第4話 ミューズ開放と集う仲間たち

 ミューズもすでに二柱を開放している。

 音のミューズと旋律のミューズだ。

 

『効果音の機能が起動しました』


『バックグラウンドミュージック機能が解放されました』

 

 ミューズを開放するとゲーム内でも音に関する機能が増えた。

 一柱目の音のミューズで効果音機能の解放された。

 画面が切り替わる際よ扉の開く音や『ザシュッ』などの斬撃音が鳴ったときは少し感動した。

 ゲームに効果音は当たり前のようにあるものだと思いこんでいた。普段は気にも止めない。実は旅の途中はあまり気にしていなかった。

 けれど機能が解放されてから画面遷移や移動に音があることが嬉しかった。戦闘の躍動感も違う。なにより街中で無駄に扉の開け閉めして喜ぶ街人の描写などが印象的だった。


 二柱目の旋律のミューズではバックグラウンドミュージック機能の解放だ。

 こちらはあまり利用していない。

 花乃いろはのラジオが強すぎた。


 改めて音のありがたみを体感するにはいいゲームなのかもしれない。

 一応効果音やバックグラウンドミュージックにボイス版というオプションがある。

 機械的な効果音や音楽ではなく、花乃いろはが全て声で再現しているのだ。

 声優の仕事も色々大変だ。その苦労に報いるためにもちろん俺はボイス版に設定した。


 そして仲間も二人増えている。

 一人目の仲間はマチョスという。

 勇者に認定された序盤で最初に仲間になる男だ。

 実は偽大臣から賄賂としてホエイプロテインを貰っていた商会長の息子。当然筋骨隆々のポージングマスターである。


『俺の筋肉は穢れていた。どうしようもないインチキ筋肉だ。まさか渡されていたプロテインが賄賂によるものだったなんて。俺の筋肉は不正の塊だ。どうか勇者よ。俺を裁いてくれ。そうマチョスが懇願しています。処刑しますか? 筋肉を説きますか?』


「花乃いろはさん……なぜ悲しげに語れるの? あとなにその選択肢?」


 一体どんな気持ちでボイス収録をしているのか凄く気になった。

 当然、俺は筋肉を説いた。

 処刑する意味が解らなかったからだ。もちろん筋肉を説く意味もわからないが。


『そ、それはバックダブルバイセップス! 俺について来いと! 俺に本当の筋肉を教えてくれるというのか! そんなわけでマチョスが仲間になりました』


「え?」


 いつの間にか勇者の後ろにつくボディビルダー。

 職業が商人なのでこの図体のくせに攻撃力は高くない。けれどヒットポイントも防御力も高い。

 それに覚えるポージング魔法も強い。【俺の腹筋板チョコ】のような味方を庇う魔法もあれば【セクシーポーズ】や【ハッスルダンス】という敵の攻撃力や防御力を下げるデバフ魔法も豊富ときている。

 壁役兼デバッファーとして普通に強かった。


 二人目の仲間はアマンダ。

 なんと序盤に出た囚人をハメて、冤罪で牢獄に叩き込んだ犯人。

 そのはずだったのだが……。


『囚人さんは街中で急に女性の胸を揉むという許されない痴漢野郎でした。冤罪? 囚人さんの中では冤罪でしょう。なぜなら囚人さんはアマンダさんを男性だと思い込んでいたのですから』


「あんな非業の死を遂げたのに冤罪じゃなかったの!? しかも痴漢って」


 アマンダの姿を見る。

 完全なるビキニアーマーだ。ゲームの世界でしか御目にかかれない姿である。とても筋骨隆々である。筋肉の圧が凄い。


『囚人さんは「素晴らしい筋肉だな」とアマンダさんの胸筋を褒め称えたつもりで胸を触りました。男性だと思いこみ及んだ犯行。本人の勘違い。でも痴漢です。音無き世界ではその勘違いは死してもなお解けませんでした。言葉さえあればこのような誤解もなかったはずなのに……悲劇です。手に持っているバールのようなモノが宿敵を前に反応しています。勇者よ。アマンダさんを撲殺しますか? それともバールのようなモノを折りますか?』


