第19話 第2ラウンド

「すまない。2mくらいの鉄パイプのような武器が欲しいのだが、土で作成してもらえるか?」


 周りにいた兵士に話しかけるレイス。レイスが使える天属性では固体を操作することができないため土を操作することはできない。しかし、先ほど彼らが作っていた壁は地属性魔法だった。それを見ていたため、彼らにもう一度土を操作してもらうよう頼んだのだ。


「あ、あなたは武器を持ってきていないのですか?」


 子ども相手ではあったが先ほどの光景を見せつけられたため、自然と敬語になってしまう兵士。しかしレイスはそんなことは気にしない。彼らと話しながらもモンスターの方を警戒しているのだ。


「生憎持ってくることを忘れた。それゆえできればあいつらとの戦闘前に武器を作成してほしい。できるだろうか?」


「も、もちろんです!今錬成いたします!」


 この会話だけ聞いた人がいたらその人はどちらが年齢が上か必ず誤解していただろう。もちろん敬語を使っているのが年上の兵士で、敬語を使っていないのが年下のレイスである。


「錬成完了しました!強度は鉄パイプと同等かそれ以上だと自負しております!どうぞご使用ください!」


「ありがとう。それでは行ってくる。」


 兵士の一人から土でできた棒を受け取ると、即座に近くにいた1匹に奇襲を仕掛ける。その速度は土棒を渡した兵士が一瞬見失ってしまうほどのもの。



―――ガンッ



 レイスは近くにいた一匹の熊に土棒を振り下ろす。


 しかし、その直前に見えない壁があるかのように、土の棒が熊の数センチ前を直撃する。そして武器が止まったことを確認した熊は、レイスにカウンターを仕掛けるために前足を振り上げる。


「……ッ!何だ!?空気を圧縮しているのか!?それとも何かの【スクリク】か!?」


 こちらの攻撃は徹らない。にも関わらず向こうの攻撃は徹る。このギミックを解かない限りレイスはこの熊を倒すことができない。


 それでも、レイスの表情は溌剌としたものだった。


「ははっ、面白い!仕合うぞ!」


 しかしそんな状況に文字通り横やりを刺してくる兎のモンスターが一匹。


 横やりというにはその速度は常軌を逸していたが。


「……うおっ!1対2ってか!上等!!」


 見えない壁を展開しながら戦う熊と、レイスと同じくらい大きな槍を携えた兎。レイスが担当するモンスターはそんな2匹だった。




***

「あの子一体何者だ?」


 今しがた超速で移動していった子どもを見ながらつぶやく兵士。


「そもそもあんな子どもこの町にいたか?」


 彼らは今はこのような場所で戦っているが、本来は町を巡回することを仕事とする騎士である。そんな彼らの誰もがあの子どもを見たことがないというのはおかしな話だと少し話が盛り上がる。


「ばかもの!まだモンスターは残っているんだぞ!おしゃべりはあれを対処してからにしろ!」


 そう叫んだのはここにいる騎士のまとめ役であり、レイスに初めに話しかけられさらに土の棒を作った騎士。階級が上とか強いとかそういうことではなく、上司に気に入られていたから任せられたまとめ役。まとめ役ゆえこの隊で成功を収めれば彼の成果になるが、失敗すれば彼の責任になる。それゆえ、この隊の助けになるレイスに必要以上にへりくだっていたのだ。典型的な小物である。


 だがそんな小物なまとめ役に活を入れられ気を引き締める兵士たち。彼らも分かっているのだ。あのモンスターは自分たちの手に負えないと。だから少し現実逃避がしたかったのだ。どうせならあの子どもが全員倒さないかなとか思いながら。

 

 でもそんなことはありえないということがわかった。あの子どもは熊と兎の2匹に苦戦しているのだ。それゆえ彼らも気合を入れた。自分たちは残りの5匹を受け持たなければいけないのだと。救援が来るまで全力で挑もうと。


「相手は5匹、こちらは20人!1匹につき4人で対処する!我々はモンスターを相手には戦えない!それゆえ壁を作ってひたすら時間稼ぎに徹するのだ!そうしたら頼もしい救援が来るはずだ!それまで耐えるぞ!」


「「「「はい!」」」」


 何度も言うが彼ら4番隊の本来の仕事は町の巡回。対人相手の訓練はしても対モンスター相手の訓練はしたことがない。本来そういうのは違う部隊の役割なのだ。


 しかし彼らは偶々この場に居合わせてしまった。周りに対モンスター用の隊もおらず、高ランク冒険者もいない状況で、町の安全を脅かすモンスターに出会ってしまった。


 それゆえ彼らは戦わなければならなかった。5人の兵士を伝令として指定の場所に行かせた後、彼らは犯罪者拘束用の土魔法で壁を作り足止めを行ったのだ。


 そして、彼らにとっての第2ラウンドが今始まる。相手はあの火球を耐えきった猛者。勝てる見込みなどほとんどない。だがそれでも、足止めくらいならできるだろうと、気を引き締める。





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