第39話 模擬戦後
レイスは模擬戦終了後、アリアから回復魔法で回復させてもらいMPも譲渡してもらったため、すぐに回復した。……ちなみに、MP譲渡は普通の魔法使いにはできない。……普通はね。
「……おめでとうレイス!!……これで君もBランク!!」
「いやそれはないけど、よくやったなレイス!!」
「おめでとう。」
「やっぱりあなたおかしいくらい強かったのね。」
上からアリア、カミュ、ストレン、マジカが順にレイスを褒める。それを聞いたレイスは、訓練場に座り込んでぐでっている状態であったが、さわやかな笑みを浮かべる。
「よくダイの『水鏡』を打ち破りましたね。あれは火魔法で蒸発させた後、間髪入れずに攻撃するのが正解なんですけど、あれを破れる人ってあまりいないんですよ。それゆえにBランクになっているんですけどね。そんなことはさておき、おめでとうレイス君!」
チイもレイスを手放しに称賛する。ダイは[水鏡]くらいしか強い魔法は使えないが、それでもBランク冒険者にいる。それはひとえに[水鏡]が強すぎるからである。それを初見でしかも数分のうちに見破ったレイスは、本当に称賛されるべき偉業を成し遂げたといえる。
「ですが、一つ気になったことがありまして。レイス君の棒術はその年ではできる方でしょうけど、正直言ってそれほど目を見張るものではないです。そしてダイの剣術はプロのそれです。にもかかわらず、どうしてあれほど的確に捌けていたのですか?」
チイが気になったのはレイスが水鏡の迷路の中で奇襲を受けながら、プロの技をつたない技で防ぎきったことだ。レイスは、あるときは避けあるときは完璧なタイミングでパリィしあるときはその勢いのままカウンターを仕掛けていた。普通では考えられないことだった。
「それは魔法のお陰ですね。お姉さまに教えてもらった探索魔法をアレンジして、人が少しでも動いたら感知できるようにしていたんです。ですから、奇襲は私には通じず、繰り出される技の軌道もすべて予想できたんです。」
レイスが使っていた魔法は、大気中に自身の魔力を行き渡らせ微量の揺らぎすらも感知する魔法。常に戦闘領域全体に魔力を供給しなければならないために膨大なMPを消費しなければならず、全体を認識するために膨大な処理能力を脳に強制する。
が、その両方ともあまりレイスには関係なかった。レイスは魔力が多く、ある程度頭がよく、頭の細胞が焼き切れるほど酷使しても【再生の炎】で復活する。それゆえ短期間の運用であれば問題なく使えるのだ。
「へ、へえ。そ、それにしてもどうやって予測して避けてるんだい?体の動きを感知できただけでは避けることはできないと思うんだけど?」
チイはその魔法の異常性に気づき、若干引きながらレイスに質問する。
「え?こう、感じて、ここかっていうのを認識して、そこに攻撃が来る前にあらかじめ動いているだけですよ?」
「……。」
チイはもう呆れてものが言えなかった。相手の動きを知覚して、行動を予測して、ミリ単位で武器の軌道を予測し、あらかじめ避けておく。こんなことが全員にできるなら、今頃冒険者は範囲制圧型魔法合戦になっているはずだ。つまりそうなっていないということは、レイスが異常だということである。
「チイさんもダイさんもこいつの異常性が分かったでしょう?これならパーティーに入れるのも問題はないでしょう?」
「問題ない。というか、坊主だけじゃなく坊主の武器も異常だぞ?」
「ええ、俺も初めて見たので知らなかったんですけど、これ、マジックウェポンですよね?しかも全属性対応の。」
「どうやらそうみたいだな。坊主、お前その価値分かって使ってんのか?」
「?いえ、知り合いの鍛冶師の方に誕生日プレゼントとして作ってもらった武器なので私には価値あるものですが、世間的にも価値のあるものなんですか?」
レイスはこの武器の異常性ついては知らされていなかったため、素直にその価値を知らないと答えた。
「はあ、やっぱりそうか。坊主、それはマジックウェポンって言ってな、魔法を出せる特殊な武器なんだよ。そしてその価値は普通の武器の数百倍もする。理由は魔法を付与できる鍛冶師が少ないからだ。」
鍛冶に必要なのは固体操作ができる地属性魔法である。そして付与に必要なのは、付与のイメージと、それを地属性で実行できる魔法を編み出すことと、付与したい魔法を習得することである。
「この武器を作った鍛冶師は、少なくとも卓越した地属性魔法運用能力と、音速で弾を発射する魔法を覚えているということになる。しかも、それだけじゃなく、誰でも使えるように魔力を流すだけで調整されている。俗にバリアフリーなんていうが、この処理ができる職人も少ない。」
マジックアイテムやマジックウェポンには基本魔力を流す場所に色が付けられている。色は魔法の属性を表しており、赤なら天、黄なら地、青なら海の属性魔力を流さなければならない。ゆえに、“ユニーク”の人は自分の色以外の道具や武器を使うことができない。
だが、その鍛冶師は“ユニーク”でも使えるようにバリアフリー加工を施していた。これができる鍛冶師となるとぐっと数が減る。
「へえ、"虚筒”ってそんなすごい武器だったんですね。」
「……。坊主、もしかしてその武器、銘持ちなのか?」
「ん?この子の名前は虚筒ですよ。鍛冶師のおじさんがそう言ってました。」
「……はあ。一流の鍛冶師の自信の作品ということか。坊主、これ国宝並みにすごい武器だぞ。」
「え!?」
一流の鍛冶師が作った一流の武器。市場に流せばおそらく何十億もの値段が付く。それを聞かされてレイスは素で驚く。そんなこと鍛冶師のおじさんから聞かされていなかったからだ。
「だから坊主。使うときは気をつけて使えよ。他の奴に見られたら、盗まれるぞ。」
普通この鉄パイプを見て数十億の価値がある武器だとは思わない。実際ダイも使用されるまで子どもが思い入れれのある武器を大切に使っているんだなあと微笑ましく思っていたくらいだ。だが、その価値を一度知れば、普通の人間なら目の色を変えて狙ってくるだろう。ダイやチイや“ステイブル”の人たちは理性が勝っていたが、普通の人間はそうはいかないからだ。それゆえ、ダイは使うところを考えろと言ったのだ。
「わ、わかりました。以後気を付けます。」
「ああそうしろ。それから、半年間は俺らも訓練を付けてやる。魔法はチイから、武器の扱いは俺から教えてやろう。それで実力を高めりゃあ、盗まれる可能性も減ってくるだろう。」
「あ、ありがとうございます!」
レイスはダイとの勝負に勝ったが、武術の腕は圧倒的に劣っていた。そして、レイスが使う魔法は種類が少ない。それゆえ、チイとの訓練もレイスのためになるだろう。
「俺ら“ステイブル”も教えてやるから、後で日程でも組むか?」
「はい!ぜひお願いします!」
「よし。じゃあ今日はこれで終わりだな。これからは俺がレイスを家に連れていくから、お前らは先に帰っていていいぞ!」
「……いや。……私が連れていく。……カミュが帰って。」
「いやでもお前が行ったらたぶん子供二人と思われ……」
「……カミュ、帰って。」
「は、はい。」
カミュはアリアの圧に負けレイスを家まで案内する役をアリアに託す。
こうして日が沈んだ王都をアリアとレイスの2人で歩くことになるのだった。
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