3日目:異邦者郷に入る
目が覚めたはいいが真っ暗だしすぐ近くに時計も無さそうだし今何時なのか、二度寝しても学校に遅刻しないかどうか色々確認できない。しばらく部屋の電灯のスイッチを探してから、ここはシェルターだと思い出した。壁際に行って手探りでろうそくを探し、合宿中にこっそりくすねた明日香のマッチを
水山に面した窓から外をのぞくと、はるか下方の
「シュウっ……!」
いきなりバタンと僕の後ろで戸の開く音がして、僕が持っているろうそくよりもいくぶん明るい光が室内に差し込んだ。そういえば昨日あのまま戸に鍵をかけずに寝てしまっていた。真っ赤に泣きはらした顔で部屋に飛び込んできた明日香はそのまま僕の旅行
「明日香……どうしたんだい」
明日香はふっと顔を上げて僕をしばらく見つめ、とりあえずその辺の床に燭台を置いて僕の旅行鞄を抱え直した。泣き止むまでしばらく待つ。寝袋の余分な空気を抜き、ちいさくまとめて丸める頃になってようやく落ち着いて、明日香はつぶれた旅行鞄から手を離した。
「怖い夢でも見たのか」
こくりとうなずく。話して、聞くからと促すと、もうだいぶ忘れちゃったと困った顔をした。
「地響きがずっとしてて、真っ暗で何も見えなくて、どこかに連れて行かれるのはわかるんだけど、誰に抱えられてるのかもどこに行くのかもわからなくて……」
夢にはまだ続きがあったようだが思い出せず首をかしげる。怖かったんだけどなぁと苦笑いするので手をのばしかけて引っ込めた。何しようとした、僕。
あ、と明日香が声をもらしてみるみる顔を赤くした。何かと思ったら「髪といてない……ボサボサ、ごめん見なかった事にして!」バタバタと慌てて出て行った。え、全然わかんなかったけど。気にすんなよ。
鞄に括り付けた腕時計は七時過ぎを指していた。そろそろ他の奴らも起こした方がいいだろう。
「おーい喜邨君。朝だ」
「げふう……。あとごふん……」
口元の食べかすをごしごしとこすって落とし、背を向けた。
「夜じゅう食ってたのかこれ……」
喜邨君はよっこらしょと体を起こし、いらいらと不機嫌に菓子パンの空き袋をレジ袋にまとめ始めた。それから入り口にちらと目をやり、いきなり大声をだす。
「
「なっ……何を言う!」「我らの大事な一戦だったのだぞ!」
半開きの戸の影に隠れて仲良く声をそろえる。二人とも充血した目の下にクマをこしらえていて、そろって出かけたあくびをかみ殺した。
「氏縞が夜更かしバトルしようと言い出すからいけないのだ!あんな
「曹が言い出したんだろうが徹夜するぞって。俺はそれにつきあわされただけだ!」
「夜更かしバトルに枕投げ追加したのは貴様だろうが!」
「夜更かしバトルと枕投げにカラオケ大会追加したのはお前だろうが!」
「夜更かしバトルと枕投げとカラオケ大会に鬼ごっこ追加したのは貴様だろうが!」
「やっ……かましいぃぃぃぃぃぃ!!!」
ドゴン。
ついにキレた喜邨君が壁を殴りつけた。ひびがぴしぴしっとはいり、ぽろぽろとコンクリートの小さな破片が床に落ちる。…喜邨君も十分やかましいよ。三人そろってものすごい近所迷惑だよ。
急にしん、となった部屋に、公正がふらりと入って来た。眠そうな顔はしているが灰色がかった髪は特に乱れることなくサラッとしている。ただ前髪がうっとうしいようで手で束を数本払いのけた。親指で廊下を指し示し、片手でポケットを探りかけてから「あ」と気づいたように声を出す。
「昨日申請しておいた首都移民申請、玄関ホールに
おお、仕事早いな職員さん。了解、と片手を上げて喜邨君の部屋を出る。「声出るの忘れてたろ」曹にからかわれ「うるさい」公正が軽くキレていた。
廊下に出ると戸の影に明日香がいた。なんだよ、公正のところにも行ったのか。その公正は明日香に
「あ、お兄ちゃんたち!」
部屋が近かったらしくヘンリーとエレンに遭遇した。二人はそのまま走ってきてヘンリーは喜邨君に、エレンは明日香にそれぞれひしっとしがみつく。
「何」「どしたの?」
「雨季…怖い。暗くて。このままどんどん真っ暗になっちゃいそうで」
ヘンリーが消え入りそうな声でつぶやく。エレンは明日香の足に顔を埋めたまま黙っている。喜邨君は軽々とヘンリーを持ち上げて肩車した。
「心配すんな、ヘンリー。海の底に沈んでるだけで炎の河はいつでも明るく光ってんだ。今は水でちょっと見えにくいだけなんだから。な?」
何が「な?」なのやらさっぱり分からなかったがヘンリーはそれで安心したらしくそっかー、とほっとしたような息を吐き、喜邨君の頭にしがみついた。その拍子に喜邨君の両目を塞ぎ、喜邨君が微妙に迷惑そうな顔をする。エレンはとっくに明日香から離れて僕たちよりも数歩先をちょこまか走っていた。
