第10話 ロイドさんのこと

 わたしは、ラルゴンから帰ってから一歩も外へは出ていない。中庭にさえだ。

 そのお陰なのか、雨は降っていない。

 日がな一日、書庫にこもり本を読みあさっていた。時折 陛下様がやって来ては、役立ちそうな文献を手渡してくれた。

 雨降らしに関する資料はそう多くはないが、まったく はかどらない。わたしには難しすぎたのだ。

 もて余していると、ふとある疑問が沸いてでた。


 ここは異世界だ。なのに、目覚めた時から極自然に、この世界の言語を理解し、話し 本まで読むことが出来るなんて、やっぱりおかしい。英語だって理解出来ないのに。

 そんな疑問で、もやもやしていると、ロイドさんがやって来た。


 おお、やっぱりロイドさん。グッド タイミング。

 ロイドさん、答えてぇ。


「リン様。それは簡単な事です。

 召喚の際に、言語スキルを与えています。

 雨を降らせるより、よほど容易たやすい事です。」


「そなの。簡単なんだ。

 ロイドさん、もしかして 雨を制御する方法も知ってたりして…」


「リン様、さすがに それは…」


「だよねぇー。ごめんなさい。

 ちょーしこきました。」


 ロイドさんといると、リラックス出来た。

 その雰囲気が、その笑う様が、どことなく、おばあちゃんを感じさせる。

 思い切って、例の質問をぶつけてみた。


「ロイドさんは、物腰柔らかですけど、男性ですよね。」


「あぁ 気になってましたね。

 私も気になってましたよ。

 リン様には、私が どう写っているのだろう と。

 リン様が男性と云うなら、私は男性です。」


「えっ、ロイドさん

 ごめんなさい。

 これ、聞いちゃ駄目なヤツ?」


「いえいえ。

 私は、ある時期まで 雌雄同体 女性で有り男性で有るのです。逆を云うと、そのどちらでもないとも云えますが。

 私達は、しかるべき時が来た時に必要な性に成るのです。その時期については、人それぞれなので分からないのですが、生涯 そのままと云うケースも有るのです。

 ロズワルドには、この血を引く者が結構いますよ。珍しく無いのです。

 私に、その時が来るまでリン様の思う方で良いのです。」


「ロイドさん、実はね。

 低音ボイスの女性かな、と思ったりもしてたの。」


「アハハ。そうなのですか。

 リン様、流石ですね。ある意味、当たってますよ。アハハ。

 随分、悩ませてしまってたのですね。」


「ロイドさん、わたし 解っちゃった。

 もしも、もしもの話しだよ。

 わたしとロイドさんが恋人同士に成ったら、ロイドさんは、男に変化するって事なんじゃないの。

 だってわたしが女だから。」



「リンよ、

 誰れと誰れが、恋人なのだ。」

「きゃっ

 びっくりしたぁ

 国王陛下様。

 いつの間に、後ろにいたんですか。」


「真面目に やっておるか見に来てみれば、さぼっておるのだな。

 しかるに、そなた達はいつも、楽しそうであるな。」


「国王陛下様、わたし達は異文化について、真面目に意見交流をしていたんです。

 国王陛下様は男性ですよね。

 ロイドさんと国王陛下様が恋人同士に成ったら、ロイドさんは女性に変化するって事ですよね。そう云う事ですよね。」


「陛下、申し訳ございません。」


「ロイドが謝る事では、あるまい。

 リンよ。

 そもそも、男とか女とかは、意味は無いのだ。

 有るのは、自分がどう生きたいのか、それ のみぞ。

 全ての者は、すべからく幸せを目指さねば成らん。

 そして、幸せとは人それぞれなのだ。

 女たから男だからと云うものでも無かろう。

 リンが余と恋人同士に成るが、双方の幸せならばそれに向かって歩まねばならんと云う事だ。」


「んんんっ?

 ちょっと なに言ってるか、わかんない。」


「ぷうっ」


「ロイドよ、何故 笑う?」


 ロイドさんとわたしは、大爆笑した。

 陛下様は、時々 わたし達を笑かしに、かかるのだ。

 そしてひとしきり、わたし達を笑かして、満足げな笑みを浮かべている。


「あっ、ロイドさん。わたしは、ロイドさんに会いたくなったら、どこに行けばいいんですか?」


「リンよ。

 ロイドは多忙ぞ。

 余ならば、いつでも執務室におる。」


「うっそだぁー。

 宇宙一 忙しいくせに。

 国王陛下様のくせに、嘘 ついていいんですかぁ。」


 ロイドさんには、もっと聞きたい事があったのに、陛下様参上のせいで、異文化交流は裁ち切れに成ってしまった。

 この世界は、わたしの居た所と違って、全く異なった家族形態なのかも知れない。

 とても興味深い。


 これからもっと城の内と外に目を向けて行こう。



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