第3話左足靴下がクルクル回る呪いにかかった彼女を好きになった彼の話(前編)
その国の人間は皆、それぞれに魔力を持って生まれてくる。国の防衛のためには高い魔力が必要で、魔力が高い者達は国の審査を受け、《ネギ》の名を賜り国立魔法師団に在籍し、それぞれの魔力で国を守っていた。
だが、あまりにも魔力が他よりもずば抜けてしまうと、魔力が低い者は魔力酔いを起こして倒れてしまうため、国立魔法師団の者達は独身者ばかりだった。
高い魔力を持つ者の子どもは皆高い魔力を持って生まれてくるため、国は積極的に彼らに見合いをさせたが、普通の女性では魔力酔いを起こして見合いが成り立たない。そこで国は魔力を強く持つ者の配偶者を求めて、《召還の儀》を行うことになった
《召還の儀》は秘術中の秘術で召還されてくるのは、魔力酔いを起こさない異世界の
《召還の儀》で召還された女性は10日間、この世界に滞在し、国立魔法師団の5人の男と見合いをする。女性が誰かを気に入り、籍を入れたら彼女は、この世界の者となる。しかし、女性が誰も気に入らなかったり、無理矢理籍に入れる、もしくは騙して籍に入れる……等の不正行為をした場合、女性は一週間後に元の世界に戻されることが天の理で定められた。
……と言うわけで、その日の午前中、国立魔法師団の独身者28名は神殿に集められて、《神下ろしの儀》で神がかった巫女から今年の《召還の儀》の候補5人の名が発表されたが、5人目の男にクジョウ=ネギの名が告げられると他の者達がやり直しを要求しだした。
何故ならクジョウ=ネギという男は28名の中で彼だけが庶民……しかも捨て子で孤児だったからで他の者達は皆、貴族で身分も上だったからだ。
《召還の儀》で召還される女性は自分がいた世界から切り離されるのだから、今後の人生で不自由しない金や身分を与えるのが当然で、庶民の彼の花嫁では不憫だと彼らは言ったが、《神下ろしの儀》で選ばれた決定は絶対なのだと、彼らの訴えは却下された。
~~~~~
その日の夕方遅く、俺は《神下ろしの儀》で選ばれなかった者達の奇襲に遭い、王都から離れた場所で彼らの暴力を受けていた。
「今度の《召還の儀》を辞退しろよ、クジョウ=ネギ」
7人がかりの魔力で俺をいたぶった後、7人の貴族達は、そう言って俺を脅してきた。こいつらは国立魔法師団の中でも特に身分が高い貴族で、いつも威張っている奴らだった。
「クッ!汚いぞ!ヤタベ、フカヤ、シモニダ、カガ、ヤグラ、ヒラタ、センダイ……。こんな大勢で俺を罠に嵌めて、本当にそれでいいと思っているのか?卑怯だろう!」
「フン!何とでも言うがいい!我らネギの中でお前だけが庶民の成り上がりなんだ!……ここは大人しく、貴族の俺達に《召還の儀》を譲れ!」
「そうだそうだ!俺達ネギは魔力が強いから、この世界の女性は、その魔力に当てられてしまって俺達とは付き合えない!俺達が結婚出来るのは一年に一回の《召還の儀》で召還された異世界の黒髪黒目の女性だけなんだ!お前は一番年下だろう!ここは年長者に譲れ!」
確かに俺は25才で、彼らよりも若い。でも俺は捨て子の孤児だったから家族というものに、とても強い憧れがあったので、例え相手が貴族でも引き下がろうとは考えなかった。
「28人いる独身者に譲っていたら、俺は28年も待たなきゃいけない!そんなのは嫌だ!」
「何を!クジョウ=ネギのくせに、生意気な!」
「クジョウ=ネギなんて、例え俺達の中で一番魔力が高くて魔法師団のホープと呼ばれていても、所詮庶民なんだ。頭が高いんだよ!例え《召還の儀》で女の子が来たって皆、金持ちで貴族の俺達の方が良いに決まっている!クジョウ=ネギなんて誰からも好かれないんだよ!だから俺達に譲れ!」