玄関ホールのかがり火の近く、首都新市民申請所と看板のかかった白い簡易テントの前には十数人の人が並んでいて、それぞれあきらめたような表情をしていたりため息をついたりしていた。どうやらこの人たちはパスできなかったらしい。申請所の役員は僕たちの姿を見るとまだ前に並んでいた数人を無視して手招きした。一気に周囲の人の
「代表者フレッドさん……間違いないですね?」
役員は公正に確認を取り、公正は黙って頷いた。役員はええっと、と少々面倒くさそうに体の向きを変えると長テーブルの端に積んであった書類から数枚引っこ抜いてその中から何枚か選んで公正に手渡した。
「みなさんの新市民申請は受理されました。おめでとうございます。今後、スカイ・アマングの一市民であるという自覚を持って生活してください。なお、ご存知かとは思いますが二名でペアになっていただき、二名ずつ移動となっております。ですからみなさんは一度に全員移住することはできません。ご了承ください」
公正の持つ書類を横からのぞいた。スカイ・アマング入市許可証。他の申請者ものぞき込んでいるのに気がついて公正はさっさと許可証をひっこめて受付を離れた。僕達も続く。
受付から十分離れ、人ごみを抜け、譲れと言いよる人々を振り切ってホールを抜け出た。公正や喜邨君たちとはここで別れる。僕らの中で僕と明日香が移住の最初のペアで、移住会場出立の時間がえげつないほどすぐの時間だったからだ。発行三分後に会場に来いとかふざけんな。しかも外は雨期のため大粒の雨がザーザーだ。
「ちょっとシュウ、どこに会場あるのか知らないくせに先に行かないでよ」
シェルターから黄色いレインコートを着た明日香がばしゃばしゃと水たまりを弾ませて走ってくる。合宿中はずっと晴れという予報だっため雨具を持っていない僕はあっという間にびしょぬれになった。けっこう冷たい。はやく乾かさないと風邪ひくな、これ。
昨日登った坂道の途中まで水に浸かっていた。雨粒が水面で激しく跳ねて非常にうるさい。スニーカーの中にも水が侵入してぐずぐずと不快だ。
「あっ、あそこだよ!」
いつの間にか僕を追い越した明日香が指差す先に雨でずぶぬれの人ごみが見えた。鎧を着た完全武装の憲兵が盾を隣同士でぴったりくっつけて立て並べて施設の前を封鎖していて、人ごみの人々は先へすすめないようだ。
「憲兵さん! 私たちを通してください!」
群衆を力ずくでかき分けかき分け明日香が声を張り上げる。そうだそうだ通せ!と盾をずらそうとしている男達からも声があがる。しかし憲兵は全く耳を貸さず盾をぴっちりとひっつけて1ミリの隙間もつくることを許さない。
「話を聞いてください!」
もう一度明日香が声を張り上げるとブン、と何かのスイッチを入れる音がしてビイイインと頭が割れそうな音が続いた。鉄仮面の下に見える口がいっせいに嫌そうにひんまがる。
「ピィガガー……ガ……我々スカイ・アマング憲兵新市民護衛部隊流刑地分隊は……ガガー……新市民以外の者の……ガガー……市内不法侵入を防ぐため貴様らをとお……ピガー……通すことはできない……繰り返す……ガガー……」
スピーカーが雑音を吐くたびにチッと舌打ちが聞こえ、言い直す。時にはゴン、と何かを殴る音が聞こえて余計音がひどくなり、何とかならないのかこれ申し訳ございませんこの雨でどうにかなったのだと思われますがなどという口論も拡声されて聞こえてくる。
「新市民です! 入市許可証を持っています、見せますから通してください!」
人ごみの一部が小さくどよめき、何人かがこちらを振り向く。近くに居た痩せぎすの大男がよこせ、とすごみ、別の男がリュックを探るべくレインコートをはがそうとする。まずい。入市許可証は僕が持っているから奪われる心配はないけど、このままじゃ明日香が危ない。僕はポケットの中に突っ込んだ手を強く握り込んだ。
「……通せよ」
思ったより強い声が出た。そんなに大きな声ではなかったはずだが一言で周囲が静まり返る。一人、また一人と明日香から離れ、僕、明日香、そして盾の壁に繋がる道ができた。
「憲兵さん。僕と、そこの女子。新市民でさっき許可証もらってきたんだけど。通してくれないかい」
「ガガー……偽物である可能性が高い……ピイガー……高いので通すことはできない……ガガー……」
入市許可証と聞けばすぐに中に入れてくれるだろうと期待したが憲兵は盾をびくともさせない。群衆からやっぱりなといった感じでため息が漏れる。入市許可証に興味があるのはごく数人のようで、ほとんどの者が新市民になることすら全く興味がないらしい。僕らの周りから一定の距離を保ったまま、真新しいイベントが始まったとばかりに憲兵と僕らを見比べている。
「……やっぱり……」
隣で明日香がつぶやき、唇を噛んだ。何だい、ときくと小さく首を振った。
「〈音〉が使えない。これじゃもともとスカイ・アマングの住人だったって、証明することもできない」
「は?」
