第18話 初モンスター

「すみません。冒険者ギルドからお手伝いに来ました。」


 レイスは南門に着いてすぐそこにいた兵士に声をかける。


「え?君がかい?」


 冒険者からの救援と思って振り返ると、小さな男の子一人だったことに驚く兵士。彼は冒険者が30人ほど集団になって救援に来てくれると思っていたのだ。


「はい、そうですよ。敵の強さの偵察に来ました。」


 レイスが任されたのは斥候の役割。それゆえ、レイスは出せる最高速度で飛んできた。冒険者ギルドにいる30人程の集団を置き去りにして。


「僕、冗談を言っている暇はないんだ。すまないが、そういう遊びはママとやってくれ。」


 そんな事情は知らない兵士の返答は至極当たり前なものだった。


 ここにいる兵士は暇そうにしているが(暇なわけではない)、門から離れた場所では兵士が20人ほど集団でモンスターを足止めしている。


 だがその戦況は芳しくない。モンスター100に対して兵士20では分が悪かった。兵士20人で地属性の壁を作り足止めをしているが、それももうすぐ破壊されそうなほどに亀裂が入っていた。


「そろそろ危なそうなので介入しますね。それから……僕にはもうママはいないんです。」


 少し悲しそうな顔をしながら南門をくぐるレイス。それを必死に止めようと兵士は追いかけ、レイスの肩に手をかけるが……そこで異常なことが起こる。


「僕ちょっと待ちな……あ、あちい!」


 レイスの肩に触れた兵士の片手の掌が少し焼けたのだ。


 レイスはここまで走ってきた。しかし子どもが本気で走ってきただけで大人を置きざりにすることができるだろうか。答えは否だ。


 実はレイスは冒険者ギルドを出た瞬間に天属性版の身体能力強化を自分に施していた。天属性は炎を操ることができる。そして炎は熱を産み出すことができる。このことに気づいたレイスは、それなら体の中で熱を産み出せば運動後のような状態を海属性じゃなくても身体能力強化をできるのではないかと考えたのだ。


 だがこのやり方には問題点が二つある。


 一つはかなり効率が悪いのだ。魔力(MP)というエネルギーを熱に変換すると、同時に身体能力強化を促す運動エネルギーも生じる。

 しかし、その時MPの8割を熱エネルギーに変換し、2割を身体能力強化の方に変換する。つまり、身体能力を1強化すると、体内に4の熱を蓄えなければいけないのである。

 それゆえ、海属性に比べ2割程度の身体能力強化しか施すことができず、さらに体が高温になるというデメリットが生じる。


 そして二つ目。体内から水分が奪われる、タンパク質が変性するなど人体に多大な影響を及ぼす。それゆえ、短時間しか持たない。



 まあ、ここまで速く来れたのは別の魔法のお陰なのだが。



「すみません。止めても無駄ですので。それでは行ってきます。」


 そう言い残してレイスは門の外で戦っている兵士の方へ行く。




「お疲れ様です。今から私が火球を壁の向こう側にぶち込みますので、余波に注意してください。」


 レイスは門の外にいた兵士たちのところにいると、一番後ろで指揮を執っていた騎士に話しかける。……話しかけると言っても、かなり一方的に押し付け感が強かったが。


「……は?……待て待て君は誰だ!?というよりなぜ子供がこんなところにいる?」


 レイスはそんな兵士の言葉を無視して火球の構築を始める。


(体内が熱いときに火球を作ると何故かいつもより簡単にできる。なんでなんだろう?)


 そんなことを考えながらレイスが作ったのは、直径1m数60発の火球。


「「「「何だ!?」」」」


 そこにいたほとんどの騎士が背後に現れた太陽のごとく煌めく火球60発をみて驚きの声を上げる。


「それではぶち込みます。再度申し上げますが余波にはご注意ください。」


 レイスが火球に指向性を持たせる。もちろん壁にぶつからないように山なりの軌道を描いて魔物が集まっているであろう場所に打ち込む。


 そして10発が同時に着弾。続いて10発。さらに10発と、60発が10発ごとに6連続打ち込まれる。その余波は尋常ではなく、周りにあった木々を薙ぎ払い、兵士たちによって作られた土壁も破壊していく。


 レイスはその間に、続いて火球を10発兵士たちの前に展開する。それは目の前からくる余波を防ぐための壁の代用であったため、ほとんど指向性を持たせていない火球だった。


 その火球は余波が収まるまでの約1分間展開され続け、余波が収まったかといったところで自動的に消滅する。


「う、嘘だろ……。」


 そして火球が消えようやく見えるようになった前方を見てみると、7匹のモンスターが生きているのみで、他の100近いモンスターはその死骸すら残すことを許されず殲滅されていた。


「これを一人で、しかもこんな小さな子がやったのか……。」


 レイスに向けられる視線は驚きではなく、恐怖の視線。


 無理もないことである。まだ理性がしっかり育っていない子どもがこのような力を持つことはどう考えても危険なのだ。


 だがレイスはそのような視線を気にしない。というよりそのようなことを気にしているほど余裕がない。その理由は体の熱さのせいで脳の働きが阻害されていることもあるが、それ以上に生き残っているモンスターの強さを身に染みて実感していたからだ。


(何故あいつらは死んでいない?あいつらのいた場所にも火球は落としたはず。耐えたのか?それともすぐに回復されたのか?それか避けたのか?どれにしろ俺より強いのは明らかだな。)


 正解はその全てなのだがそれを知るものはここには誰もいない。


 そして、騎士とレイス対モンスターの第2ラウンドが開始される。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る