第45話 セバスチャンとの闘い

お待たせいたしました。本日よりのんびり更新再開です。

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 ノラの合図の後、一気に距離を詰めたのはセバスの方だった。試合会場というには粗末なこの場所は、縦15m横5m程度であった。それゆえ、大人であるセバスが本気で距離を詰めれば、一瞬にして二人の間はゼロになる。


―――キィィィィィンッ


 1合目。セバスが服の袖に隠していた短剣を、レイスの武器である“虚筒”に本気で攻撃を加える。その扱い方はまるで斬撃を主体とする短剣ではなく、打撃属性を持つハンマーのような使い方だった。


 にもかかわらず、レイスはそれを“虚筒”の長さいっぱい使って受け流す。ハンマーを打ち下ろすような扱い方で、かつ大人と子供という身長差があるにもかかわらず流しきった。これにはセバスも目を丸くした。


「……ッ!」


 セバスが驚きを言葉で表現しようとしていたところを、レイスが上から叩きつけるようにして“虚筒”を振るう。

 セバスは1合目で受け流されていたことで姿勢を前のめりに崩していた。それゆえ、子どもの身長でも武器を振り下ろすことができたのだ。


 しかし、その攻撃は空振りに終わる。セバスがその攻撃を予測していたかのように体を数センチだけずらして完璧に避けたからである。


 セバスは体制を整えなおし終わると、すぐに攻撃を仕掛ける。横が狭いこの試合会場では、一度距離を取って仕切り直しといったことをするのが難しいのである。


―――キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!


 2合目から6合目までの少し鈍い連続の金属音が、静かな夜の庭に鳴り響く。


セバスが今度は短剣本来の特性を生かして軽い攻撃を加えると同時に、左手の服の裾からも同じ短剣を取り出して連続で攻撃を繰り出したのである。

しかしレイスは慌てない。今度は“虚筒”を短く持って、先端の方のみを使うことで連撃をさばいていく。


―――キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!


 7合目から12合目。6合目から流れるような形で7合目から12合目までを打ち合う。身長の関係上、セバスがレイスの下から攻撃をすることはできないが、それでもありとあらゆる場所から攻撃を仕掛ける。


―――キンッ!キンッ!キンッ!…………シュッ!キンッ!シュッ!


 身体能力を上げる魔法以外の魔法を使わずに、レイスとセバスはぴったり100合打ち合い続けた。ただ、20合目以降からはレイスが攻撃を処理することができなくなってきていて、レイスの身体は今切り傷まみれであった。


「はあ、はあ、はあ。」


 レイスの身体は本来であれば【再生の炎】によって少しずつ再生していくはずである。にもかかわらず今も切り傷が残っている。何故か。その答えは、再生が間に合わないくらい深く切り刻まれたから、である。それくらい本気でセバスは戦っていたのである。


「ふむ。棒の扱いはDランク程度といったところでしょうか。次は魔法を見ていきたいと思いますので、得意な魔法を教えていただけますでしょうか?」


 普通子どもが目の前で血を流しながらはあはあ言っているのに試合を続行することを前提に話を進める人がいるだろうか。普通はいない。普通は。


 そう、セバスは普通ではないのである。彼は生まれた時から主を守るために訓練を強制され、同じことを娘のノラにも施した人間なのである。彼はこれが普通だと思っているため、たった100合程度はウオーミングアップ程度にしか考えていないのである。


「……ふう。得意な魔法は身体能力強化系だ。ただ、対モンスターや対魔法使い用の魔法のため、セバス相手に披露するのは少し難しいかな。」


 レイスが得意なのは超速立体戦闘である。身体能力強化魔法や爆風を利用して大きく速く動いて相手を翻弄しながら攻撃するのが得意なのである。それゆえ、どうしても攻撃が大雑把になってしまい、対象が小さかったり細かく動いたりするものであった場合、非常に戦いづらいのである。


 だが、セバスにとってそんなことは関係なかったりする。


「問題ありません。私が上に会場を作成し、それから私はモンスターのように大きく立ち回りますので。」


 そう言うとセバスは少しの間真っ暗な空を見つめる。


「[自在空間]」


 彼が魔法名を唱えると、夜の空にうっすらと輪郭が見えるようにして巨大な空間が出来上がる。新たな試合会場は上空であり、縦横高さ20mの中には何も存在しない空間だった。


「それではこの中で戦闘訓練再開と参りたいと思います。床はしっかりありますし、外に音が漏れる心配もありません。……今気づきましたが、初めからここで試合しておけばよかったですね。申し訳ありません。」


「い、いや問題ない。では早速試合会場まで行くとしようか。」


 レイスは一瞬にして巨大な防音空間を空中に創り上げたセバスの技量に驚いていたため、少し言葉が詰まってしまう。普通ここまで広範囲に及ぶ魔法を使うのも難しいのに、それを少しの間で完成させてしまったのである。レイスはこの瞬間に、武術の腕だけでなく魔法の腕もセバスに大きく下回っていることに気づいたのである。

 

 しかしそんなことでレイスが落ち込んだりへこたれたりすることはない。むしろ嬉々として試合会場に向かい、会場の真ん中にセバスと10mほど距離を開けて向かい合った。


 ちなみに、ここまでの移動手段はレイスが爆発魔法で空中を駆けあがる感じだったのに対して、セバスは土魔法によって自分の立っている場所だけを大きく隆起させる土魔法である。周りが暗かったからよかったが、昼間にやっていたら間違いなく目立っていたことだろう。


「それでは、好きなタイミングで開始なさってください。」


 そうして、第2ラウンドが始まった。




***

「……武術評価D、魔法評価C、総合評価Dといったところでしょうか。Dランクとのことでしたので、それ相応の結果と言えますね。」


 第2ラウンドが終わり、セバスがレイスに対して簡単に講評をする。


 試合に関しては、レイスはいつも通り爆発の威力を活かした高機動な戦闘を行ったが、セバスの前では無力だったとだけ触れておく。


「明日からはこの結果を踏まえて戦闘訓練を行っていこうと思いますので、今日はこの辺りでお開きにいたしましょう。お疲れさまでした。」


 そうして、レイスとセバスの初戦闘訓練は終わりを迎えたのだった。

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