つい身をひく。〈音〉って何さ、今から行こうとしている都市の住人だったって何さ。お前の勝手な妄想に僕を巻き込むな。教室で変な
明日香は僕の反応にちょっと眉根を寄せて苦笑する。「そっか、覚えてないんだっけ」って何をだよ。
イラッとしながら今そのことは置いておくことにして、盾を並べて微動だにしない憲兵に向き直る。
「……我々は……ガガー……何ぴとたりとも……ピー……新市民でない限り通すことはでき……ガガー……できない……」
「だから新市民だって言ってるだろ」
「証拠が無い」
「入市許可証がある、見せるから入れろって」
「偽物の可能性がある……ガガー……」
「見てもないのに偽物って決めつけんなよ……」
群衆の一人、布をかぶった少し目立つ人が周辺の人々を集めて何やら作戦を練り始めた。やがてさっき群衆を集めた人が集団から出て来て右手を差し出し僕に握手を求める。不慣れな作法ながら相手の手を軽くにぎるとその人は軽く頷き、耳元に口を寄せて僕に耳打ちした。
「みんなで協力して何とか一枚倒してみるからそこから入ってくれ」
「え? ……いいんですか?」
「憲兵が同じことばっかり言ってたらつまらないんだ。すぐ飽きる。君たちが無理矢理中に入ってくれれば違うことを言うだろう。俺たちの娯楽のためだ。有り難く思うなよ」
世の中には不思議な人もいるもんだと一瞬思ったがここにはテレビとかパソコンとか情報端末的なものが何もないのだ。新市民だと主張して憲兵に立ち向かっていく二人、その二人を通そうと協力して憲兵を襲う地元民。うまくいけば二人はこの地を去り、憲兵は慌てふためき怒号をあげるだろう。映画か。そりゃあ格好の見せ物だよな、これ。
男は盾のうち一つを指し示し、セイヤーっと声をあげてその盾に飛びついた。セイヤーっと群衆が応えてその背中に順に飛びつき五人一組ぐらいで代わる代わる集団体当たりをくらわせる。憲兵達が慌ててその部分の補強にまわり、集団体当たりをしている所から少し離れた所の盾が少し位置をずれて盾の列に隙間ができた。その隙間めがけて待機していた他の五人組がセイヤーっと体当たり。盾がくるっと回転して五人はそのまま中へ。僕は急いで明日香の腕をつかんでそこから入り込む。
「待て!」
憲兵の一人が僕に銃の照準をあわせたが僕はさっさとその人の腕の下をくぐり抜けてはるか上の方から垂れ下がっている一本の細い糸に飛びついた。明日香が僕を利用して先によじ上り、続いて僕が登る。明日香が足をすべらせた。
「ご、ごめん…。私、こういうの苦手で……」
「かかとで糸挟むんだよ。で、手を上の方に移動させて手で糸をつかみ直したら今度は足の位置を変える」
すぐに明日香は登り方を飲み込んでするすると登り始めた。僕も追う。下方では憲兵が盾の壁内で踊り回っていた五人組をひとりずつ捕まえて追い出し、ようやく盾を並べ直していた。誰ひとり、僕らを追う者はいなかった。
少し登った先に昇降機があり、幸いこの糸一本にしがみついて長距離を上り続ける地獄は回避した。いや、わりと本気で心配した。僕はともかく明日香みたいな女の子が細い糸をずっとよじ上っていけるとは思えなかったので。
昇降機といっても座る場所があるわけではなく、見た目には握りやすい中空の金属筒が糸に取り付けてあるだけだった。内部に車輪があって、それが糸をつかんでモノレールのように金属筒を引っぱりあげるらしい。握りやすいとはいえ結局金属筒にしがみつきっぱなしだ。いい加減手とか腕とか痛くなってきた。
あと、今更遅いが明日香を先に登らせたのは間違いだった。何故とかきくな。後どのぐらい登り続ければスカイ・アマングに到着するのか確認したくても……その……明日香、スカートはいてるから……上見上げるわけにはいかないんだ! バレなければノープロブレムかもしれないが明日香は意外と勘がいいので気づくに違いない。気づいてきゃあとか可愛い叫び声をあげて僕をこの高度何百か何千メートルかから蹴り落とすのだきっと。命が惜しいので明後日の方向を見ながら風に吹かれる。雨やんだなあ。
手元が見える程度には明るいが、何も無い空間だった。風があるので上に動いているのはわかる。しかしいっこうに行く先が見えてきそうになかった。
「わ」
急に落下しそうになった。上に。上下の感覚がいきなり逆転してどう動いていいかわからずとりあえず金属筒にしがみつく。
「シュウ、手を逆向きにして足を離して」
ええええ怖いよ。……明日香に情けないとこは見せたく……ないな。意を決して目をぎゅっとつぶり、言われた通りに金属筒の持ち方を変えて足を離す。微妙な浮遊感。落下してるのか浮いてるのかよくわからなくて逆に不安で落下してるとわかった方がいいような気がして目を開けるとちゃんと上と感じる方に頭がある状態になって金属筒をつかんでいた。明日香の頭が下にある。はるか先に、青く輝く土地が見えた。あれが、スカイ・アマング……?