「折るよ! 折るに決まっているだろ! 囚人も不幸かもしれないが、アマンダさんは完全に被害者だろ!」


『勇者はバールのようなモノを折るためにアマンダさんの手を取ります。困惑するアマンダさん。そのまま勇者は街を出て、野をかき分け、実家のある始まりの街に戻りました。アマンダさんは強引な勇者にときめいています。乙女ですから』


「いや……なんで?」


『実家には砕けたテーブルがそのまま残っていました。処分に困っているのです。お母さんは「もう少し砕けば燃えるゴミで出せるかも」と検討中です。勇者はテーブルの中心にバールのようなモノを安置します。そしてお母さんに頭を下げました。その横でアマンダさんは親を紹介されてしまったと動揺してます』


「だからどうして?」


『お母さんはやれやれとポーズを取りながら踊り始めます。そして逆立ちしてクルクルと回りながら渾身の踵落としを解き放ちました! 粉砕されるバールのようなモノ。その光景を見てアマンダさんが嫁失格判定と誤解して打ちひしがれています』


「勇者ぁぁーーー! 母親を粉砕機代わりにするな! 母親もノリノリでやるんじゃねぇよ! あといい加減アマンダさん救ってあげて! ずっと勘違いしているから!」


『破壊されたバールのようなものから光が放たれて囚人さんの魂が語りかけてきました。「あなたは女性だったんだな……勘違いして済まなかった」魂の声なのでアマンダさんに届きます。こうして囚人さんの誤解は解けました……アマンダさんは泣き崩れます。まさか男と勘違いされていたなんて……衝撃の事実です。囚人さんは死してもなおアマンダさんを傷つけただけでした』


「なんの救いもねぇーーーー!」


『そして一週間が経ちました。久しぶりの実家への帰省。勇者も昼近くまでのんびりとベッドで寝ていました。そんな勇者をゆさゆさと優しく揺らす一人の少女』


「え? 画面が変わった。誰だよこの儚い美少女は」


『アマンダさんです』


「全然姿が違うじゃないか! 一週間でなにがあったんだよ! 筋骨隆々のビキニアーマーだっただろ!」


『勇者はアマンダさんに起こされて、一階に降ります。台所では勇者の母と仲良く並ぶアマンダさんの姿がありました。もう完全に嫁です』


「ヨメ? 嫁? なにこの急展開」


『実は勇者の母は一子相伝の武術竜骨破砕拳の後継者でした。代々女性に継承される武術。息子の勇者は継ぐことができず母は悩んでいました。そこで目をつけられたのが勇者が連れてきた傷心のアマンダさんです。勇者に気があるのも見ていました。利害の一致ですね。外堀が埋まったのです』


「勝手に外堀が埋められた!」


『ご存知の通り竜骨とは船の基礎となる一番大きな梁であり土台です。あのダンスも船上という揺れる足場に対応するためのステップ。相手の船に乗り込み船上から竜骨を破砕する恐ろしい武術です。古来より海には女人禁制と言われていました。海の女神に嫌われるとの話もありますが、実は竜骨破砕拳を恐れていたのです。ミンメイ書房【バミューダトライアングルの船を割る脚】より。そんなわけで体格が変化するほどのつらい修行のおかげで一子相伝の武術を習得したアマンダさん(嫁)が仲間に入りました』


「ミンメイ書房か。なら仕方がないな……」


 その名前を出されてツッコミを入れる方が野暮だ。

 花乃いろはの語りが面白ければいい。

 このゲームはこんな感じでサクサク進んでいく。


 ちなみにアマンダさんは強かった。

 待ちに待ったアタッカーだ。職業は武闘家。流派は言うまでもない。

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