第40話 狙うものと狙われる者

「報告します。Bランク冒険者パーティー“ステイブル”が王都に帰ってきました。」


「ッチ!次の作戦は上手くいくんだろうな?」


 大きめの個室で人目を忍んで会話している男性2人。一人は綺麗で豪華な服装を着て椅子にふんぞり返りながら報告を聞いている男。もう一人は身体のシルエットが目立たないようなふんわりとした黒い衣装に身を包み、顔を見せないように怪しげな黒い鬼の仮面をかぶった男。


 きらびやかな男は仮面の男に対していらついていた。


「ご安心ください。前回のダンジョン襲撃は失敗してしまいましたが、今回の襲撃はより確実の手段を取っておりますので問題ないでしょう。」


「そうしてもらわないと困る。そもそもあの事件はお前らの仕業じゃなかったのか?」


「我々が行ったのは当初の予定通りダンジョン襲撃だけです。ドミナスや公爵を襲撃した犯人は別の者でございます。」


 あの事件とはドミナス襲撃事件のことを指していた。そして、仮面の男の組織が行ったのは、ダンジョン襲撃だけだという。つまり、ドミナス襲撃事件は複数組織によって行われていたということがここに判明した。


「そうか。それならいい。ところで、今回はどのような手を使うのだ?前回は奴隷を使ったのだろう?今回もその手で行くのか?」


「厳密には奴隷ではありませんけれど、今回もそうする予定です。ただし、前回は一人だけでしたが、今回はコンビの2人組を活かせようと思っております。」


「人数を増やしたからと言って確実性が高まるわけではないだろ?」


「確かにその通りです。しかし、今回は文字通り自爆覚悟で向かわせますので、成功は確実かと。」


「では作戦が成功したときまた会おう。」




***

「いやあやっと家に帰れるなあ。」


 冒険者ギルドの帰り道、カミュとストレンは二人で北エリアにある彼らの拠点へと向かっていた。

 カミュがやっとといったのは、彼らがしばらくの間ドミナスのダンジョンへ潜りに行っていたため、王都自体本当に久しぶりだったからである。


「うむ。しかし、ダンジョンでは目的のものが得られなかったが、それ以上の収穫があったな。」


「確かになあ。というか、そもそも俺たちが潜れる場所にあるものじゃないからな。もともと運が良ければって話だったし。それより、レイスをパーティーに加えられたのは本当に良かった!これからより楽しくなるぞ!」


「うむ。あの子は大成するぞ。」


 いろいろな話をのんびりしながら住宅街のエリアを歩いていた二人。


 そんな彼らは1人の少女が家の門でうずくまって泣いているのを見つける。


「ん?どうした嬢ちゃん?母さんに怒られたのか?」


 カミュは泣いている子を放っておけず、彼女に目線を合わせながら優しい声で話しかける。


「……【……】。」


 彼女は近くにいても聞き取れないようなか細い声をだしながら、カミュの手を握った。カミュはその彼女が怖くて自分の手を握ったのだろうと思い、彼女の手を包み込むように両手で彼女の手を握ってあげる。


 すると、直後に周りに異変が起こる。


「何だ、これ?」

「これは、結界か?」


 少女とカミュが手をつないだ瞬間、少女とカミュとストレンの3人全員を覆う程度の大きさのドーム状の結界が出現する。しかしその結界は中にいる人間に何の影響も与えておらず、カミュもストレンもこの結界が何なのか不思議に思っていた。


「これは嬢ちゃんがやったのか?」


「……。」


 少女は何も答えない。その少女は、いつのまにか泣くのをやめ無表情で地面を眺めていた。


「まあいいか。それよりお母さんに謝らなきゃ……?」


 少女に謝ることを促そうとした瞬間、目の前の家の扉が突然開く。


 出てきたのは少女と同じくらいの年の少年。その少年の表情も、今の少女と同じく無表情で地面を向いていた。


「お兄ちゃんかな?もしそうなら妹さんと一緒にお母さんに謝ってあげてくれないかな?どうやらこの子は一人では勇気が出ないみたいで。」


 カミュは親切心から兄らしき少年に声をかける。



 しかしその親切心は、最悪の形で返される。



「【九死一生】」


 少年が【スクリク】を詠唱した瞬間、少年の手に握られていた丸い道具が、赤く発光しだす。


カミュたちはその赤い光を何度も見たことがあった。それは冒険者御用達の道具店に売ってある爆発丸だったからだ。しかしその赤さの濃さが違うことに気づく。例えるならピンクと赤くらいに赤色の濃度が違ったのだ。それゆえ、二人とも全力で防御姿勢を取る。


 その反応は正しかった。通常の爆発丸はモンスターの目くらましになる程度のもの。それゆえ、生身で受けても火傷を負うくらいだ。しかし、今回は違った。


【九死一生】。自分が瀕死状態になる代わりに次の攻撃の威力が9倍になる。


 この【スクリク】ゆえに、威力の桁が変わった。そして、もう一つの理由ゆえに、爆発する時間の桁まで変わる。


それはカミュたちの予想をはるかに上回っていて。




―――ドカーーーー――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ンドカ―――――――――――ン




 桁違いの威力の爆弾が桁違いの時間爆発する。


 【天網恢恢】。使用者が選択した生物を、自身が発生させた結界の中に閉じ込める。外部から内部へ影響を及ぼすことは可能であるが、内部の影響が外部に出ることはない。


 これが爆発の時間の桁を変えた要因。つまり、爆発を内部で発生させれば、結界外には一切影響を及ぼさず、結界内でひたすら反射させることができるために、爆発の時間が伸びたのだ。


 そしてそんなことをすれば、カミュやストレンはもちろん、少年少女も爆発の影響をもろに受けるわけで。少女が死んだことにより結界は解除され、爆発が外部に影響を及ぼすようになる。すると、2度目の爆発を起こし、周りにあった家3件ほどを全壊させた。



 突然爆音が鳴ったため、その数分後には辺りに住んでいた住民が、野次馬のように爆発が起きた現場に集まってきていた。


 周囲の家は跡形もなく爆散しており、そのかけらが周りの家に被害を及ぼしており、間接的に被害を受けた家は2桁を超えていた。


 そんな爆発の中心点は土ぼこりで見えづらくなっていたが、徐々に晴れてくると人影が2人分あるのが分かってきた。


 2人とも全身の肌が焼け焦げており、見た目からでは誰であるか一切判別できなかったが、それでもまだ人の形を保っていた。


 そんな二人を見て、周りにいたやじ馬たちが騒ぎ出す。


「お前ら大丈夫か!?」

「おい!誰か冒険者ギルドへ行って回復魔法使いを呼んで来い!!」

「誰か回復させられる奴いないのか!?」


 このとき日はもうすでに落ちきっていたが、日が出ているとき以上に、辺りは喧騒に包まれていた。




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