「ねえシュウ、公正にきいたんだけど、シュウはこちら側の住人だけどスカイ・アマングに住んでたわけじゃないんだよね。今までの感じさっきまでの流刑地でも無さそうだし。どこ住んでたの?」
「……僕はこの世界に心あたりなんて無いしスカイ・アマングに行った事も無い。僕はこの世界の住人じゃないよ。公正に何聞いたか知らないけど」
困ったような顔のまま視線がそれる。何にも覚えてないんだね。
それ数日前にもう一人の電波にも言われた。今朝方も見かけた灰色サラ髪頭を思い出す。あいつの影響なのか。明日香。そうやって変なこと言いさえしなければ、僕は明日香のこと……。
あー痛てえ。手がだるくなってきたので金属筒を持ち変える。もう何回目だろう。
「私でしたら軍手を使うのですが……」
突然至近距離で声がして驚いて顔を上げると黒いフード付きマントを着た人が僕の隣で浮いていた。声からして女の人だろうか。フードを深くかぶっているせいで顔が見えないけど。
「アンドロイド…」
明日香の言葉に硬直。こんな所でアンドロイドに遭遇するとは思っていなかったし、遭遇を予想していたとしても太刀打ちできない。殺されるのか。こんな所で、いきなり。
「案ずるな少年。大丈夫さぁ。襲いはしない」
いつからそこに居たのか僕の後ろのアンドロイドも近づいてくる。女のアンドロイドと似たようなフード付きマントの男。
「ドブリ・ジェン。俺はH-1363。個体名はトーマスだ。よろしく」
「私はH-1759と申します。クリスと御呼びください」
二人は礼儀正しく空中できっちりそろって頭を下げた。二人に隠れてもう一人いて、「H-1109。アントニオ」と付け加える。
「えと……。僕は神永修徒。そっちは滝波明日香」
アンドロイドってまともに会話通じるものだったのか。驚きつつ自己紹介を返す。
「ねえ。Hって何。Aに番号付けた方なら聞いた事あるけど」
明日香、僕今挨拶してるんだけど。空気読んでよ。僕の批難の目も全く気にせず(と言うより全く気づかず)明日香は真剣に二人のアンドロイドを見つめて答えを待っている。
「俺たちはH型さぁ。少女が聞いた事あるのはA型の方さなぁ。H型は人間を加工して造られたアンドロイド。A型は機械を加工して造られたアンドロイド。……知らない?」
明日香は顔をしかめる。僕は首をかしげる。人間を加工ってどういうことだよ。
「修徒様。クリス特製の手袋でございます。喜んでいただけるでしょうか」
クリスが話の流れを完全無視して僕に黒い布の塊を差し出した。トーマスがぶつぶつと文句を言うがどこふく風だ。広げてみると鍋を持つ時に使うミトンのような、大きめで分厚い手袋二組だった。比較的小さい一組を明日香に渡し、さっそく装着。おお、ちょっと楽だ。
トーマスが僕の隣を下降してクリスのマントの
「クリス。相変わらずの過保護だな。そいつは……っ」
「トーマス。あなたは近くに居たわけじゃない」
一瞬感じた違和感は何だったのか。クリスは能面のように無表情のままトーマスの手を襟首からひきはがした。アントニオが暴力的な行動をとるなとか何とか、トーマスをしかりつける。
「事の経緯は確かにあなたの方が詳しい。けれどあなたは彼の事をどれだけ知っているの」
トーマスがクリスを
「なっ……」
空中に放りだされ、思わず両手で金属筒を抱え込む。もちろん空中に浮くわけでもなく落下が始まる。落ちる……!
