遺産の続き

「おい、お前そのメールまさか!?」

「あ、やっべ……」


 見られた。高校へ登校している最中、心愛から送られたメールを見て思わずにやけてると、偶然にも通りかかった友人にスマホを覗き込まれたのである。


 ちなみに心愛からのメールの内容は大したものではなく、普通に朝の挨拶がハートの絵文字と共に送られただけだ。


「おいこら説明しろ。お前、急に2日も休んだと思ったらこんなメールもらいやがって。何しやがってたんだ?」

「は、話すから少し声のボリュームを下げろ。喧しいぞ」


 おそらく1番の友人だと思っている凛くん。やや大きい声で毎度話すため、こうやって諫めるのはいつも通りの光景だ。


 話している内容は全くいつも通りじゃないけどね!


 さて、どうやって説明しようか。凛は良い友人なのだが、少し言葉を直情的に捉える節がある。変に捻った言葉で伝えたら絶対にめんどい。


「んで? 何があったん?」


 興奮から一転して立ち直った凛。本当に顔が騒がしい。嫌いじゃないけど。


「まあ、うん。色々あった末に恋人がね」

「マジ!?」

「マジ。あと声デカい」

「ごめんごめん。そっかぁ、ついにお前にも恋人ね。授業サボって恋人作るなんて、お前もやるじゃんか」


 確かに、第三者から見ればそう感じるのか。授業サボって恋人を作った、色んな意味で勇気のある人間だって。


……母さんには何て説明しようか?


 ダメだ。問題が山積みすぎる。今すぐにでも、心愛の膝枕で寝て現実逃避がしたい。


「おい、遠いとこ見る目なんかしてどうしたよ?」

「……別に」


 あとで考えよう。面倒事は後回し。鉄則だ。


 凛に「何でもない」と素気無く答えると、僕は高校へと急ぐのだった。



 さて、学校へ到着した僕は早速リュックにしまい込んでいた楽譜を取り出す。


 おもむろに楽譜を取り出した僕を見て凛が何か言ってるが、無視して机の上に広げると、鉛筆を手に取って5線に書き込み始める。


「おいおい、急に何やってんの?」

「作曲」

「へ、作曲? 作曲……」


 頭の上にハテナマークを浮かべている凛は無視し、響くんが途中まで作り上げた楽譜を改めて見てみる。


 実際に弾いてみると1分ぐらいの分量しか完成してないのだが、恐ろしいまで正確に詰め込まれた音符には軽く戦慄を覚えた。


 この調子で響くんが曲を完成させたとしたら、一体どれほど悍ましい楽曲がこの世に生まれたのだろうか。そう思わせるぐらい、この楽曲からは響くんの本気度合いが伝わるのである。


「……本当に完成するのだろうか」


 いやマジで。引き受けたこと自体は全く後悔してないが、楽譜をジックリ見れば見るほどにとんでもない楽曲の完成を頼まれたなと感じているよ。


 しっかり音楽をやってる人なら、楽譜を見るだけで逃げ出したくなる。そんな代物を平然と作り上げ、さらには演奏しようとしていた人物からそれをを託されたともなれば、自然と気が引き締まる。


 と、まあ気が引き締まれば顔が険しくなるのも当然のことで。気がつけば、凛が少し怯えた表情になっていた。


「お、おい。そんな怖い顔してどうしたんだ?」

「え、ああ……怖かった?」

「鬼みたいだったぞ。らしくもない」


 鬼みたいって中々じゃない? 結構酷い言葉じゃないかい?


 ズケズケ言ってくる凛に少しだけ腹が立った僕は、無言で彼の腕を強く握り締める。


「あだだだ!? おまっ、握力めっちゃ強いな!?」

「ピアニストの握力舐めるなよ。あと鬼ってなんだよ鬼って」


 心外だ。鬼って酷いよ凛くんや。


『意外と好戦的?』


 彼にだけだよ響くん。かなり仲の良い友人同士だからこそ、こんなやり取りをするんだよ。普段は違うからね?


「取り敢えず放してくれ! めっちゃ痛いから!」


……少しは反省しろ。

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