第22話 レイスVS兎と熊
(*南門付近の森)
1匹のバリアっぽい【スクリク】持ちの熊と1匹の速度上昇系【スクリク】と槍持ちの兎。それに相対するは土で作られた棒を持った防具すら着ていない7歳の少年レイス。
戦闘が始まってからわずか1分ほど。優勢なのは熊と兎の方だった。
「……はあはあはあ。」
レイスの体力はすでに限界が近かった。レイスは冒険者ギルドを出てから常に天属性版の身体能力強化を使用していた。天属性版の身体能力強化は、体内から水分が奪われる、タンパク質が変性するなど人体に多大な影響を及ぼす。7歳児の体でこれに耐えるのは困難だった。
そんなことはお構いなく、いやむしろ積極的に攻撃を仕掛ける熊と兎。兎が槍を突き出しながらとんでもない速度でレイスに迫る。そしてレイスが土棒で槍を払おうとすると熊がバリアを張って妨害する。妨害されたレイスは体制が崩されている最中に兎の槍を避けなければならず、体を無理やり動かし被害を最小限に抑える。
こんなことが続くと、レイスの体は傷だらけになっていく。
「はあはあはあ。……まだ不完全だけど……はあはあ、あれを使うか。」
レイスは奥の手を使うことを決める。そして次にレイスが取った行動は。
「……ふう。」
目をつぶって呼吸を整えることだった。
そしてそんな隙だらけのレイスを見て、兎は攻撃を仕掛ける。地面を少し削るほどの強い踏み込みと同時に槍をレイスに向けて突進を敢行する。……その瞬間。
レイスが半歩後ろに下がる。
ただそれだけ。しかしまっすぐ跳んでいる間に方向を変更できない兎は、レイスに攻撃を当てることができなかった。それに腹を立てたのか、もう一度突撃を敢行する。
それに対しレイスが取った行動は一つ増えて二つ。一つは半歩下がること。そして今回新しく増やした手は、兎の通る場所にあらかじめ土棒を置いておくこと。
土棒が攻撃のためのものだと認識した熊はバリアを兎と土棒の間に張る。しかし、それこそがレイスの狙い。兎の進行方向にレイスの力でも割れないほどのバリアという名の壁を張ること。そうすれば起こることは必然。
兎はものすごい勢いで頭からバリアに突っ込み、頭蓋が陥没した。
これでレイスの敵のうち1匹が戦闘不能に陥った。残るはバリア持ちの熊のみ。このときレイスの呼吸は非常に安定していた。
「ふう。目をつぶってもなんとかなるみたいだな。」
レイスがしたのは目をつぶっただけ。しかしそれが自身にもたらした影響は多大である。
まず、見てから避けるという行為がなくなり、空気中・相手の体内の気体の揺れを感じて避けるようになった。
気体の揺れを感じる魔法、厳密には感覚球と名付けた風属性の小石サイズの球を周囲に無数にばらまいてその揺れを感知する魔法、これもレイスが使える天属性の魔法の一つである。
レイスは家族と戦闘訓練をする中、独自にこの魔法を編み出し強力なものにしていた。そうでもしなければ火球50発が飛び交う中で接近戦なんていう訓練に耐えることができなかったからだ。
さらに、目をつぶったことで【再生】が発動した。
【再生】は目をつぶっているとき限定でMPを消費して回復していく【スクリク】。今現在、MPを身体能力強化で消費しながら【再生】でもMPを消費している状態。そして、身体能力強化で体を燃やしながら【再生】で燃えた体を修復している状態。それゆえ、レイスは多大なMPを毎秒消費しながら正常な状態をキープしている。
「この状態は長く持たないから、早く決着をつけよう。」
そう熊に言い放つ。熊は言葉を理解したわけではないだろうが、2足歩行でファイティングポーズをとる。
レイスが普段より威力の低い火球を熊の周囲に10発展開し発射する。そうして火球に囲まれた熊は全方向にバリアを張り巡らせてしのぐ。
「なるほど。全方位に張ることもできるのか。」
一つずつ可能性をつぶしていき、バリアの弱点を炙り出す。
「じゃあ次は魔法で一点突破。」
熊の腕による薙ぎ払いをよけながら威力を極限まで上げた1球の火球を発射する。しかしそれもバリアで防がれる。
「バリアは無制限に出せて、全方向に出せて、物理も魔法も俺の力では破壊不可能。……無理じゃないか?」
実質無敵、かつ千日手。こちらの攻撃は一切効かない。しかし、相手の攻撃はレイスにとっては遅すぎて当たることはない。
「となると、威力をより高めていくしかないのか。」
確かにそう考えるしかない。しかし、すでにレイスのMPは限界近い。これ以上威力を上げることは不可能である。
「救援が来るまで足止め、これが最善かな?」
残り数分以内に救援が来てくれたらレイスの勝ちもしくは引き分け、耐えられなければレイスの負け。
先ほどの第4部隊のような状況で、レイスは目をつぶりながら戦闘を再開する。
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