ガッ、と落下が止まったついでに一瞬首がしまり息も止まる。クリスが僕と明日香の服をつかんで空中に止めてくれていた。トーマスはあからさまに嫌な顔をして吐き捨てるように「ダ・スビダーニャ、人間」とだけ言って、ふっと姿を消した。
下方に光が見えた。
クリスにぶら下がって下降すること十数分、ようやく灰色の変わり映えしない風景に変化があった。だんだん近づいて来て、ところどころ白く光を反射する液体と黒く沈んで風に揺られる緑色のもさもさしたものとわかる。海と、森……? 目をこらして確認する。確かに青い海に砂浜、そして深い緑の森だ。
「僕らが住んでた世界と変わらないな!」
下降の風音に負けないように声を張り上げる。声が大きすぎたようでクリスも明日香ものけぞったが。
コツコツ、と戸をノックするような音が脳内に響いた。続いて明日香の声が脳内に直接響く。
『シュウうっさイ! 〈音〉使ってよ怒鳴らなくても聞こえるかラ!』
何が起きた。何だこれ。目をぱちくりさせて明日香がいっさい口を動かしていないのを確認する。テレパシー……? あれって可能なものだったんだ……?
「なあ明日香! それどうやってやるんだい!」
クリスの腕から身を乗り出すとクリスと明日香がそろって目を真ん丸にしてこっちを向いた。何だよ僕変なこと言ったか? 僕はたった今初めてこれを体験したんだぞ。できて当たり前のことだとでも思ってるのか。明日香はそっか覚えてないんだっけと非常にめんどくさそうに顔をしかめて
「なんというか、こう、……こう……」
額の辺りからゆらゆら〜っと人差し指を突き出す仕草。角でも生えてきそうだ。
「クリス……さんだっけ、説明してよ。私じゃ説明できないよ」
「明日香さん。私はアンドロイドですので〈音〉は使えません」
「え。そーなの……」
うなずくクリス。人間だったころのことはほとんど覚えていませんので、やり方は知りません。当たり前に使ってたはずなのですが。
試しに目の前の明日香に向かって頭の中で叫んでみる。あーもしもし。こちら神永修徒。頭にアンテナ生やせと言われた十四歳です。……無茶いうな何も起きないじゃないか。
「きゃあっ」
「わ」
明日香の悲鳴が空気と一緒に横を通り過ぎ、僕も空中で支えを失って思わず声をあげる。さっきまでそこに居たクリスの姿が無い。ちょ、どこで放りだしてんだよまだ下まで距離あるってこんな高い所で空中に放り出されていったいどうしろって言うんだよ。わあああぁぁぁぁ風で耳聞こえないし! 目も開けてられないし! いやだいやだいやだこんな訳分かんない世界で訳分かんない死に方したくない……!
バッッシャアァァァーーーーーーン!!!
いきなり冷たくて固いものに激突し一瞬意識が飛んだ。同時に呼吸も一瞬止まったが慌てて吸ったら水が肺に浸入してきてむせ、さらに水を飲んでしまい必死でもがいて水面に顔を出す。無我夢中でふはふはと空気を吸って酸素補給。死んだと思った。ちがう、死ぬかと思った。
陸地はどっちだ。さっき上から見た砂浜が数メートル先にあった。さっき沈んだ時見えた水底はずいぶん暗かったから、たぶん岸までしばらくは足がつかないだろう。しびれた腕で水をかく。
急に人を空中に放り出すなよクリス……。僕は泳げるからいいけど、明日香は……そうだ明日香。
辺りを見渡すと一番近い砂浜に向かって脇目も振らず一目散に泳いでいるのを発見。頭の上にベージュ色のリュックを乗せて、その上に靴下の入ったスニーカーが乗っている。なるほど、裸足の方が泳ぎやすいかもしれない。僕も同じようにスニーカーを脱いで鞄の上に乗せる。泳ぎ始めた時、ちょうど明日香が砂浜に着いた。そのまま砂浜の奥の方までさっさと歩いて行き、その先にある白っぽい岩に荷物とスニーカーを置いてようやく思い出したようにこっちを振り向いた。
「シュウ遅ーい! 早く早くー!」
何が遅いだちょっとは心配しろ笑顔で大きく手を振ったりなんかしてないでさ。僕は心配したんだぞ一応。
砂浜に着くと明日香がよかった無事で……とか何とか独り言のようにつぶやいて(気のせいだったかも)さっき置いた荷物の方へタタタッと走って行き、リュックを背負いスニーカーを左手でぶら下げるとそのまま僕から見て右の方へまた走り出した。その先には木造の小屋が一軒建っていて、近くの砂浜に小舟が打ち上げられている。そこにたどり着いた明日香は全くためらうことなくドアの横に取り付けられていた呼び鈴に手を伸ばしてつかまり、がらんがらんと鳴らした。
「ちょっ……明日香! 知らない人の家だろ?」
あわてて砂浜を駆け上がり小屋に直行。くそ。荷物重たい。
五回ぐらいがらんがらんとうるさい音を響かせた頃にようやく小屋の主らしきがっしりした体格の男の人が出て来た。おじさんに白髪がまじったくらいの歳の人。ちょっと迷惑そうに眉間にしわが寄っている。
「すみません旅の者なのですが少し火に当たらせてください」
おい。初対面でこんにちはも自分の名前も言わずにさっそく頼み事かよ。図々しい通り越してその度胸にびっくりだよ。しかし男の人はそれを聞いて少し考えるような間をあったが服を乾かすぐらいなら構わないよ、入りなさいと
小屋の中は意外に広かった。板張りの床の真ん中に囲炉裏のような穴があって、その上に天井から小さな鍋が吊られている。科学びっくり大百科に載っていた日本の古民家みたいだ。土足で入ってよかったのか気にしたけど男の人はサンダルを履いたままだったので安心した。ちょっと低めの天井から色々な野菜や果実、その他様々な干物がつりさげられている。
「俺は
男の人……江久さんは近くに置いてあった黒いつぼから火種の入った薪を取り出して囲炉裏の中央に置いた。鍋を自在
「僕は……」
「そっちは
誰だよ。明日香を無言でにらんだが横っ面でスルーされた。
「伊亜夢君に栄繁ちゃんか。よろしく。さっき旅の者だと言っていたけど、どちらへ?」
「とりあえず人家のある街に。首都に家族が住んでるので、帰ります」
「ならうちのユニコーンを貸そう。うちのユニコーンは優秀だ、安心しなさい」
江久さんは菜箸のような二本の長い棒で網の上の魚をひっくり返した。その下の火はさっきよりもだいぶ大きくなっていた。ゆらゆらと中で影が動いている。……え?
