神か仏か
楽しく素晴らしい時間というのはあっという間にすぎてしまうもので、もう随分と料理の数も減って、パーティーも終わりの時が近づいてきていた。
料理を食べながら、様々な人と交流をしている心愛さんとは対極的に、僕はずっと院長先生とお話をしている。
色んな話を聞いた。響くんの初めてのミニ演奏会の様子。普段の過ごし方。その他色々。
中でも驚いたのは、響くんの思想が神さまや仏さまに似ていると感じたことだ。
正直ゾッとした。自己犠牲の精神を遥かに逸脱した、いっそ神聖とも感じられるその誇り高き心意気。怖いとも、すごいとも感じる。
誰かの幸福のためになら、親からもらった身体を傷つけることも厭わないその精神は、異常者だと糾弾するべきなのか。それとも仏のごとき高潔な精神だと褒めたたえるべきなのか。僕には分からない。
ただ言えるのは、僕の心臓を最初に使っていた人間は、とんでもない人物だった。それだけだ。
「先生。響くんって、その……」
「ああ。僕は、ずっとこう思ってる。響くんは、神さまか仏さまが身体を借りて降りてきた姿だったんじゃないかってね」
僕もそう思う。彼の考え方は、ちょっと我々人類の思想からは逸脱している気がしてならん。
「と、まあ本当はもっと色んな話があるんだけどね。今日はここまでだ」
「ん、そうですね。料理もきれいさっぱり食べられちゃってますし、もう夜ですし」
窓の外を見れば、ホウホウとフクロウが月明かり差す木の枝で鳴いている。時計は午後8時を指していた。
学生の諸君からすれば、午後8時だなんて夜のうちに入らないだろうが、あいにくここは病院。しかも入院患者が多数いる。このぐらいの時間に眠くなる人もいるのだ。
「君たちが泊まる病室は3階だ。昔、響くんと琴葉ちゃんがお泊り会をした時に使った部屋だよ」
院長先生が手配してくれた部屋の概要を聞いた途端、脳内にはまた記憶のカケラが映像として流れる。
病院生活をしていると、実は1つ利点がある。それは、親がどんなに遅くても8時には帰ってしまうため、そこから先は先生の許しがあれば好きな人とずっと一緒にいれる点だ。
響くんと琴葉ちゃんは週に数回のペースで同じ部屋で寝泊まりしていたようで、何度も同じベッドで楽しげに話す2人の姿が浮かんでは消えていった。
そんな部屋で、年齢的には高校生になったばかりの心愛さんと寝泊まりするって……。
いや待て。まさかとは思うが、ベッドは1つ?
「あ、あの先生。部屋の様子は昔と変わってない感じですか?」
「そうだねぇ。どうにも変える気が起きなくってさ。内装は当時のままさ。定期的に掃除はしてるけどね」
対戦ありがとうございました同じベッドで添い寝確定ですチクショウめぇ!
流石にマズい。まだ正式に恋人になったわけでも、婚約したわけでもないのに。若い男女が添い寝だなんて非常にマズい。
そんな大袈裟なって思う? 育ち盛りのい青少年の妄想をバカにしてはいけないぞ。今、この瞬間だって心愛さんと添い寝する意味を深く考えてしまってるんだからな? めっちゃ悶々としてるからね?
よく考えてくれ。年齢=彼女存在しない歴の童貞が、めっちゃ可愛い人と一晩合法で添い寝する機会が与えられたらどうなるか。そりゃもう、妄想しまくって頭パンクするわ。
さてどうしよう。ちょっと切り出しにくいけど、先生に言って敷布団でも……。
「心太さん、行きましょう」
はいそうですか。一緒に寝ないとダメですか。
僕の手を引く心愛さんの目は据わっている。多分、僕が何を考えているのかはお見通しなのだろう。
腹を括る。それしかない。
「……分かりました。行きましょう」
「あ、風呂は部屋にあるから自由に使ってね。響くんと琴葉ちゃんみたいに、一緒に入っても良いぞ~」
バカ、それを言うのは我慢しろ!
「へえ、風呂を一緒に……」
ダメだ。反論する暇すらない。心愛さんが口元を隠して何やらブツブツ言っているのだが、とても話ができる状態でないのは明白だ。
こんな事態を想定なんてしてないので、風呂に入るとしたらお互いに全裸か、それともバスタオル巻くか。
……どっちも大変よろしくない! 想像するだけで鼻血がっ!!
『頑張りなよ』
うるせえやい!
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