孤独

「はあ、本当に無事で良かった……」


 心太さんが無事だと判明して少しばかり安心する。


 そのまま脱力し、私はベッドに身を任せることにした。


 私が逃げ込んだ先。そこは、かつて心太さんと訪れた病院である。


 鬼気迫る様子で「匿ってくれ」とお願いした結果、ランばあちゃんと院長先生は2つ返事でで了承してくれたのだ。


 ちなみに与えられた部屋は、少し前の時間に琴葉ちゃんが使ってたものだったりする。


『これからどうするの?』


 そう、それだ。問題はそれ。


 何とか逃げ込めたのは幸運だった。それは良しとする。この病院に受け入れられなかったら、私はネットカフェだのホテルだのを梯子しなければならなかったのだから。


 しかし、根本の問題が解決したのではない。むしろ、問題山積みで頭が痛くなる。


 おそらく心太さんは、自身に降りかかっているであろう問題を解決するために行動を開始するだろう。ならば私も、この問題をどうにかすべく動かねばならない。


「分からない。取り敢えず位置情報機能なんから切ってるからすぐには見つからないだろうけど、いつかは……」

『見つかる。なら、それまでに解決しないとだよね』

「でもどうしよう。どれだけ嫌だと言ったところで、両親は聞く耳を持たない」


 どうして私が嫌なのか。まずそれを親は知らない。仮に話しても、曲解して納得は絶対にしない。


 どうせ両親は、フランスへ行きたくないのは「言語の壁が」だとか「見知らぬ土地は不安」という理由だと思ってるのだろう。


 違う。そんなちっちゃい問題なんざ、あっという間に解決する。


 私がどれほど心太さんを想っているのか。それを理解しない限り、私の納得がいく答えを両親が出せるとは到底思えなかった。


「警察を使えば1週間ぐらいで見つかりそうだし、見つかったらその瞬間ゲームオーバーだし。厳しすぎるよ、色々と」


 国家権力の力を使えば、この病院に逃げ込んだこともすぐバレるだろう。だから本当に時間がない。


 時間がないのに、解決策は全くもって出てこないのである。ほぼ詰み状況とまで思えてきた。


「どうしよう……」

『どうしよっか……』


 2人してこの体たらく。そんな状態で良い妙案が生まれることはない。


 結局私は思考を放棄し、持ってきていた紙に様々な絵を描き出すことにした。


 桜の木々、舞い散る花びら、空の雲、鳥。病室の窓から見える様々なものを、次々と紙にペンで叩き出す。


『あ、ここは……』


 たまに入る琴葉ちゃんの意見を取り入れつつも、私は色んな絵を完成させた。


 こうやって絵を描いている間だけは、特に何も考えることなく楽しい時間を過ごせる。心太さんのピアノを聴くのと同じぐらい、幸せなことに没頭できるのだ。


 だが、それもずっと続きはしない。そのうち空虚な気分になってくる。


「はあ……」


 会いたい。あんな出来事があったからこそ、私の最愛の人に。


 やがて私はペンを投げ出し、ベッドの上に大の字になって寝転がる。


 外を見上げると、憎たらしいぐらいに澄み切った青い空だ。白い鳥が青空を駆けており、随分のびのびとしていた。


『お姉ちゃん……』


 心配そうに声をかけてくれる琴葉ちゃんには申し訳ないが、彼女の言葉もそこまで耳には入らなかった。


 寝ようにも眠くない。まだ朝だから。


 私はただ、リアルに時間が経過していくのを感じることしかできない。


 何度も時計を見ては絶望し、また天井と空を見る。それを何度も何度も繰り返し。まずは1日が経過するのだった。

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