「わあああぁぁぁぁ!? 火がっ! 火がうごいてるっ!?」
「よく見なさいよ伊亜夢君。ただのサラマンダーじゃない」
ただのっ? サラマンダーっていう存在自体がもう普通じゃないだろうが!中でトカゲが丸焼きになってるのかと思ったぞ!
江久さんがサンマのような魚をもう一度ひっくり返す。いいにおいがして来て腹がぐうぅと鳴る。
「江久さん、ここはどこなんですか」
僕の質問に一瞬変な顔をした気がする。すぐに取り繕ってスタンド・サークル岬と教えてくれた。知らない土地名だ。やっぱりここは日本ではない。
「その魚は何て言う魚ですか?」
「ピスシーズっていう魚だ。俺が釣った魚でな、自分で言うのもなんだが美味いぞう」
ちょうど焼き上がった所だったようで数回網の上で魚を転がすと木箱から皿を取り出してそこに魚を一匹ずつ乗せて僕と明日香の前に並べた。江久さんがそのまま頭からがぶりと魚をかじるのを見て僕も頭から魚をがぶり。骨をかみつぶすのがちょっと大変だけどおいしい。隣を見ると明日香もがぶがぶと頭から豪快に食べている。口の端にかけらがひっついている。可愛いな……じゃなくて、ええと。
「さてと…俺はちょっと林に出かけてくる。二人はそこで休んでいてくれ」
江久さんはよっこらしょと立ち上がるとすたすたと小屋を出て行った。明日香とそろってその背中をぽかんと眺めて遅まきながら今の状況に思い至った。……見知らぬ土地の知らない家でいきなり明日香とふたりきり。
わあああどうしようどうしよう。まさか二人きりになると思ってなかったから何話していいかさっぱりだよ教室では周りがいなけりゃこういう話がしたいああいう話がしたいってたくさん話題抱えてたのにいざ二人になるとこうもああも何も出て来ないよ! 今絶対僕の顔赤ピーマンみたいになってる。ちょっ、今こっち向くなよ明日香! 察して今無理! しゃべる無理!
「ねえシュウ」
「な、ななな何? 僕は赤ピーマンじゃないぞっ?」
「……へ? ああ頭の中身ね」
違う。
「今のうちにここのこと少し教えるから。覚えて」
事務的すぎる会話内容。何か期待したわけじゃないけどがっかりだ。何かってなんだ。
スカートのポケットから取り出したイルカ柄のメモ帳にシャーペンで丸を三つ並べて描く。
「左から順に、レフトシティー、スカイ・アマング、ライトシティー。ここには太陽が無いから、スカイ・アマングの場合は日照装置が地球に対する月みたいな感じでこうぐるぐる周りを回ってるの。スカイ・アマングはこの三つのシティーの中では一番生き物の種類が多くてね、森にはユニコーンとかセストラルとかグリフィンとか、あっちの動物とちょっと違う生き物が住んでる。似たのも居るけど。そこのハリネズミもこっちではスカイ・アマングにしかいない」
なぜここにハリネズミ。囲炉裏の周りをちょこちょこと走り回り、うざったかったのか火を出すのをやめたサラマンダーが襲いかかって追いかけっこが始まる。
「都市部はだいたい日本と変わらないけど日本みたいに欲しいものが何でも手に入るわけじゃないよ。テレビもネットもないし、あっち側の「先進国」にはほど遠いかも。政治は議会が一応あるにはあるけど、何決めるにも国王が許可出さないと議会で決まったことは通らない」
独裁政治か。だいぶ日本と違うじゃないか。
きい、と玄関の戸が開いて江久さんが戻って来た。首の後ろをぽりぽりかきながら部屋に入る。後ろからついてくる人影を見て明日香がひっと息をのんだ。なんだあれ……?
