第10話

受付の女性に教えてもらった店は大変美味だった。店内も洒落ていて居心地のいい空間であったため食後にお茶をしたりと大変リラックスでき、俺は意気揚々と店を後にしたのだ。


『主様、このあとはどうなさいますか?』 

「そうだな~、とりあえず拠点でも決めようかな?古のあそこにいつでも帰れるけどこれからこの街で生活していくならやっぱり拠点は必要だからね」

『この街にするのですか?』

「ああ、なんだかここが気にいったよ、たしかに帝都の方が栄えているだろうがこの街の人々も明るく、笑顔が溢れている。なにより」

『なにより?』

「また移動したりするのが面倒くさい。今の所問題もないからここにする。なので拠点を探すぞ」 

『主様がそれでいいのなら私に異存はありません。ではこの街で手頃な物件を探しますか?私はすでにこの街の情報収集は完了していますので主様のご希望の物件をすぐさま検索可能です。』

「さすがエル、なら」


俺はエルに希望を伝えた

曰く、日当たりが良く、ご近所付き合いとか面倒事無い、さらに買い物等が楽な場所と自身の希望を口にした。


『畏まりました。しかし、驚きました。』

「なにが?」

『主様は元王族、いうなれば箱入り息子です。魔物討伐や薬草採取、の時はまるで水を吸ったスポンジのように慣れた手付きで戦闘を行えた。さらにはギルドや先程の食堂での立ち居振る舞いは普通の平民にしか見えませんでした』

「あ~、それな、戦闘に関しては一応王宮の騎士や魔法士に教えてもらっていたのはあったけど一番の理由はなんか馴染むんだよ」

『馴染む?』

「ああ、セリーヌさんが俺にくれたコレクション達がまるで幼少の頃より使っていたように馴染むんだ。なんかすでに使い方が分かってるみたいな感じといえばいいのか?なんでかは良くわからないけど・・・」 

『・・・なるほど、では平民の立ち居振る舞いについては?』

「そっちか、そっちは黒歴史になるんだけどな、俺がこの二年半付き合っていたレイチェル・パニア男爵令嬢、今なら思い出せるのだが、以前はあんなに旬悪な女性ではなく天真爛漫な子だったんだ。それで最初、まだ恋人になる前の事だ。俺は良く彼女と買い物、生徒会などで使う物なんかの買い出しに街に出ていてな、その過程で色々な店に行ったんだよ。」


そういえば最初彼女は成績優秀で誰にでも優しく接していた。それで生徒会役員に抜擢されたんだった。いつからか別人のようになってしまったが・・・


俺は二度と会うことないであろうレイチェルの顔を浮かべたのだった。


『検索が終了しました』 

「お、終わったか」

『主様が希望された物件はこの街にありません』

「ないの!?」

『残念ながら。ただ、街の外れになりますが手頃な物件が一軒ありました。取り扱っている不動産も見つけてありますので今から向かいますか?』

「今からでも大丈夫か?」


今はすでに日も傾き、薄っすらと暗くなってきている。食後のお茶に時間を使い過ぎてしまった様だ。


『大丈夫です。不動産は主様から見て右側、赤い屋根の建物ですから』

「近いなっ!!」


なんというか、都合が良すぎて逆に怖い・・・


「ま、まぁ、いい、とりあえず店に入るか」

『はい、主様』


俺はエルに指示された店に向け歩き出した

ちなみに30歩くらいで着いた。


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