第2話
避難するために荷物をまとめていた時は、レンにも多少の不安はあったのだが、いざ避難先の体育館でヒロの家族と会い、隣り合ってスペースを取り、荷物を広げていると、なんだか修学旅行のようでちょっと楽しくもあった。
いくら政府から指示が出ていようが、自衛隊とおぼしき人たちが厳しい表情でなんやかんやしていようが、身近に被害があったわけではないのだ。テレビでCGのような不思議な映像を観ただけ。実感は全くない。
大人たちが、ご飯やお風呂はどうするのかしら、洗濯は、トイレも危ないって言うわよ、一緒に行きましょう…など、難しい顔をして色々相談しているのを尻目に、子供たちは持ち寄ったゲームで遊んだり、漫画を交換したりしていた。
「ヒロくん!」
声をかけられたヒロと一緒にレンは顔を上げた。クラスメイトのリリナが立っていた。
「レンもいるじゃん。二人で隣のスペースなの?いいなぁ。うちは端っこ。入口側。」
リリナも小学校からの幼馴染である。中学校になると、今まで何とも思っていなかった異性の同級生とは、何故か突然気恥ずかしくなって距離を置いてしまう中、リリナはおかまいなしに男女問わずに仲良くしていた。クラスの中心人物でもあった。
――レンはリリナに淡い恋心を抱いているのだが、同時にリリナが好きなのはヒロだと言う事にも気付いていた。リリナが『くん』付けするのはヒロだけだったし、妙に当たりがきつかったり、逆に変に優しかったりするのだ。
レンはヒロの方を見た。リリナに何と答えるのだろうかと、ちょっとドキドキしていた。
ところがヒロはと言うと、読んでいる漫画に視線を戻し、
「ふーん。」
・・・と、それだけ。
明らかに失望した表情のリリナは、そのままプイ、と背中を向け、自分の家族がいるであろう方向にパタパタと走り去っていった。
「なぁ、ヒロ。リリナがっかりしてたぞ。」
「うん。」
「…リリナ、ヒロのこと好きなんじゃね。」
「うん。」
よほど漫画が面白いのか。ヒロにはレンの言葉も全く耳に入っておらず、適当に相槌を打っているようだった。レンは呆れて溜息をついた。
その時、体育館の入り口の方から凄まじい悲鳴が聞こえてきた。流石にそれにはヒロも顔を上げる。なんと、あの赤い人型が、複数、体育館に入って来たのである。体育館は一瞬でパニックに陥る。学校の先生や自衛官が、あるいは警察官か警備員だろうか、それぞれ何か叫び、指示を出しているようだったが、人々の悲鳴にかき消され何を言っているのかわからない。
床に置かれた荷物を蹴散らし、逃げ惑う人々。赤い人型は手あたり次第、近くの人に手を伸ばしては『食って』行く。
「やだー!おかあさーん!!」
赤い人型に向かって、リリナが近くにある荷物を投げつけていた。どうやら捕まっているのは母親らしい。それからパン、パンと発砲音がした。思わず耳をふさぎ目を閉じて、ヒロとレンはしゃがみ込んだ。
レンがうっすら目を開けると、人型は掴んでいたリリナの母親を床に降ろし、他の人型と地面に吸い込まれるように消えて行くのが見えた。
体育館は一瞬静寂に包まれ、その後すぐに、さざ波のようにざわめきが広がって行く。その中にすすり泣くような声も混じっていた。
結局その時、人型3体に『食われた』犠牲者は全部で13人に上ったのだった。
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