第6話 in the afternoon

「之締、お前どれぐらい授業聞いてた?」

「うっ…ご、50分…」

「嘘つけ40分くらいから寝てたろ」

「こまけぇんだよ…大体他の人間も寝てんだろ…」

「あぁ、だが寝てる人間の大半が部活動で結果残しまくってるやつらだ、あいつらは部活動推薦組だろ?だがお前は違う、一般組だ、だったら授業は聞くべきだ」

「正論ばっか言うな…ここんところ結構勉強してんだ…」

「全く…」


本日分の授業が終わり、部活に行く生徒はそそくさと教室を出て、残っているのは補修組、自習組、そして帰宅組だ。

帰宅組の中には友人と話しているやつも見受けられた。

俺は之締が授業中睡魔に負けていたので注意中だ。

全く、怠けるのは良いが場所を考えるべきだ。


「はぁ…天才さんにゃ適わねぇよ」

「土日はかなり時間あっただろ、そういう時にしなさい」

「うぐっ、正論野郎が…じゃ、俺は塾あるからな、先に帰るぜ」

「おう、頑張れよ」


荷物をまとめ、之締は出ていった。

窓から心地よい春風が吹き、俺を急かした。


「…俺も行くか」


まとまっていた荷物を肩に担ぎ、教室を出て、いつもならそのまま古臭い階段を下りきるところを途中で曲がり、周囲を確認して、とある教室の扉を叩く。表札は『生徒会室』。


「あ〜、手伝いに来た者ですが…」


すると中から、ひょこっと愛しのメガネっ子が登場。

…可愛いと思ってしまう、病気かもな。

ま、そんなこっ恥ずかしいことばれたらたまったもんじゃないので顔には全く出さない。


「…待ってた...よ...」


俺は人生初めて『上目遣い』にこんな破壊力があることを知った。


「…そんなアニメみたいな」

「じゃあ『お帰り』の方が良かったですか?」

「新婚夫婦じゃねえんだよ…んじゃ、邪魔する」


お互い全く相手の顔を見ず、生徒会室に入り、入り…


「…なんだ?その机の上のプリントは」


机の上に軽く…50cmぐらい積まれている紙を見て思わず声を上げた。

現実的な量じゃねえ。


「見て分からないんですか?業務です」


翡翠は平然となって答えた。

さっきまでのムードはどこへやら。


「はぁ…それ何日分?」

「2日ほど」

「馬鹿じゃねぇの?」

「…まぁ、やってれば終わりますよ」

「はぁ…じゃ、とっととやるか」


翡翠の隣に腰かけ、荷物をその辺に放り、プリントを取る。

そのプリントの内容はアンケートだった。


「…なるほど、確かに俺でもできるな。アンケの記録は何処に?」

「あ、アンケートは私がやるので…一旦仕分けしてもらっていいですか?」

「?これってお前が全部集めてるんじゃないのか?」

「…えぇ、大半はそうなんですが、1部は他の人達が集めてて…あの人らは事務的なことは私に預けとけばいいと思ってるんです。困ったものです」


苦笑いしつつ答え、手を動かしている。

なんというか手慣れていて、かわいそうに思う。


「ほ〜、しんどいな…ほい、アンケに要望に先公共の何か、あとその他って感じだ」

「あ、ありがとうございます…早くないですか?」

「おい、さすがにバカにしすぎだ。…まったく」


そこから2人とも真面目に業務に取り組み始めた。

そうすりゃ早く終わるしな。


《☆ ☆ ☆》


(嬉しいぃぃぃぃい…)


翡翠、感謝カンゲキ雨嵐。

まあ一ミリも顔には出てないけど...うれしいのは事実。

なんだけど、あんまり話せなくなってる。

仕事の量が多いせいで。


「ん、俺分のタスク終わり」

「え、早…高校生?」

「こんな書類整理簡単だよHAHAHA…さて?ほかにはないのか?」

「あ、えっと…うん、今のところないね」


想像以上に速い作業スピードだったので、自分の目を疑った。

山のように積み重なっていたプリントが、きれいに仕分けられている。

こいつできる…


「ふ~む…じゃのんびり勉強しますかねぇ…」

「え、帰ってもいいんですよ?」

「美少女と話せる機会があるってのに、逃す意味がねえだろう」

「…よくもまぁ平然と言えますね...」

「んだよ、これでも理性の仕事は早い方なんだぞ?」

「理性がちゃんとした仕事をしてるのか気になりますが…」


こいつ…優位に立ったからって、今日に元気になりやがってぇ…

自分の頬が染まったのを皮切りに、微妙に翻弄され始めた。

日常的なコミュ力の差を感じる…


「理性に個体差とかあるか?」

「少なくともあなたのクラスの男子はあまり理性が強い方ではないでしょう?」

「思春期のサルどもと比べんでくれ、あいつらにデリカシーも気遣いもあったもんじゃねぇ」


自分も思春期だろうに、という言葉はあえて言わなかった。

実際思春期かどうか怪しいレベルで卑猥な言葉を発している時を見たことがないことと、他の男子の暴れようと比べると紳士そのものだからである。


《★ ★ ★》


「容姿をどうのこうの言われるのは女子的にもあれなところがありますからね~…まぁ個人の意見ですが」


と美貌の持ち主が申すので、俺はため息交じりで言い返した。


「容姿整ってる側が何を言うか…」

「中間よりちょい上の人間も言えたことじゃないでしょう」

「おほめいただきどうも…って、中間よりちょい上ならも少しモテてもおかしくないだろ」


俺の数少ない悩み…モテない。

いや正直モテなくても全然かまわんのだが、思春期男子としって思うところは少なからずあるのだ。

普段からあまりふざけず、一部除いて女子には丁寧…まぁ常識だが、しているのだ少しくらいあってもいいんじゃないかとは思う。

が、ないのでこうなっている。


「一人いますけ…いや、何でもないです、聞かなかったことにしてください」

「…口には気をつけろよ?」

「ふつうそういうのは聞こえないふりするものでしょう…」

「聞こえたもんはしょうがねえ…それに、聞こえたとして誰かなんてわからんだろ?」

「…ま、まぁ確かにそうですね…」

「でも予想はできる、そしてこの予想が外れてたら俺はお前の異性関係を疑う」

「…自分が圧倒的に不利なことに気が付いたのでこの話やめませんか」

「そうだな、じゃレースの話でもするか?」

「大賛成です」


そうして、業務をこなしつつ俺たちは色気ゼロ、むしろ排ガスのにおいが漂いそうな話を始めた。

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