第16話 男には男にしか分からないことがある

「……」

 気恥ずかしさに耐えられなくなったのか、急激に赤面した新倉は再び「くそっ」と吐き捨てて、先に歩き出した。

「女子には知られてないみたいだから、そこは安心していいだろ」

「そうなのか?」

 歩みを止め、振り向く新倉。早川は「ああ」と請け負った。

「男子でも知ってるのは多分、僕だけ。委員長も気付かなかったみたいだ」

「そうか……いや、はっきりって、おまえに知られるのが一番恥ずいってーの!」

「何でだよ。僕だって同じことになるかもしれない。柏原さんの、というか女子のお尻や胸に目が行って興奮するくらい、きっと誰にでもある」

「……おまえ、むっつりすけべとかいうやつか?」

「違う」

 即座に否定し、苦笑いを浮かべる。

「男ならごく当たり前の反応だと思う。鼻から血を出すかどうかは人それぞれだろうけどね」

「結局そこかよっ。さっきごまかしてくれたときはいい奴だと思ったけど、やっぱり、親友にはなれそうにはねーな」

 新倉はそう言って、まだむずむずが残っているのか、鼻の下を指でこすった。そしてまた歩き始める。

「知り合ってまだそんなに経ってないんだし、ゆっくりでいいからお互いのことをしれたらいいよ」

「~っ。何か力脱けるだよな、早川の言い分を聞いてると」

「僕なんかのことよりも、このあとどうするつもりでいるのか、そっちの方が他人事ながら気になってるんだけど」

「え?」

 会話しながらではあるが、急いで戻らねばという意識は二人とも強くあって、かなりの早足になっている。

「柏原さんに何て言い訳するのかなと」

「……」

 若干、スピードの落ちる新倉。早川は彼に合わせた。

「正直に言って、素直に謝っとけって」

「分ーってるわ、それがいいことくらい、俺にだって」

「それができたら苦労がしないってやつ?」

「そうそう。あー、考えるだけで頭痛くなりそう。やっぱ、サボろっかな。――って、おい?」

 一段と速度を落とそうとした新倉を、早川は背中に手をあてがって押してやった。

「あ、お押すなよ」

「新倉君は考えたことない? 君が先送りにするせいで、柏原さんも嫌な気分がずっと続くかもしれないって」

 早川がさらっと言ったその台詞に、新倉は押し黙った。やがて歩く速さを戻しながら、

「分かったよ。しゃあねえな」

 と応じた。


 ちなみにこのあと新倉は、最大限に絞ったノズルの水流を三十秒間受けることで、ノーサイドにしてもらえましたとさ。


 え? 身体のどこで受け止めたかって?

 それは言わぬが花というもの。


 ん? お尻、ですか。

 うーん、そこだったら倍返しとは言えないのでは。

 さあ、あとは読者の皆様のご想像にお任せするとしましょう。


             *           *



 つづく

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