第12話 人生の選択肢①

「お、おはようござ……あ、おはよう。」


 今日も朝朝早く起きて料理を作っていた彼女に挨拶をする。つい敬語が出てしまったのはまだ慣れていないのだから仕方のないことだろう。


「おはようレイス!おはようって言えて偉いねえ~。」


 鍋をかき混ぜる手を止めず器用にレイリーを見て挨拶を返す。


「うぅ。やめてよ。そこまで子どもじゃないんだから。」


「7歳は十分子供じゃない?」


「昨日言ったと思うけど、【スクリク】が発現したからそこまで精神年齢は子どもじゃないんだよ。」


「ああそうだったわね!でもそんなことは私の前では関係ない!しっかり君をお姉ちゃんとして育てていくからね!」


 鍋をかき混ぜる手を止めず、レイスと目を見ながら会話しながら、自信満々に胸を張る。地味に器用なことをしている。


「え?……一応言っとくけど、俺は一人で生きていくつもりだよ?もちろん寂しくなったらお姉ちゃんのところに帰ってくるけど。それから、俺がお姉ちゃんって呼んでるのはお姉ちゃんが名前を教えてくれないからであって、本当は……ヒッ!」


 レイスは目の前から威圧を感じて言葉が詰まってしまう。


「『本当は』なにかしら?」


「い、いえ、何でもないです。……でも、本当にそこまでしてもらわなくていいよ?」


「うん、そのことについてはご飯食べてから話そっか。もうちょっとでできるからね。」


 そう言って彼女は料理の盛り付けに入る。今日は朝からトマトスープと鳥のグリルステーキらしい。


「はいできた!」


「ありがとうお姉ちゃん。それじゃあいただきます!」


「あ、お姉ちゃんが庶民の食べ方を教えてあげるからねー。」


 そういって彼女は鶏肉にかぶりつくようにして食べる。レイスはその豪快な食べっぷりに少し驚きながらも、同じようにして食べる。スープもお皿を持ち上げ音を立てながらすすっていたのを見て、同じことをする。


「ふふっ。慣れてない感じがまるわかりよ。」


「しょうがないでしょ。実際慣れてないんだから。」


「そうね、でもこれから平民として生きていくなら大事なことよ。特に冒険者となるならね。」


「そうなの?」


「そうよ。まあどんな職に就くかは私の話を聞いてからにするといいわ。」


 そんなことを見様見真似で朝食を食べながら話す。


 そして、朝食が終わると彼女がこれからのことについて話しだす。


「まずは、私の自己紹介からするわね。私の名前はカミラ・ロワ、年齢は16歳。今は冒険者ギルドの受付嬢として働いているわ。」


 これからのことを話し始める前に、ようやく自己紹介を始めるカミラ。


「だから、もしレイスが冒険者になるなら、私が全力でサポートできるから私的には冒険者を一番推すんだけど、これはレイスの人生だからね。強制はしないし、それどころか私が昨晩考えた4つの選択肢を示してあげるわ。」


 相手を安心させるような優しい微笑みを浮かべながらレイスに話しかけるカミラ。そんな彼女を見てレイスは心の底から彼女に相談してよかったと思う。


「まず、一つ目が冒険者ね。仕事内容は、街中の雑用・護衛・壁外での採取活動・壁外でのモンスター討伐・ダンジョン攻略、これら5つが主な仕事となるわね。一番初めのやつ以外は命の危険がある仕事だけれど、やりがいのある職業だと思うわ。」


 冒険者の活動を簡易的に説明して呉れるカミラの目をじっと見ながら真剣に自分のこれからについて考えるレイス。


「次に、二つ目が商人ね。どこか大きな商会の見習いから始めてそこで成り上がっていってもいいし、自分でお店を構えてもいいんだけど、どちらにしろ人とのかかわりが多い職業ね。もしレイスが正体を隠しているのだったらこの職業は向かないわ。」


「そうだね。家族はすでに僕が死んでいるものだと思っているはずだから、できるだけ隠して生きていく方がいいと思うんだけど、お姉ちゃんはどう思う?」


「私もその方がいいと思うわ。早めに生きていることがばれてしまえば、自分の身を守る術が身についていない状態で貴族と戦うことになるからあまりお勧めはしないわね。」


「やっぱりそうだよね。それで、3つ目は?」


「3つ目は、学校に入学すること。まだレイスは社会のことについて知っていることが少ないから、とりあえずどのような職業が世の中にあるのか知ってみるのもいいと思うの。もちろん費用は私が持つから気にせずに行けるわよ。といっても、レイスは気にするんでしょうけど。」


 学校というのは基本的にどのような職業があるのかを知るための、職業体験所のような役割を果たしている。一般的な平民は、基礎学校に7歳から3年通い、興味のある職業を見つけたら、それに関連する専門的なことを教える大学校に入学する。その職業の中には冒険者もあり、冒険者専門の大学校もある。一概には言えないが、大学校に行ってからどこかの職種に就職するほうが後々うまくいく可能性が高いため、子どもを心配する親は子を大学校に行かせようとする。


「質問したいことはあるでしょうけど、とりあえず4つ目に行くわね。4つ目は、雑用として冒険者ギルドで働くこと、もちろん見習いとしてね。冒険者ギルドはね、子供を小さい時から育成する権利を国から与えられているの。ちなみに、どうしてだと思う?」


 カミラから急に出された質問に真面目に考えるレイス。


「それは……子供のころから育ててたら長く冒険者ギルドで働いてくれるようになるから?」


「そうね、概ね正解よ。でもそれだけだと冒険者ギルドだけが国からそんな権利を任せられないでしょ?だから正解は、訓練場があって教育できる大人もいるという学校と似たような環境が揃っていて、子供がギルド内にいるほうが冒険者たちが争わないっていう研究結果が出たからよ。」


「……。」


「冒険者は血の気が多い人が多いけど、そんな人たちも子供がいる前で騒ぎは起こしにくい。起こしたとしても、大人がそこに割って入るより子供が割って入ったほうが喧嘩が収まりやすい。それから、おじさんやおばさんが受付するより、容姿端麗で元気溌剌なティーンエイジャーの子が受付をしたほうが、冒険者たちのやる気も出るし揉め事が少なくなる。冒険者の活動は公営の仕事の中でも重要な仕事だけど、それを担う労働者が荒くれ者ばかりだから、それを何とか制御するために取り入れられた制度よ。」


「……それでいいのか冒険者たち。」


「いいのよ。それにそうやって冒険者たちの機嫌を取りながら顎でこき使うのもなかなか面白いわよ?」


 意地の悪い笑みを浮かべながらそんなことをのたまうカミラ。レイリーは何故か体がゾクッとしたように感じたが、無視することにした。深く追求したらなんとなくダメな気がしたからである。


「という感じで私が示せる選択肢は4つ。もちろん他にも生き方はあると思うけど、これら以上に今のレイスにぴったりな生き方はないと思うわ。……それで何か質問はある?」


 そうして説明が一段落した。



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