第3話 強くなりたい
「人殺しの手伝いをしてくれ」
リナの顔は真剣になり、空気が重くなった
少し負い目を感じている顔でリナはそういった
「殺しの技は役に立つ それは私が教える
あと……私達は無差別に殺しをして楽しんでいるわけじゃない
まぁ信じれるわけないと思うが」
俺は冒険者として生きていくには弱い
迷いがないといえば嘘になる
でも強くなれるのなら……
その日は食事を終えて解散した
これからのことを思うとよく眠れなかった
「んーー」
体を伸ばしながら昨日のことを思い出す
あんなに残酷な経験をしたのだがそこまでのショックはない
思ってたより俺はタフなのかもしれない
もういじめられないと思うとギルドに行くときよりもテンションが高くなる
リナと合流する リナは今日も疲れた顔をしている
「おはよう イル」
リナは俺の身長に合わせて少し中腰で挨拶をする
「おはようリナ カテリーナ」
カテリーナはこちらに視線を向ける
彼女からの返事は聞けなかった
「まぁ……許してやってくれ こういう性格なんだ」
「じゃあさっそくトレーニングだ ついてこい」
リナに連れられてやってきたのは薄暗い屋敷の中
真っ暗で何も見えない
カテリーナと俺はリナと手を繋いでいる
どうしてリナは見えているんだろう
暗視系の魔法を使えるのかもしれない
「グチュグチュ」
「ぁっ……ぁ」
変な音が聞こえる
「ぁああ……やぁ……」
「着いたぞ イル」
着いたってどういう……
「ガシャン」
明かりが付くとそこにいるのはゴブリンだった
ゴブリンは縛られた男の体を傷つけて楽しんでいる
リナとカテリーナはいない
「なっ……ゴブリン リナ助けてくれ」
周りを見渡すと俺は鉄の檻の中にいた
なにがどうなっているのか分からない
檻の中には俺とゴブリンと血だらけの男
縛られた男は傷だらけ
ゴブリンは殺すのが目的ではない
苦しんでいるのが楽しいんだろう
「ギァァ グゥ」
ゴブリンは愉快そうに鋭く伸びた爪で体をえぐっている
俺はどうしてこんなところにいるんだろう
リナに騙されたのだろうか
「ぁぁ ぐぁぁ」
声とも吐息とも言えるような音を出している
檻の周りにはリナとカテリーナと屈強そうな男が1人
リナとカテリーナは無表情でその様子を見ている
次にゴブリンに遊ばれるのは俺ってことか
ここはなんなんだ
なんでこの男はこんな目にあっていいるんだ
ゴブリンはまだ男を痛ぶっている
男の表情はもう変わらない
多分もう亡くなったのだろう
ゴブリンは死を確かめるように男の肉を頬張る
死を確信したのか肉を飲み込んでゆっくりと顔を動かす
なんて目をしているんだ
どうしてリナは何も言ってくれない
理不尽な状況に怒りがふつふつと湧き上がる
ゴブリンはこちらを見る まさしく捕食者の目だ
怒りは即座に恐怖へと変わった
思わず後退りをする
背中に鉄格子が当たる
ただ恐ろしい
三歳児が見覚えのないところで母親がいなくなったときのような絶望感だ
ゴブリンは俺が怯える姿をじっと見ている
品定めをするように
ゴブリンは歩き出す
口についた血を舌舐めずりしながら
そして俺を目指して一直線に飛びかかる
怖い
足がすくむ
体がうまく動かない
剣がいつもより重く感じる
なんとか避けることができた
ゴブリンってこんなに動きが早かったのか
鋭く伸びた爪と牙
体は小さい
やるしかない
剣をぐっと握り締めゆっくりと近づく
いつもはパーティの後ろに隠れていた
自分にはできるはずないと
今は目の前にいるのはゴブリン
ゴブリンの目前にあるのは獲物
やらないとやられる
「ギィぁぁ」
引っ掻いてくるのを盾で防いで心臓めがけて剣を突き刺す
「ギァァ ウゥ」
うまくはいかず、ゴブリンの右腕に突き刺さる
ゴブリンは渾身の力でこちらに体当たりをする
やばい……避けれない
ゴブリンは馬乗りになってこちらを見下す
