第2話左足靴下がクルクル回る呪いで転んだら、何故か異世界に行っちゃった私(後編)

「待って!が誰からも好かれないなんて嘘よ!だって私は世界で一番九条ネギを愛しているんだもん!何だったら結婚しても良いってくらい大好きなんだもん!だからさっきの言葉を取り消して下さい!」


 8人の男の人達の視線を受けて、怖かったけど負けませんよ!たった一人を虐めていた7人の男の人達は私が近寄ったのを見て、大げさにたじろいだ。


「「「「「「「お、女の子……?」」」」」」」


 私は左足の靴の中以上に居心地が悪い思いをしながらも、虐められていた一人の人の前に立ち、両手を広げて、さらに言った。


「何で虐めているのかわかりませんが、大勢で一人を虐めるのは卑怯です。止めて下さい!」


 7人の男の人たちは、私よりも15~20センチ以上背が高くて、彼らに見下ろされる形になって、私はとても怖かった。足は恐怖から震え、呪いがかかっていないはずの右足の靴下まで、ずり落ちてきたが踏ん張った。


(だって彼だけが九条ネギの味方っぽいんだもん!)


「大丈夫です、私はあなたの味方をします!だって私……九条ネギが大好きなんです!」


 私の大好きな食べ物が例のモノで、例のモノというのは何を隠そう九条ネギのことだった。おばあちゃんと私の大好物の九条ネギ……、今日は油揚げと炒めて塩と醤油で味付けして仏壇に供えようとスーパーで買ってきていたのだ。


 だから彼の方を振り返って、同好の者だと知ってもらうために彼に微笑みかけて、そう言ったら何故か彼はゴクンと唾を飲み込んで赤面し出した。


 浅黒い肌の彼は長い髪を後頭部の高いところで一つに束ね、それを三つ編みに結っている。


(ラ、ラー○ンマン?モ、モン○ルマン?)


 私の脳裏に古い漫画のキャラクターが連想される。小さい頃、おばあちゃんと通院していた整骨院に飛び飛びに巻が置かれていた、茶色くなった少年漫画が私の愛読書だった。あまりにも巻がそろっていなかったため、内容はすっかり忘れてしまったが、そのキャラクター達が正義の味方だった印象は強く残っている。


(なんてかっこいい人だろう……。それに、さっきのセリフといい、この髪型も私の中では最高の推しだよ!最高に素敵な人!正義の味方みたい!)


 私は高鳴る心のままに彼を観察した。彼の、ほどよい太さのキリッとした黒眉も切れ長の翡翠色の瞳も、筋の通った高い鼻も、厚くも薄くもない唇も、いつまでも鑑賞していたくなるほど整っていた。


 着ている物はカンフー服っぽいような騎士服っぽいような服であちこち汚れていたり、破れて血がにじんでいるが、元は美しかったであろう落ち着いた翠色で彼によく似合っていた。


「皆さんが九条ネギを好いていないからと、それを全ての人が嫌いだと決めつけないで下さい!少なくとも私は好きなんです!背が高くって、ピンと背筋が伸びている姿も凜としていて、とても好きですし、あの緑色も目に美しいし、私は最高に大好きなんです!それに九条ネギは、どんなお料理にも合うし、叶うなら毎日食べたいくらい大好きなんです!」


 私がそう言うと何故か7人の男の人達も私がかばっている男性も、顔に火がついたみたいに真っ赤になった。


「「「「「「「な!?毎日食べたい!?」」」」」」」


「!?そ、そんなに情熱的に、俺のことを!」


(?ん?何のことだろう?)


 私が何の事か聞こうとする前に、私がかばっていた男性が立ち上がり、私を後ろから抱きしめてきた。


「キャ!」


「君の気持ちはわかった。俺も……今日、初めて会ったが、君を好ましいと思う。……俺も好きだ。こんな俺で良いなら毎日俺を食べてくれ!俺も君を毎日食べたい!……じゃ、そう言うわけだから俺、《召還の儀》いらない。俺は下りるから、お前達に譲るよ。だって、わざわざ異世界から呼ばなくとも、こんなに可愛い女性がいるんだもん!傍にいても魔力酔いを起こさない女の子が俺を愛してくれていて、結婚したいと言ってくれて、お、俺と毎日……毎日……!お、俺、幸せになる!絶対俺、この子と幸せになる!俺は一足先に幸せになるから、お前等も幸せになってくれ!」


「「「クッ!畜生!こんな可愛い子が!」」」


「「なんて羨ましい……。いいなぁ……」」


「「あんなに情熱的な告白……俺もされたい」」


「?あの、何のことで、キャッ!」


 私は後ろの男性にお姫様抱っこをされた。


「じゃ早速、籍を入れて結婚しよう、愛しい人!」


「え?」


 ~~~~~


 私はあの男性に横抱きされたままで、気が付いたら、さっきとは別の場所にいた。男性が私の左足首を触ってきたので私はギョッとした。


(あっ!左足の靴下がずり落ちてるのを見られちゃった!)


 私は慌てて、いつもの決まり文句を言い、だらしのない人間ではないことを釈明しようとした。


「あっ!私、実は左足に靴下がクルクル回る呪……」


 その時、私の左足に触れている彼の手が光り、シュワワワワァ……!って、炭酸水がコップに注がれたときのような音がして、私の左足の呪い……誰にも言えなかった左足の痛みが、泡が弾けて消えていくように消えていった。


「……嘘、左足が……痛くない……」


「もう大丈夫だ。随分古い傷みたいだけど治ったよ」


(この人、さっき会ったばかりなのに、私の左足の古傷に気づいたの?……この人が治してくれたの?)


 私は左足の痛みが無くなって、とても嬉しかった。お祖母ちゃんが生きている頃に一緒に通っていた整骨院では左足の痛みは一生続くと言われていたのに、それが治るなんて、すごくありがたいと思って、この人はかっこいいだけではなくて凄い人なんだと思って、気が付いたら恋に落ちていた。


(何て言う名前なのかな?恋人はいるのかなぁ?)


「私ね……小さな頃に交通事故に遭ったの……。両親もその時に亡くなって左足も、その時に怪我ししたの。靴下がクルクル回るようになったのも、それからで……。皆に理由を説明すると皆が変に気を遣うから、それ以来、私の左足には呪いが掛かっていると言っていたんだけどね。まさか、この古傷が治るなんて思わなかったわ!ありがとう!あの、あなたのお名前はなんて言うのですか?」


「え?」


「え?」


「「え?」」


 ~~~~~


 私は知らなかった。そこが異世界でで、だったなんて……。


 後で誤解だとわかったときは、彼に泣かれてしまったが、その時にはもう、私は彼の姿に一目惚れしたのと彼が私の左足に魔法を掛けてくれて、靴下が一生クルクル回らないようにしてくれたことに心底感謝して惚れてしまったので、今度は本気で彼にプロポーズしたら、さらに感激されて、……それ以来、情熱的な新婚生活を毎日送っている。


 私がどうしてここに来たのかわからなくて、彼や、彼の職場の国立魔法師団の人達は悩んでいるようだったけど……。


「きっと私達は、運命の赤い糸……ううん、運命の緑の九条ネギで結ばれていたのよ」


 と大きなお腹を撫でながら、私が言うと彼もそうだなと言って、私にキスをしてくれた。


 左足靴下がクルクル回る呪いで転んだら、何故か異世界に来て、……結婚することになった私だけど、すっごく毎日、幸せに暮らしているから、天国にいるおばあちゃん、安心してね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る