第38話 銘付き武器―“虚筒”―
武器というのは主に3種類に分けられる。
一つ目は職人が作る武器。これは強さも種類もまちまちであるが、オーダーメイドが作れるなどの利点がある。
二つ目はダンジョン内で見つかる武器。これは威力が強いものが多いが、操作の仕方が分からなかったり、デメリットを抱えていたりする。
三つ目は銘付き武器。銘とは、職人が満足した逸品に送る武器の名のことである。それゆえ、銘の入っている武器は、一つ目の職人が作る武器とは分けて考えられるのが一般的である。
そして、レイスが持つこの鉄パイプは三つ目に分類され、銘を“虚筒”という。
作製したのはアンク領随一の鍛冶能力を持つ職人。彼はレイスの入学祝いにこれをプレゼントとして贈ろうとしていたのだが、思ったより作製に時間がかかり、作り終えたときにはレイスがアンク領にはいなかった。
それを知った職人はレイスを追いかけてドミナスまで行くことを決意。行くまでに、そしてたどり着いてからも諸々あったのだが、とにもかくにも武器はレイスのもとにたどり着いた。
“虚筒”。見た目は綺麗な鉄パイプにしか見えないのだが、この武器には特殊な効果が2点付けられている。
一つ目は、魔力を少量注ぐだけで鉄の弾が発射されるというもの。魔法を展開するときはイメージの手間がかかるが、これは魔力を注ぐだけで音速の弾を発射できる。ゆえに、発射!なんて言う必要は本来ない。
二つ目は、修復能力である。魔力を一気に多めに流すと、武器が欠けてもその欠けたものを吸引するかのように武器が吸収し、元の形に戻ろうとする。
この職人が“虚筒”と名付けたのはこの効果が理由である。この筒の本来の運用方法は、『魔力を少量流して筒の鉄を弾の形に変形して放ち、その後魔力を一気に大量で流すことで、放った鉄の弾を回収して元の武器の形に戻す』というもの。つまり、弾を打てば打つほど鉄パイプは短くなっていき、それらを回収するとまた元の武器に戻るということである。形が不安定な武器ゆえに実像ではなく虚像のようだと感じ、“虚筒”と銘付けたのだ。
この武器をレイスは十全に扱えてはいない。扱えてはいないがそれでもこの模擬戦では十分に威力を発揮した。
***
「
レイスがそう言った瞬間、壁を突き破ってダイの顔の手前で止まった鉄パイプは、その銃口ともいえる部分が突然発光しだす。
「……は?」
直後、銃口から発射されたのは小さな鉄の弾。それが音速でしかも連続で10発連射される。鉄の弾丸はダイの顔面を直撃……はせずに地面を貫通する。
「……。」
ダイは目の前で起こったことが分からず、ポカンとした表情で固まってしまう。
「俺の勝ち……だな……はあはあ。」
レイスはこの時点で魔力が1割を切っていた。体のいたるところが不調を訴えていており、立っていることもやっとの状態だった。
しかし、この勝負はレイスの勝ち。ダイに直撃しなかったのはレイスが敢えて当てなかっただけ。ゆえに、見た目はレイスの負けっぽいがレイスの勝ちであろう。
「……坊主。その武器、誰からもらった?」
ダイが気になったのは勝敗ではなくこの武器の出所だった。
「はあはあ。……これは、とある鍛冶師にオーダーメイドで作って頂き……ました。」
レイスは息も絶え絶えになりながらダイに応える。
「……そうか。後でその武器がどれほどのものか教えてやろう。……さて、それよりこの勝負はお前の勝ちだ!こいつぁたまげた!がはは!」
ダイがそう宣言すると、周りで見ていた冒険者から驚きの声と共に小さな拍手が送られる。
しかし、レイスにそれを聞いていられる余裕はなく。
「……ありが……ござ……。」
レイスの視界は暗転していった。
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