2章 シーヴェスト王国ドミナス領
第9話 冒険者ギルドへ
―――ギイイィ
木製の両開きの扉を開けると、金属の部分がさびれていたのか少し嫌な音が鳴る。
だが、その扉を開けた少年はそんなことは気にしない。
そして、この扉を少年が開けたことに対して好奇な視線を向ける大人たちのことも、一切気にしない。
彼は確かな足取りでこの建物の受付らしき場所まで向かう。
「失礼します。一つお尋ねしたいのですが、ここは冒険者ギルドですか?」
「……?その通りでございます。登録・依頼・受託がこの受付でできますが、どういったご用件でしょうか。」
受付の人は何でこんなことを聞くんだろう、何でここに子供がいるんだろうと一瞬疑問に思ったが、丁寧に返答することにした。彼から滲み出るオーラのような雰囲気が、年不相応のものだったからである。
「そうですか。いえ、それが聞きたかっただ……け……。」
少年はそう言うと、膝からガクリと崩れ落ち気絶した。
それを見て慌てる受付嬢。机を横跳びに飛び越え、倒れた少年の意識を確認する。そして、意識があることを確認した後、少しホッとし、すぐに周りの大人に呼びかける。
「誰か回復魔法を使える人はいませんか?急いでください!この子を助けてあげてください!!」
***
ダンジョン都市ドミナスの近くの森で二人の男と一人の少年がいた。少年の名前はレイリー・ラビ・アンク。
アンク家の三男だったが、魔法を暴発させ致命的なまでの重傷を負ったために父親に殺害を計画された少年。
そんな彼を馬から降ろしてこの後どうしようかと考えているのはアンク家の使用人の一人。彼が主であるレイリーの父親から受けた命令は、『レイリーをドミナス付近の森の中に捨ててこい』というもの。
「なあ、森に捨てるってどの辺に捨てとけばいいんだ?」
一緒についてきていたもう一人の使用人に話しかける。
「この辺でいいんじゃないか。どうせもうすぐ死ぬんだし。」
「「……え?」」
まだ森に入ったばかりのところではあるが、もうこの辺に捨てようと提案するもう一人の使用人。彼が主から受けた命令は、『ドミナスまで行こうとしたが、途中で偶然盗賊に襲われ死んでしまったことにしろ』というものだった。それゆえ。
「じゃあ、死ね。」
命令を忠実に守るために、盗賊に襲われたように見せるために、まず使用人の首をはねた。
「……え、え?」
まじかでそれを見せられたレイリーは、始めて人が殺される瞬間を見たのだが、それどころではないくらい頭の整理ができていなかった。
使用人はさらに盗賊にやられたように見せるために、馬には少しの傷を与え、森の中に放した。そして一連の作業を終えて、レイリーに向かい合う。
「レイリー様。あなた様にはあのアンク家で救われた御恩もあります。ですが、私はご主人様には逆らうことはできません。それゆえ、私ができる精一杯の恩返しは……ここにレイリー様を置いていくことです。……殺してほしい場合は首を縦に、このまま放置してほしい場合は首を横にお振りください。」
レイリーは突然のことに何も考えることができなくなっていた。一人でドミナスに行けと言われただけでもかなりショックだったのに、そんな状況で目の前で人が一人殺されたのだ。まだ7歳のレイリーにはショックが大きすぎた。
だが、……それでも本能的に首を横に振った。
「(【再生】を伝授しました。)」
「そうですか、わかりました。ではこれでお別れです。今までありがとうございました。」
使用人が最後に何かを言って馬で去って行ったが、レイリーはそれどころではなかった。
(……【再生】?)
今までの内容だけでも頭の中で整理できていなかったのに、さらに意味の分からないものまで頭に飛び込んできて、レイリーの頭の中はパンク状態にあった。それゆえ。
(もう何も感じたくない、考えたくない。……ああ、もうここで、死のうかな。)
考えることを放棄した。そして、現実から逃げるために短絡的にも死を選ぼうとした。
しかし、そんなレイリーの視野が急に暗くなる。かと思ったらその暗さの中は微妙に明かりが漏れており、どこか違和を感じる。どこか少しねちょっとしているようにも感じる。
そう思っていると、急に視界が明るくなり、そしてまた急に暗くなる。
(何が、起こってるんだ?……嫌がらせか?)
直前まで死ぬことを考えていたレイリーだったが、急に明るくなったり暗くなったりする子供の嫌がらせのような現象に少し腹を立てる。
ものすごくだるかったが、どうなっているかを知るために重い瞼を持ち上げる。そして、その視界に入ってきたのは……1匹の黒馬だった。
(たしかこいつもう片方の馬じゃないか!……ということは、もしかして俺こいつにずっとかじられてたのか⁉はあ?冗談じゃない!馬にかじられながら死ぬなんてどんな最悪な終わり方だよ!どうせなら美味しいもの食べながら死にたいわ!ああ、くそ!こんなところで死んでたまるかー!)
思考が少しづつクリアになってくる。馬のお陰か、それとも。
「おい!よくもやってくれたな!この、この、この、う、うわああああああ!」
文句を、言おうとしたのだが、レイリーにはできなかった。この馬がいなければもしかしたら死んでいたかもしれない。この馬は自分の恩人ならぬ恩馬。そんな馬に文句なんか言えるわけがない。そう思うと、文句より先に何故か感情があふれ出してしまい、馬のお腹のあたりで大泣きしてしまった。
そんなレイリーを見て、馬はレイリーを外から見えないようにするかのように、レイスを自身の体で包み込む。
しばらくそうしていると、レイリーもだんだん落ち着いてきた。
「……ふう。もう落ち着いたよ。お前も怪我してるのにごめんな。」
「フン!」
「これからどうしようか。とりあえず、町の方でも行ってみようか。」
「フン!」
「家に帰るか一人で生きていくか。うーん、どうしよか。」
「フン!」
「そうだよなあ。あれは完全に俺を殺すことが目的だったもんなあ。じゃあ町に行くしかないのか。」
「フン!」
「じゃあ、ひとまず町の冒険者にでもなってみるか。父さんもそうしてたみたいだし。」
「フン!」
「よし!じゃあ乗せてくれるか?」
「フン!」
「それよりお前、その鳴き声何とかならないの?」
「フン!」
「まあいいか。それじゃあしゅっっっぱー―――つ!」
「ヒヒーーン!」
「できるんじゃん、ほかの鳴き声。」
こうしてレイス一行は、ドミナスの冒険者ギルドを目指し、歩を進めるのだった。
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