第13話 戦闘訓練の記憶
「まず整理するために俺の優先順位を言ってくね。一つ目に、俺の正体が親にばれるのを避けたい。二つ目に、一人で生きていける程度の生活費を稼ぎたい。三つ目に、強い敵と戦いたい。これらすべての条件を満たしているのは、今の中ではどれかな?」
「……その前に聞きたいんだけど、レイスって、戦闘狂なの?」
「そんなことないよ。上の兄姉たちの方が戦闘狂だよ。」
「……。基準が分からないから、参考までにどんな訓練してたか教えてくれる?」
「どんなって普通だと思うけどなあ。例えばこの前の父さんとの訓練では……。」
***
「レイリー、今から火球を50発出す。すべて回避しなさい。」
「はい、わかり……うおっ!」
返事を言い終える前に直径1mの火球50発が時間差で飛んでくる。
「戦場ではいついかなる場所から攻撃されるかわからない。何が来ても注意しておくように。」
「はい。わかり……うおっ!」
またも返事を言い終える前に攻撃が飛んでくる。ただし、それは火球ではなく、それよりスピードと殺傷能力の高い火槍だが。
「いい反射神経だ。それじゃあもう1段階上げるぞ。【低速空間 固定】。」
そう言った瞬間にレイリーといくつかの火球のスピードがほんの少しだけ落ちる。実際は0・98倍速になっただけで外から見る分にはあまり変わらないが、意識して行動するまでがいつもより少しだけ遅く感じるのは物凄く違和を感じるものである。
そのうえ、全ての火球ではなくいくつかの火球が遅くなっているため、避けるリズムが少しずつ狂ってくる。
「ああ、くそー-!おらっ!うおっ!んああっー!」
正面から来た火球を左に避けると、今度は左から火球が飛んでくる。左から飛んでくる火球を次は右にかわすと、次は左と前と後ろの3方向から同時に火球が飛んでくる。しかも微妙な時差付きで。その場でジャンプしたら2つは避けれても最後の一つにぶつかる。そこでレイリーが取ったのは、左からきていた火球に向かってジャンプすること。そして3つの火球を避けることに成功する。だがしかし。
「甘い!」
レイリーがこちら側にジャンプすることを予測していたのか、ジャンプした先にも火球が飛んできている。そこでレイリーが取った行動は、持っていた鉄パイプのような武器を地面に刺して滞空時間を少しだけ伸ばすことだった。しかし。
「甘いと言っているだろう!【低速空間 自在】」
突然レイリーの速度が元に戻る。そして火球の速度が0.9倍速になる。たったそれだけ。だがそれだけでレイリーの滞空時間稼ぎは無意味になり、火球が飛んでくる場所に自ら突っ込むような形になる。それでもレイリーは諦めない。
「おっらああ!こなくそおお!」
鉄パイプのような武器を前方に向けながら火球に突っ込む。そして、武器の内部から水球を発生させる。実はこの鉄パイプ似の武器は、銃のような形になっており、魔力を少し込めると自動的に水球が前方に発射するようになっている。レイリーはどうせ火球に突っ込むなら少ないダメージで済むようにと、水球を火球にぶつけることにしたのだ。
「ふむ。まあ及第点だな。」
火球の火で丸焦げになっているであろうレイリーの方を見ながらそうつぶやく。だが、レイリーはまだ諦めていない。
「まだまだあー!」
丸焦げになりながらもレイリーは父親に接近し武器を振り上げる。
そう来ると思っていなかったのか、全く武器を構えていなかった彼だが、その顔に焦った様子はない。
「ふむ。その心意気だけは認めてやろう。」
レイリーが武器を振り下ろそうとした瞬間に、スピードが0.9倍になる。そしてその一瞬の間に、彼は半歩だけ後ろに下がる。すると、レイリーの武器は彼には当たらず、地面をただ強く叩きつけ……なかった。
「それくらい、読んで……っるぅ!」
レイリーはスピードを若干遅らされることを読んで、上段から殴りつけるふりをして、武器を投げていた。それを見て彼は一言。
「合格。」
レイリーを称賛する一言を送る。そして、その直後。
「ぐはッ!」
横からまだ残っていた49発目の火球が彼の10cm前を飛んできて、武器と共にレイリーの体ごと吹き飛ばした。
そしてレイリーが吹き飛ばされた先には、50発目の火球が設置されていた。
「ぐっ!……うわあああああああああ!!」
火球に押されて火球の中に飛び込み、その熱さに耐えられず声を上げる。
「おいお前ら!こいつを回復してやれ!」
彼がそう言うと、傍で控えていた数名の使用人が同時にレイリーに回復魔法を掛け、一瞬のうちに全快させる。
「よし。じゃあ続きをやるぞ。」
今ちょうど回復したばかりのレイリーに向かってすぐに訓練を始めるぞという。それに対してレイリーは。
「はい!宜しくお願いします!」
***
「こんな感じかな?」
「十分戦闘狂じゃない!!」
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