第33話 “ステイブル”勧誘
「……お前、化け物だな。あ、もちろんいい意味でな。」
「そうですか?」
「ああ。もう少し大人になったら勧誘したいくらいだ。いや、王都に着いたら俺らのパーティーに入らねえか?もちろんお前はすぐに俺らより強くなるだろうから、強くなったら抜けりゃあいい。どうだ?」
「え、急ですね。少し待ってください。」
「ああ、到着までに考えておいてくれたら『考えがまとまりましたので、質問をいくつかしてもよろしいですか?』……お前、頭までいいのかよ……。」
カミュはレイスが常に敬語を使っていること、急に勧誘したのにもう考えをまとめ終わったことから、レイスは頭もいいのだということに気づき、驚きを通り越して呆れてしまった。
ちなみに、レイスにとって交渉事は日常茶飯事だったためにできただけだ。頭の良さは普通の貴族並みだ。
「質問は3つあります。まず、あなた方のメリットが分かりません。私はあなた方から学ぶことはありますが、あなた方は私から得られる利益はないはずです。どうして私を勧誘しようと考えたのですか?」
「確かにそう見えるかもしれんな。だがメリットはある。それは、アリアだ。」
「お姉さまですか?」
「……お前本当にその呼び方でいくんだな。まあいいか。それでアリアなんだがな、もしかして、自分よりマジカの方が魔法強いとかそんなこと言ってなかったか?」
「言ってましたけど、それがどうしたんですか?」
「やっぱりか。実を言うとな、アリアは本来Aランク魔法使いの中でも上位に位置するほどの大魔法使いなんだ。」
「本来はというのはどういう意味ですか?」
カミュはレイスの耳元で小声で話し始める。
「あいつは何があったのかは知らねえが、自分の力に蓋している節がある。それゆえ、今はCランク程度の魔法しか使わない。だが、見ただろう?あの他人を強化する魔法。あんなのAランクどころかSランクにもできる奴はいねえよ。」
「……。」
カミュが小声でレイスの耳元で話してくれた内容を聞いて、レイスは少し口をつぐんでしまった。今までの旅ではそのようなことはかけらも見せずに、とても明るく接してくれた。そんな彼女がつらい思いをしているのなら、少しだけでもお手伝いしたいと思ったのだ。
「それでな、メリット何だが、レイス君がいるとアリアが元気なんだよ。昨日の戦闘での強化が普段より多めにかかっていることからも、アリアの調子がいいのが分かる。アリアが調子がいいと、本人のためにもいいのはもちろんだが、俺らも戦闘でとても助かる。だから、それだけでも俺らのメリットになる。……アリアもレイスがいたほうがいいだろ?」
「……もちろん!!……レイスにはたくさん教えてあげる!!」
「……ありがとうございますお姉さま。……それで、他にもメリットがあるんですよね?」
レイスは少し涙ぐみながらも話を続ける。
「おいおい。なんで他にもメリットがあるってわかったんだよ。」
「それだけでも、とおっしゃったので他にもあるのかなと。」
少し涙ぐもうとも、交渉は冷静にまじめに行う。感情と思考を別々にするこの技術も、貴族時代に学んだことである。
「はあ。まじで化け物かよ。他のメリットはたいしたことじゃねえんだが、俺らがレイス君に恩を売れるということだ。」
「恩ですか。」
「そう。今俺らが持っている戦闘技術を含めた知識をレイス君に全て教えると、レイス君は短時間で格段に強くなる。そうしたら恩が売れる。そして、レイス君がもっと強くなった時、俺らが困ったときに助けてもらえる。難しいかもしれねえが、投資ってやつだな。いや、レイス君にとっては難しくないのか?」
「なるほど、投資ですか。それなら納得しました。もうすでに恩は感じているのでしっかり返すつもりだったんですけどね。」
「もっと大きい恩を売っといた方が後々困らなくて済むだろ?」
カミュは少し悪い笑みを浮かべながらそんなことを言う。
「ふふ、後が怖いですね。とりあえず次の質問に行きますね。二つ目は期間の問題です。私は王都へ軍の大学校に行くために向かっています。そして、それが始まるのは今年の秋からです。ちなみに試験は夏の間にあります。ですので、パーティーは約半年しか組むことができず、さらに試験の日はパーティーを組めません。これでも私とパーティーを組んでいただけますか?」
「レイス君って一人称ころころ変わるよな。何でなんだ?」
質問には関係ないが、なんとなく気になったので聞いてみるカミュ。
「え、ああ、真面目な話の時は私、普段は僕、戦闘中は俺に変わりますが、特に意味はありません。強いて言うなら気分の問題ですかね。」
「そうなんだな。いや、話をそらしてしまった。結論からいえばそれでも歓迎する。というより、半年もすれば学ぶこともなくなっていそうだからむしろそっちの方が良いのかもしれん。ただ、予定が決まったときは早めに教えてくれ。」
「それはもちろんです。では最後に3つ目の質問です。他の皆さんは私が入ってもいいと思われていますか?」
「おい!お前ら聞かれてっぞ!」
カミュは自分とレイスとの会話を少し離れたところで聞いていたストレンとマジカに話を振るために少し大きな声を出す。少しなのは、周りのモンスターに配慮してのことだろう。
「もちろん歓迎する。俺が直々に鍛えてやろう。」
「私もいいわよ。彼、なんか知らないけどめっちゃ強いし。恩売れると考えれば半年くらい問題ないわ。どうせなら未来の旦那さんになってもらおうかしら。」
「旦那にするのはやめとけ。お前じゃ釣り合わねえよ。」
「なんですって!」
「見りゃわかんだろ。それに、お前こんな頭のいい奴と暮らしてたら、生活も全部効率がよくなるように管理されっぞ。」
「うっ。そ、それはいやね。私は自由に生きたいもの。」
「……そんなことしませんよ。僕を何だと思ってるんですか。」
レイスは少し呆れながら返答する。一人称が僕になっていることからも、気分を害したわけではなく、おふざけに乗っているだけということが分かる。それゆえカミュも笑いながら話を続ける。
「すまんすまん。ってなわけで、俺たち全員レイス君を歓迎している。どうだい?俺たちと一緒にパーティーを組む気になってくれたかな?」
カミュはレイスに笑いながら謝った後、パーティーに入るかどうか再度レイスに問いかける。
「もちろんです!ふつつかものですがよろしくお願いいたします。」
「おう!あと、敬語禁止な。それから、今後の交渉事はレイスがやってくれな。後、パーティーの資産運用も任せた!」
「なんか急に容赦なくなりましたね!?」
「はははっ、敬語は禁止だぞ!」
「容赦ねーなおい!!」
こうしてレイスのBランク冒険者パーティー“ステイブル”への加入が決定したのだった。
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