第3話 このゲームのストーリー進行
牧場にはやせ細った人々が奴隷労働させられていた。
牧場支配していたボスはすでに倒している。
ホエイプロテインの製造工場の労働環境は劣悪極まりなく、牢屋には拷問器具と共に死体が転がっていた。
全て無音。敵キャラも一切喋らない。
画面だけ見ていてもストーリーは全く分からない。
けれど、ストーリーは花乃いろはが全て語ってくれる。
ツッコミどころ満載で。
『のどかな牧場を襲った悪意。ホエイプロテイン密造のために囚われた人々を救い出した勇者は大臣が偽物であることを知ってしまう。国を覆う偽大臣の陰謀。ホエイプロテインの流通を支配することで、なんと全ての商会を手中に収めようとしていたなんて……』
「くそ……偽大臣め。ホエイプロテインの流通を支配しようだなんて許される所業か――ってなるかぁ! 商会の店員が全員ボディービルダーだからってシナリオまで筋肉か!?」
『本物の大臣は囚われの身。偽大臣の正体を暴くための証拠は冤罪で捕まっていた囚人に託された。だが脱獄した囚人は偽大臣の手によりすでに始末されている。遺体は牧場の牢屋の中。遺体から託されたはずの証拠は見つからない。偽大臣に処分したのか。――それとも? そんなわけで次は死んだ囚人さんが隠した証拠を探しましょう。逃げた囚人さんは囚人服を着ていませんでした。どこかで着替えたはずです。また当初の目的であるポージング魔法【俺の腹筋板チョコ】を教えてもらうために、ホエイプロテインを持って商店に行くのも忘れてはいけません』
「その囚人服着てるから! たぶん隠した証拠もすでに持っているから! なんで俺の買った装備品がほとんどイベントアイテムなんだよ。武器屋で売るなよ。これコスパ重視の最適解装備だよ! ホエイプロテインを渡しに店には必ず行くから、攻略に迷うことはない親切設計か!」
『シナリオの進行により所持しているアイテムの説明が変化しました。読み上げますか?』
「そういうギミックもあるわけね。もちろん『はい』を選択」
『元々はインテリジェンスオークの持つ鋼鉄の棍棒だった。死した囚人の怨念により先端がオークの蹄を模した形に変化し、バールのようなものとなった。囚人の想いが籠っており攻撃力アップ。囚人の冤罪を晴らすことで更なる進化を遂げるかもしれない』
『冤罪を晴らすため脱走した囚人の服。囚人の怨念が籠っており防御力アップ』
『本物の大臣から助けを求める手紙が隠されている厚底な靴。最後の希望』
『いつの間にか増毛中。アフロは常に進化し続ける。全ての髪を縮毛矯正すると何かが起きる。冒険の終盤まで持っておこう』
「偽大臣の正体はオークなの!? ネタバレ多すぎるだろ。しかも性能も上がっているし。それからアフロは勝手に増毛するな! お前は呪いの人形か!」
攻略疲れよりもツッコミ疲れ。
どこでどういうネタが仕込まれているのか予想ができないので油断もできない。
とりあえず街に戻って店主にホエイプロテインを渡すと、花乃いろはの言う通りポージング魔法【俺の腹筋板チョコ】を覚えた。
『敵からのヘイトを集めて味方を庇う。また次のターンの攻撃が強化される』
「味方を庇う? まだ一人だけど仲間はできるわけね。ただの庇うコマンドではなく次ターン攻撃力アップ付きは普通に使えるのはいいな。こんなふざけた名前の魔法なのに。証拠はもう持っているし王様に謁見しに行くか」
すでにイベントアイテムは入手済みなので城に直行する。
謁見の間まで止められることがない。昔ながらの不自然なゲーム仕様は踏襲されているようだ。
俺はここで王様にポージング魔法【俺の腹筋板チョコ】を披露する。
なぜかはわからない。
王様の心の声に聞いてくれ。
『ポージング魔法【俺の腹筋板チョコ】を使用しますか?』
「はい」
音はない。でも王様の頭にエクスクラメーションマークが表示されて画面が明滅した。
「一体どうした?」
『王様が緊急招集魔法【勇者選定】を使用しました。音無き世界でわかるように城中が明滅することで謁見の間に要人を招集する魔法です』
「そういう演出なわけね」
謁見の間には慌てた要人達が駆け込んでくる。その中に一際は巨漢で太っている偉そうな豚が混じっていた。
「絶対にこいつが偽大臣だろ」
画面の中では勇者以外が暗くなった。勇者にスポットライトが当たっているような演出だ。王様が玉座から立ち上がり勇者に近づく。そして画面に大きく文字が浮かび上がる。
【こいつが勇者!】
「いや日本語かいっ! 異世界の文字とかのこだわりはどこ行った創造神!」
しかも主張の激しい毛筆の赤フォントだ。
画面内では音は出ないが拍手が巻き起こり、紙吹雪が舞い、皆で跳びあがり抱きしめ合い勇者誕生を祝福している。ただ一人を除いて。
当然、偽大臣だ。
のっしのっしと勇者に近づいたかと思うといきなり突き飛ばした。そして王様に詰め寄っていく。
『シークレットブーツを使用してください』
「はいはい」
コマンドを選択する。
すると画面の中で勇者が大臣にドロップキックを放って弾き飛ばす。
そしてシークレットブーツから書類を取り出して王様に渡す。
再び王様の頭にエクスクラメーションマークが表示されて画面が明滅した。
今度は大臣にスポットライトが当てられて主張の激しい毛筆の青フォントが浮かび上がる。
【こいつは偽物!】
「【勇者選定】の魔法ってそんな応用できるのかよ!」
その場にいる全員が驚き、兵士が偽大臣を捕えようとするも偽大臣に弾き飛ばされた。
そして偽大臣がオークに変貌していく。
「いや服が脱げて耳が尖っただけかよ。普段からそのままオークだったんじゃねーか」
インテリジェンスオークとの戦闘はあっさり終わった。
こちらのレベルはすでに十七。
序盤なのにレベルを上げ過ぎた。
花乃いろはのレベルアップボイス目当てだけが理由ではない。
ゲーム内機能として戦闘中も花乃いろはの雑談ラジオが聞けるので、レベ上げが苦にならないのだ。
むしろストーリーを進めると、ラジオを中断しなくてはいけない。ラジオの切りのいいところまで。そう考えてレベ上げするのだが、そこは底なし沼だった。
牧場の周りには経験値がたくさんもらえる定番のボーナスモンスターも出現する。
すぐに逃げだすお馴染みの奴だ。
その名も【プロティーンバー】。
なんとこのモンスターは経験値が固定ではない。
ゲーム内で四十五分以内に得た累積経験値を得ることができるレベ上げに嬉しい仕様だった。
しかも四十五分以内に再び【プロティーンバー】を倒せば前回倒した分の【プロティーンバー】の経験値も含まれて加算される。
まさにゴールデンタイムだ。ラジオが一つ終わる頃に【プロティーンバー】が出たらどうする。
また訪れた四十五分間のゴールデンタイムが勿体ない。
ラジオの新しい回を再生させて、レべ上げを続行してしまう。もう止め時がわからなかった。
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