第23話 昔むかしのお話し
それは、昔むかしのお話しだ。
ロズワルド国 皇女と龍との約束だった。
「わたしを好きにさせてみなさい。その時、あなたのプロポーズをお受けいたしましょう。」
姫様は言い放った。
いつも ぼっちの龍にとって、愛を手にする唯一の希望だったのだろう。
姫様も一生涯、独身を貫いたらしいから、まんざらでも無かったのかも知れない。
なにせ、龍と人。
生きる時間の流れの違いは、残酷に龍から姫様を引き離した。
約束は遂げられぬままに。
人の時はあまりにも短く、龍のそれは 気の遠くなる程長い。
薔薇の花弁がはらはらと散り、残されたのは
姫様の幾度もの転生をやり過ごし、数えきれない ぼっちの夜を やり過ごし 今 やっと条件を満たす凛に出会えたと云う事なのだ。
同情には値する。
しかし 龍の鱗の印を刻んでまでも輪廻転生の魂に課すなど、言語道断だ。
愛にはならない。
愛には、遠く及ばない。
愛とは、そんなものではない。
それでは
愛とは、どんなものなのか。
凛 あなたは
誰かをそんなにも
愛したことがあるの?
あるわけが無い。
今のわたしでは、愛を語る土俵にさえも立たせてもらえないだろう。
そんな わたしが龍とお姫様を否定できる筈もない。
愛とは
どんなものだろうか。
スッキリしないまま、龍とわたしとの関係は、理解出来た。
ロズワルド国
戦禍
国王陛下
龍
契約
皇女
約束
皇女の生まれ変わり
キーワードは出尽くした。
全ては密接に関わり合い、ひとつの結論に向かっている。龍とロズワルド国王との間に取り交わされた契約が、見え隠れしていた。
それでも わたしは、陛下様の口から聞きたかった。
昔むかしに取り交わされた契約、自分の置かれた状況を陛下様がどう理解し、どう思っているのか、聞きたかった。
きっと 陛下様だって思った筈だ。
きいてないよぉぉ〜 って
今日は、明け方から
雨は
「凛。待たせた。
支度いたせ。
先王に会いに行く。」
前触れ無く、扉が開かれドカドカと大股で陛下様が入って来た。
「それはそれは、突然ですね。
わたしは準備は出来ていますよ。」
「そうか。
凛、待たせた。」
いよいよ、陛下様の心が解錠される。
先の王様は、体が丈夫ではなかったので、早くに退位し、皇太后様と共に 丘の上の、風が穏やかに通る小さな城に暮らしていた。
城には、色とりどりの花が所狭しと咲き乱れ、よく手入れされていた。
「そなたが、皇女の生まれ変わりとな」
「父上 母上、凛です。」
「はじめまして
凛でございます。
宜しくお願い致します。」
先の王様は、庭仕事で日焼けした顔に満面の笑みを浮べ、わたしを歓迎してくれた。
陛下様のお父様とお母様は、気さくでよく笑う人達だ。
もしかしたら、わたしのお父さん お母さんも、こんなだったかも知れない。
こんなだったら いいなぁ。と思いながら他愛も無い事柄で談笑する。
「凛、泣いておるか?」
「あっ
嬉しくて・・」
涙が頬を伝っていた。
なぜだか、陛下様のお父様 お母様のお二人も笑いながら 涙をにじませている。
「リン、そなたには なにか 初めておうた気がせんのだ。
いつでも
遊びにおいで。」
「リンちゃん、今日はお泊り出来ないのかしら。
美味しいパンケーキをいっしょに食べたいわ。」
その日からお二人は、わたしの心の中のお父さんとお母さんになった。
先王、皇太后、現王、ロイドさんとわたし。
その場において龍との契約は全て、明らかにされた。
さて、最後に明かされた 龍と国王陛下様の契約は、こうだった。
ロズワルド国 国王最高法規
禍戦火を沈めし龍との契約のもと 、ロズワルド国 国王を器とし、龍と共に繁栄せよ
王位戴冠を
砕いて、昔話風にすると こうだ。
昔々、平和なロズワルド国に突然 他国から戦火が放たれた。
たちまち美しいロズワルド国が火の海になり、もはや敵国の手に落ちるすんでの時、その龍は現れた。
龍は敵国からロズワルドを守る代償として、王の器と美しい皇女を要求した。
しかし、王は皇女の要求に対し、首を縦に振らなかった。
このままでは、ロズワルドは滅んでしまう。
その時、皇女が
「龍よ。
この戦火を収め、そうして わたしを好きにさせてみなさい。
その時こそ あなたのプロポーズをお受け致しましょう 。」と。
契約は交わされた。
龍は圧倒的な力で
敵国の誰一人として生き残る事は許されなかったのだ。
ロズワルド国は守られた。
そして、龍は王の器と愛への希望を、王は龍の絶対的な力を手にし、共に末永く繁栄することを約束されたのでした。
めでたしめでたし。
ん
んん
んんんー
まてまてー
国王陛下様は、特に雨を使えてる訳でもないし、龍に至っては姫様亡き後、以前にもましての孤独を味わっている。
ましてや わたしにとっては、これからの龍とのやり取りを考えると物語りの始まりの様な気さえしてきた。
いやいや やっぱし めでたし めでたしでは、くくれないでしょうぅぅ〜
なによりも、陛下様は器としての自分の立ち位置に不満爆発でもおかしくないでしょうに‥
わたしは、そこが聞きたい。
龍と合体だよ~
気持ち悪いでしょ〜に。
そんなわたしの思いをよそに、陛下様は秘密を打ち明けたスッキリ感をもって、微笑んでいる。
陛下様 お父様 お母様
ニコニコしては、居られないと思うんですよー。
これが 王族の器のデカさ なのか。国益の為ならば、生まれ持って全てを受け入れる王族の血、故なのか。
昔むかしならば、国王の首ひとつで戦乱を終わらせる事が出来たと書物に書いてあった。
ある書物では、国王は自刃し自らの血を以て、残された民を守った とも。それ程の重責なのだ。ど庶民のわたしなどには、到底持ち合わせていない覚悟があるのかも知れない。
でも 聞きたい。
わたしは、口を開いた。
「国王陛下様は、嫌ではないのですか?
器としての定めが。」
「凛・・・
凛よ。 余は・・・
この定めが
気に入っておるのだ。」
「ん?」
「んッ‥ だって‥ 龍ぞ。
カッコイイではないか。
凛も、そう思わぬか?」
「ん ‥ こく 国王陛下様?
だって?
カッコイイ?
? ? ?
あなた
龍 はいっちゃってますよねぇぇぇ」
わたしは、決して 楽観出来ないこれからを思案し、ロイドさんに目をやれば、 眉尻をピクピクさせ 複雑な顔を向けてきた。
あぁ ロイドさんの不安がひしひしと伝わってくるぅぅぅ。
そこは、いつもの冷静沈着な能面ロイドさんで居てほしかった・・・
ラウル国王陛下 様
凛
龍
姫様
わたし達は、只今 この時を以て シーズン2 の幕開けとなったのだ。
雨を介して 露草 @sahararauruanne
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