第21話 異変と救援
(*南門付近)
4番隊の兵士たちは4人一組でモンスターに当たろうとしていた。しかしここでモンスターが少し奇妙な行動を起こした。
「あれは……、もしかして守っているのか?」
5匹のモンスターのうち2匹の狼が個人で行動する遊撃部隊のように、2匹の虎が1匹の兎を守る護衛のように位置を変えたのだ。
そしてさらに異変は起こる。突如兎のいる場所を中心として、レイスが火球で燃やしたところ全域が光り輝く白い光に包み込まれる。
「何だっ!攻撃か!」
攻撃かと思い防御姿勢を取るが何も起こらない。
しかし、目を開けるとそこにはありえない、ありえてはいけない光景が広がっていた。
「まさか。蘇生だと!?」
レイスが薙ぎ払った90匹の魔物が全員復活していたのである。全身を土の鎧のようなもので包み込まれているというおまけつきで。
「……ありえない。蘇生は“聖女”様レベルの御業だぞ……。」
これで形成は一気に逆転する。いや、そもそも戦力的には5対20でも20側が劣っていたのだから、逆転というよりはむしろ劣勢に拍車がかかっただけである。しかしそれでも。
「怯むな!相手はしょせんモンスターだ!時間稼ぎ程度なら我々にも可能だ!4人一組は続行!各個それぞれの判断でモンスターを相手どれ!」
町を守ることが自分たちの仕事。その仕事に彼らは誇りを持っている。それゆえ、たとえ無謀と言われようとモンスターにも立ち向かう。
まずAグループがモンスター20匹を取り囲むように土の壁を形成する。しかし、中にいた兎のモンスターはそれを飛び越えAグループの兵士に襲い掛かり、瞬く間に2人を蹴とばす。
「くそっ!モンスターってやつはこんなに強いのか!?」
彼らは知らない。ただの兎のモンスターは通常これほど強くない。モンスターが100匹列をなして攻め込んできたのも十分異常ではあるが、その全てが強化モンスターであることもまた異常なのである。
BグループもCグループも同様に土壁を展開していたが兎に蹴とばされる結果となっていた。
そしてDグループはよりひどい状況に陥っていた。彼らが相手取っていたのはさきほどの護衛のような2匹の虎と1匹の兎。そんな彼らの場所を土壁で取り囲んでいたのだが、虎による一撃で軽々と粉砕されていた。
「虎は鉄並みに固い土壁を紙でも割くように崩すものなのか。」
目の前の現象を納得しようとしていた隊長だったが、普通の虎はそんなことできないし、モンスターとなった虎もそんなことはできない。この強化モンスターが異常なのである。
「隊長危ないっ!」
少しの間思考に耽っていた隊長は虎の攻撃に気づくのが1テンポ遅れてしまった。それを見ていたEグループの兵士は、とっさに自分の体を間に滑り込ませながら隊長を後ろに少しだけ押す。
そして、その兵士は鎧ごと一瞬にして3枚におろされた。
「……ック!急ぎ土壁展開!少しでも時間を稼ぐんだ!」
仲間の死を惜しむようなことはここではしない。それよりも先になさなければならないことがあるからだ。
その光景を見ていた兵士は少しの間あっけにとられていたが、隊長の声を聞いて必死に土壁を展開し始める。だが、出来上がった瞬間には2匹の虎により破壊される。不幸中の幸いなのは、虎が兎を守ることを優先させていることで、そこまで広範囲に動かないということくらいだろう。
「逃げるな!こいつを放置すれば途端に暴れだすかもしれん!連続で土壁を展開し続けろ!」
兵士たちは必至で壁を作り続ける。救援が来ることを祈りながら。
そしてそんな祈りが届いたのか、ついに救援が到着する。
「2番隊ただいま到着した!4番隊の者は後方へ下がるのだ!」
根拠地から魔法を使って急いで来た2番隊がついに到着する。そしてそれとほぼ同時に。
「おっしゃあああ!俺たち冒険者も加勢に来たぜ!!」
ついに冒険者たちも到着する。
南門での戦いはこれから本番を迎える。
***
(*北門付近ダンジョン(レイス南門到着前))
ダンジョン内は今日もいつも通りだった。
このパーティーも今朝いつも通りにダンジョンに潜った。そして、いつも通りダンジョンから出現する“ドール”を倒しながら階下へ向かっていた。
2階程降りてから昼休憩のために少し早めに昼食を取った。ここまで特に何も異変はなかった。しかし突然パーティーメンバーの一人が異変を察知する。
「ん?誰か魔法使ったか?」
異変を察知したのは斥候役を務めるサミュという男。彼は魔法やトラップを察知するのに長けていたため斥候をやっていた。そんな彼が一瞬ではあるが魔法が行使された残滓を感じ取った。
「いや、俺は何も使ってないぞ。」
「私も使ってないわよ。」
「……私も、使ってにゃい。……噛んだ。」
パーティーメンバー誰も使ってないと言い、少し奇妙に思ったが些末な問題だと流した。
その瞬間だった。
「ん?あ、う、うああああああ!」
「ああああああああ!」
「……ん?」
サミュと先ほど噛んだ魔法使いの少女以外の二人が急に苦しみだした。
「……まさかっ!シャル!高火力魔法でもいいからこいつら気絶させろ!」
「……?了解。」
そう言ってシャルと呼ばれた少女が作り始めたのは、透明な小さい壁のようなもの。カミュが何をするのかと思ってみていると、それを二人の頸動脈に強く押しつけた。
「……どかん。」
そう言うと透明な壁が頸動脈付近で小さく爆発する。そしてそれと同時に1人が気絶する。
「……む。筋肉まんめ。」
頸動脈を強く圧迫して急に離す。これをすることで人間が気絶するということを両親から聞いて知っていたシャルは実践してみた。その知識は決して間違いではなかったが、筋肉マンには効果が薄かったようだ。
そして、攻撃を受けた筋肉マンはシャル目掛けて襲い掛かる。それを見てサミュは双剣を抜いて迎え撃つ。
「おい!俺たちが分からねえのか!やっぱり狂乱状態になっちまったのか?」
狂乱という状態異常のことを知っている人は少ない。しかしカミュは狂乱状態のことを知っていた。なぜなら彼が育った孤児院で同じ技を使う少女がいたからだ。
(でもあいつのは【スクリク】で、制御できないものだったはず。)
昔のことを少し思いだしながら彼女の仕業ではないと判断しつつ、目の前の筋肉マンの攻撃を対処する。相手は素手にも関わらず、双剣で受け止めても傷一つつかない。これは地属性版身体能力強化で筋肉や皮膚を強化しているのだ。
「ああクソ!めんどくせえ!」
こんな状況がダンジョンのいたるところで起こっていた。
ダンジョンには入場資格があり、彼らは全員上級以上。それゆえ、そんな彼らが見境なく暴れだすと止めるのは非常に困難である。
仲間と生死をかけて本気で戦うという最悪なシチュエーション。
ここに3番隊が到着するのはもう少し後。
彼らの死闘が今始まった。
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