らしになっちゃうじゃない」

「三人も居れば十分やろ」

「不十分だよ。三人兄弟なんだから、三人プラス二いないとだめだよ」

 今日破は水色の頭をがしがしと掻きながら明日香から目をそらしてのれんのかかった台所の方に声をかけた。

「かっさん! ちょいこっち来て。明日香や! 明日香が友達連れてかえって来たで」

 何言ってるの、とのれんの奥から声がする。あの子はもう何年も前に居なくなって……と声が急に近くなってスッとのれんがめくれておばさんが顔を出した。数本白髪の混じった茶髪で、目元が明日香によく似ている。その目に明日香がうつり、はっと息をのんだ。

「た、ただいま……お母さん」

「明日香……。明日香なのね?」

 そっと手をのばし、おそるおそる頭をなでる。触れたと思ったら勢いよく引き寄せてぎゅっと抱きしめた。何も言わず、ただぎゅっと抱きしめる。

「あの、お母さん……」

 そのまま数分たって、さすがに明日香が声をあげた。

「大きく、なったのね。いくつになったのかしら」

「おなかすいた」

 おーい明日香……。母親の感動をばっさり切るなよ。「食べながら話しよう、ね、ね?」と半ば脅し気味にキッチンへ連行していった。

「かっさん、九人分頼むで」

 すかさず喜邨君が挙手。

「あ、俺二人分おかわりするから十一人分お願いします」

 他人の家でなんとずうずうしい。台所の方からは何かを焼くじゅうじゅうという音にまぎれてはいはいわかったよという返事が聞こえて来た。寛大な。僕もありがたくつまみぐいさせてもらうことにした。

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