緑と茶色の混ざったような微妙な色合いの
「コレガソノエモノカ」
低い声が漏れる。なんとか言葉は判別できるが滑舌はあまりよくない。江久さんは僕の視線に気がつき顔をそむけた。
「申し分ないだろう。男女の子どもだ」
ふぼう、とエラから吹き出た息が僕の前髪を揺らした。魚臭い。
「……なあ、これで
何の話かよくわからなくて何やら必死な江久さんとダグラスの偉そうな態度を見比べているとついに服を引っ張るだけでは気が済まなくなった明日香がぐいっと僕の方をつかんでひきよせた。
「シュウ、逃げるわよ」
「は?」
いや何で助けてくれた人から逃げなきゃいけないんだ。思わず変な顔をした僕にはあぁと呆れたようにため息をついて
コツコツ
『この人メローなノ! メローは人間を食べるんだよ知らないノッ?』
メローって何。人間を食べる……食べる? 僕はあわててメローから距離をとった。その動作に気づいたメローはいきなりその水かきのついた黄茶色の鱗に覆われた手で江久さんの襟をむんずとつかみ、
「オイオイオイムテイコウナジョウタイデトイウケイヤクダッタジャナイカ……イハンダナ?」
耳元で
「オレハオマエヲイカシテヤッテンノニヨ……。タチバワカッテンノカ!」
「わ……わかったわかった! すぐに無抵抗にする! 許してくれ!」
江久さんは履いている半ズボンのポケットに片手を突っ込んで何かためらってからおもむろに黒い物体を取り出した。……
背筋が凍るように冷たくなる。明日香の後ろに回りたくなるのをこらえて前に出てかばうように立つ。ゆっくりとこっちに銃口が向く。真っ黒くて、その先どこまでも続いていそうに見える銃口。
「サイショカラソウヤッテコロシテオケバオレニナゲトバサレルコトハナカッタノニヨ。ナゲトバサレタカッタノカ? ソレトモドウルイノシタイセイサクハヤッパコワクテデキナイ、カ?」
江久さんがゆっくりと目をつぶった。カタカタと銃口が揺れる。
「……あの水死体じゃだめなのか」
「イキタニンゲントイウヤクソクダ。……ジャアオマエヲクウ。マ、ソノアトコイツラモクウケドナ。ドウセオマエガコロサナクタッテオレガコイツラクウンダヨ。オマエガコイツラヲコロセバオマエハイキノコル。オレハテマガハブケル。イッセキニチョウダ」
怖くなって少し後ずさりした僕の足にコツン、と何かが落ちてきてかかとに当たった。拾い上げる。アランの拳銃。そうだ、ズボンの後ろポケットに突っ込んだんだっけ。
江久さんはさっきの姿勢のまままだ固まっている。いい加減イライラが頂点に達したらしいメローはついに持っていた二本の槍のうち一本を振り上げて…………江久さんの胸にぶっ刺した。かっと目を見開いて江久さんが仰向けに倒れる。ひっ、と僕ののどで音がして、後ろの明日香が悲鳴をあげる。床に敷かれた藁に、ピッと滴が散り、じわじわと赤い液体が浸食していく。
「アバヨォ、江久」
ずぼっとメローが槍を引き抜く。引きずられて一瞬宙に浮いた死体が床に落とされてバウンドした。
「サテト…メンドクセェガリョウリノジカンダ」
メローがぺたりぴたりと歩み寄ってくる。槍を持ち直した。僕の指が銃の表面をさぐり、無意識に拳銃の安全装置をはずす。メローが近づいてくる。槍がすっと持ち上がって、
引き金を引いた。
海に日照装置が沈んでいく。夕暮れの砂浜を、明日香が男の死体を引きずって海へ歩いていく。僕はメローの死体をひきずっている。明日香は何も言わない。僕も何も言わない。二人、ただ黙って黙々と作業を続けていた。
死体を海に投げ込む。しばらくして潮が満ちたらたぶん波がさらっていくだろう。
「……人殺し」
ぽつりと明日香がつぶやいた。僕は無言で目をそらす。
「だって、……殺さないと殺されそうだったし」
「だから、逃げようって……」
「逃げようと思えば逃げられたと思ってるのかい。僕ら奥側に居たんだぞ」
「やってみなきゃわからないじゃない! なにも、……何も、殺さなくても」
「……」
それで、助かると思う? 口には出さず視線を落として靴の先で地面をぐりぐりとえぐる。明日香もしばらく黙ったままその場に立ち尽くし、トイレに言ってくると言いおいて小屋の方へ戻っていった。
波に濡れないぎりぎりの場所で
握りしめていた手を、ぱっと広げる。
僕は、人を、銃で撃った。あれはメローだと言われたけど僕には人間に見えた。人間にみえたまま僕はそいつを撃った。人殺しで間違いないはずなのに、仕方なかったんだそうするしかなかったんだと頭の中で言い訳をぐちゃぐちゃとわめく自分がいる。妙に落ち着いていてやるべきことをやったような達成感すら感じはじめている自分がいる。僕が僕にだまされているみたいだ。なんなんだよ。