(……確かに俺は庶民だ。《召還の儀》で召還されてくる女性達は高い身分や良い暮らしを求める者ばかりで、俺は振られてしまうかも知れない。でも、このチャンスを逃したら、俺はこれからも孤独かも知れない……)
そう思っていた俺の前に、奇跡が訪れたのだ。
~~~~~
「待って!九条ネギが誰からも好かれないなんて嘘よ!だって私は世界で一番九条ネギを愛しているんだもん!何だったら結婚しても良いってくらい大好きなんだもん!だからさっきの言葉を取り消して下さい!」
突然、そう言って現れた女の子は高い魔力を持つ俺達の傍にズンズンとためらいもなく、近寄って来たので俺も俺を虐めていた7人の男達も驚き、たじろいだ。だって俺達は皆一様に魔力が高い。こんなに魔力が高い者達が集まっている中、平気な顔で近寄れる者なんて、今まで誰もいなかったから驚いて当然だった。
「「「「「「「お、女の子……?」」」」」」」
その子は俺の前にやってくると俺をかばうように俺に背を向けて立ち、両手をめいいっぱい広げて、7人の男達に向かって言った。
「何で虐めているのかわかりませんが、大勢で一人を虐めるのは卑怯です。止めて下さい!」
女の子は俺達よりも15~20センチ以上背が低くて、彼らを上目遣いで見る体勢になっているようで、男達は皆、顔を赤らめていた。
それもそうだ。ただでさえ、俺たちは女性に縁がない生活をしているのだ。普通の女性でも緊張するのに、こんな可愛らしい女の子が至近距離で見つめてくるのだから赤くならないはずがない。俺だって、あまりの可愛らしさに森の妖精かと一瞬、思ってしまったくらいだ。混乱した思考のせいなのか、おとぎ話な思考をしてしまったが、女の子の髪と瞳の色が俺のよく知る今の季節の森の色によく似ていたからかもしれない。
艶やかな茶色の髪が肩の辺りまで伸びていて、茶色の瞳は大きくて真ん丸く、小さな鼻と唇がとてもかわいらしい。手が空いていれば、思わず触れてしまいそうな……。
着ている物も見たこともない服装だが、とても一般の民のものではないように思われる。上下に分かれているが同じ布で仕立てられた、変わった形の紺色の衣服は、ツギも見当たらない上等な物のようだ。ドレスのような華やかさはないが、騎士団の服装に通じるような礼節を感じる。中に着ているシャツは真っ白で、胸元のスカーフの水色も上品な色合いで揺れている。
足は膝から下が見えている……いや足首には真っ白な短い靴下に見たこともない黒い靴を履いているが、足が見えている……。すっきりと伸びた細い足は若干日焼けしているが美しい。
女性は足を隠すもので、貴族だろうと一般の民だろうと長いスカートで足を見せない。俺は女の子の足を見るのは初めてだった。喉から唾を飲み込む音がやけに響いて聞こえる。
(あれ?左足だけ靴下を履いていない?……それにさっき、ここに来るまでの女の子の歩き方……確か左足に違和感があったような……?)
俺は不思議に思って女の子の左足を見ると、俺をかばう女の子の足が震えていることに気付いた。
(そうだよな……、ただでさえ、こんなに小さいのに相手は魔力の高い男たちばかりだ。怖くって当然だよな。普通なら魔力酔いで倒れていてもおかしくはないのに、この女の子は、必死で俺を守ろうとしてくれているんだ……)
俺はうまれて25年間、一度も女性と話したこともないし、誰からもこうやって守ってもらった事がないので、それがとても嬉しくて胸の奥がすごく暖かくなった。
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