ゴブリンの腕から俺に血が流れ落ちる
「ギァァィ」
顔面を何度も殴りつけてくる
あぁ……なんでこうなったんだろう
俺 ここで死んじゃうのかな
嫌だな
まだやりたいことを少しもできてない
ドラゴンの背中で大地を駆け抜けたり 精霊と話したりしたかったなぁ
「リナ あいつ死んじゃうよ」
「そうだな」
ゴブリンはだんだん弱っていく俺を楽しんでいるようだ
気づくとゴブリンは宙に舞っていた
「まったく ここまで弱いとは」
リナがゴブリンを蹴り上げる
「ギィィ」
ゴブリンが床に落ちて体勢を立て直す
さっきの楽しむような目から一変して怒っているようだ
ゴブリンは拳を振り上げてリナに走る
リナはゴブリンの動きの速さをもろともしない
ゴブリンが攻撃をする前にリナはゴブリンの首を掴んで地面に叩きつける
あの恐ろしいゴブリンを完膚なきまでに叩きのめす
「おい ゴブリンを殺すんじゃねぇぞ」
檻の外にいる男が声を上げる
「うるさいやつだ 大事な商品を台無しにするわけなかろう」
やれやれという表情でぼやく
ゴブリンは媚びた目で鳴く
「クゥゥ グァ」
目には涙が浮かんでいる リナはそんなことはお構いなしの様子だ
ゴブリンはすっかり捕食者から被食者に移り変わる
「さぁ 立てイル こんなところで終わっていいのか?
お前の人生はこれからだろうに 弱いやつは死ぬ
誰も守れない」
あぁそうだ どこかで俺は期待している
誰かが救いの手を差し伸べてくれるのを
その結果がこのザマだ
強くならないとなにも出来やしない
2年前にあいつらが死んだのも、俺が弱かったからだ
立ち上がることすらうまくできない
揺らめく足 混濁する意識
リナが差し出す手を取り、倒れ込む
「まぁ 今日はこんなもんでいいか どう思う?カテリーナ」
「やりすぎ気絶しちゃってるじゃん」
ゴブリンは怯えた顔で二人の会話を聞く
「ありがとなシェルド ゴブリンを使わせてくれて」
「かまわん またガキを拾ったのか お前にはここは闇が深すぎる
早く抜けないと死んじまうぞ」
リナはうつむきイルを担ぐ
「リナ 死ぬわけないよね?」
カテリーナは心配そうに問いかける
「いい男を食うまではゾンビになってでもこの世にいる」
「あはは じゃあ不死身だ」
リナはカテリーナの背中を叩く
「おうおう 言ってくれるじゃねーか
最悪の場合は肉奴隷を買ってやる ぐへへ 美少年の恥じらう姿は最高だぜ」
「さいてー きも」
目を覚ますと体の痛みは全くなかった
死にかけると回復力が上がったりするのかな
まぁいいや リナに稽古をつけてもらおう
リナがすやすやと眠っている
しかも俺に足を絡ませて
刺激が強い……どうしようか
リナの足思ってたよりやわらかい
リナを起こさないようにゆっくりと足をずらす
「んん〜 はぁぁぁ」
リナを大きく口を開けてあくびをしている
起こしてしまったようだ
リナと目が合う なんか変な感じがする
「ふぅ〜」
息を顔に吹きかけてくる
手を伸ばして俺の髪を嬉しそうに触る
「真っ白の髪ってちょっと珍しいよな」
リナは体を寄せる
お互いの鼻が触れそうな距離だ
か、顔がちかい……
息あたってる
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キャラ紹介
リナ
28歳
灰色の髪
髪型はポニーテール
180cm
カテリーナ
16歳
金髪ロング
163cm
イル
14歳
白髪で目にかかるほど伸ばしている
160cm
シェルド
32歳
176cm
坊主
____________
私の作品を読んでいただきありがとうございます
嬉しいです
もし少しでも面白いければ評価していただけると
創作意欲が増します
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