明日香の言う通りだ。何も殺す事は無かった。だけど僕の力量では、生き延びるためには殺しの道具を用いるほか無かった。僕は無力だ。無力なせいで、殺してしまう。殺さずにすます事ができなかったんだ。
「何か変わったものでも見えますか」
どのぐらいの時間そのままぼぅっとしていただろう。突然横から声をかけられてすごく驚いた。振り向く時勢い良く首をぐりんとしてしまい軽く筋を痛めた。
「変わりませんね、ここは。何もかも昔のままです」
隣に黒いローブの女性が膝を抱えてすわっていた。上を見上げていた目線を僕の方に戻してふっと笑う。美人だ。……って。
「クリス……。さっきは何してくれたんだよ。突然放り出すなんて」
クリスは名前を呼ばれたことに妙に喜び、嬉しそうに微笑んだ。僕の文句は完全スルーしてまた戻って来る日を心待ちにしておりました、などと言う。またって何だよ。僕はここに覚えはない。さらにクリスはお迎えに参りましたと続け、他のお仲間さんの護送先に案内させていただきますと丁寧に頭を下げ手をこちらに差し出した。
「ちょっ……クリス、明日香は」
「明日香様はトーマスがご案内します。ご安心を。私は修徒様に同行させていただきます」
「でも」
「信じてください、修徒様。私は決して嘘をつきません。そうプログラムされていますから」
クリスは腰をおとして僕と目線をあわせた。まただ、違和感。この高さ、このまなざし。何度も見た。それも昔の話じゃなくてごく最近に。けれどどうしてだろう、そのまなざしの主の顔が思い出せない。
「クリスは……公正たちが、何をしようとしているのかわかってるのかい」
「いいえ。しかしあなた方の成すことがもたらす結果はある程度知っています。それに私の死も含まれることでしょう」
どういうこと。目できく。公正はアンドロイドのシステム司令塔を探すと言っていた。僕だって知っているのはそれだけだ。その場にいなかったクリスが何を知っているというのか。
クリスはしばらく僕の顔を見つめて黙っていたがやがてため息まじりに微笑んで暗くなる海のはっきりしない水平線に目を移した。
「私はむしろそれを望んでいるんですよ」
僕はクリスを視界に入れないように砂浜の奥の森を見つめた。森のさらに奥はもう真っ暗だ。砂浜を駆け上っては滑り下っていく波の音。手でつかんだつめたい砂。さらさらと指の間からこぼれ落ちて足下の砂に混じり、見分けがつかなくなる。
ざっ、と音がして振り返るとクリスが僕にひざまずいていた。
「……私は、修徒様に忠誠を誓います。修徒様のおそばにおります」
「いやだ」
即答。突然何を言いだすんだ。
クリスは少し顔をうつむかせたが何も言わずに静かにうなずき、さぞお疲れでしょう、森の中によい寝床を準備させていただきましたからと僕の手を引っ張って歩き始めた。今度はいやだと言う暇はくれず、僕の歩くペースを考慮しない早歩きで森の中に連れ込まれた。森に入って多少ペースは緩んだがまだ数度地表に露出した木の根っこに足をとられそうになった。森の木々の深い緑が夜に映え、生き生きとした枝を広げていた。しばらく歩いた先の太い木に大きなウロがあって、その中に柔らかい草が敷き詰めてあった。ここが寝床らしい。僕は半ば押し込まれるようにウロにもぐりこんだ。入り口に背を向けてまるくなる。
「おやすみなさいませ」
僕は返事をしなかった。
目をつぶるとふっと江久さんの顔が浮かんで、ぎゅっと手近な紐(ひも)を握りしめた。あ、僕の鞄だ。引き寄せて抱え込む。メローにひいた引き金の感触がまだ指に残っていた。
こんなやつ、誰も助けてくれるわけない。クリスが言った事はきっと全部嘘だ。みんな僕と合流することはないだろう。忠誠を誓うだなんて仰々しいこと言って、だまそうとしてるんだ。明日香だってトイレと言いつつ戻って来なかった。トーマスは……ちゃんと明日香を、みんなの所に送り届けてくれるだろうか。
顔の横に敷き詰められている草が湿っぽくてうっとうしい。あおいにおいで鼻がツンとつまる。僕はずっ、と鼻水をすすりあげてさらに固く目をつぶった。
これが最初から全部嘘で、目が覚めたらもとの世界にもどってたらいいのに。
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