第7話 捨て……られ……る?
それから数日間レイリーはいつも通りの毎日を送った。
学校に行き義務教育を受けて帰宅する。帰ってきてからはひたすら家族と共に訓練をする。それも終われば後は眠るだけなのだが、レイリーは唯一使える天属性をどうにかして実践に使えるようにしようと、一人夜更かしして訓練をしていた。
天属性はエネルギーを増強する特徴を持つ属性なので、基本は範囲殲滅型の魔法を得意とする属性である。とある冒険者が使う『グランドファイア』という魔法は、1発撃つだけで1個中隊を全滅させるほどの威力を持っていたりする。
ちなみに、魔法の発動に魔法名を唱えるという行為は必須ではない。必須ではないが、魔法名を唱えることで、魔法のイメージをしっかりと持つことができるようになったり、魔法の発動が速くなったり正確性が上がったりする。ゆえに、ほとんどの人が魔法名を発動の直前に言う。
まあ、オリジナルの技の名前が有名になったとき、その魔法名が教科書に載ったり、自分の二つ名となったりするからという理由もあったりするのだが。
それはさておき、レイリーが天属性を使ってやろうとしていることは、個人戦闘型に分類されるものだった。それはずばり、身体能力強化。負けず嫌いな彼は、この数日、毎日天属性を使用した身体能力強化を練習していた。だが、自分の体が軽く燃え上がったり、片手を強化しすぎて骨折したりと失敗ばかりしていた。
***
そんな毎日を過ごしていると、学校に行く前にまた父親から呼ばれた。
「来たかレイリー。」
「はい。今日はどういった用事でしょうか?」
「明日からお前はダンジョン都市ドミナスに行ってもらう。」
「……え?」
あまりに突然のことで驚くレイリー。しかし無理もない。兄妹の誰もこの町から出たことがないにもかかわらず、自分だけ家から出て行けと言われたのだから。
「ど、どうしてですか?」
「別に追い出そうというわけではない。しかし、お前は私たちとは違う。それゆえ、訓練の方法も変えなければならないのだ。」
そんな言葉を聞いても信用できるはずがない。この家は何より力を重視することをレイリーも知っている。そして魔法を扱えない自分は家族の中で最も出来損ないだということも分かっている。レイリーの話を聞いた父親が、急遽妹が魔法が使用できるか確認して、彼女がしっかりと全属性使えたということも知っている。
それゆえ、レイリーにはもう分かっているのだ。もう自分は、捨てられるのだということが。
「……出発はいつですか?」
「うむ。出発は今日の夜だ。」
「そ、それは。……はい。わかりました。」
いつか出ていかされることは分かっていた。分かってはいたのだが、想像以上に出発が早すぎた。まだ誰にも、別れの挨拶をしていないというのに。
「訓練が終わったらすぐに帰ってくるのだから、そんな寂しそうにする必要はない。向こうのギルド長には私から手紙を書いておくしな。」
「ギルド長ですか?」
「ああ。向こうに着いたら一番に冒険者ギルドに行くといい。」
「……はい。」
「うむ。ではもう下がっていいぞ。」
レイリーは素直に扉から出ていき、玄関の前で待っていたレベッカと共に学校へ行く。
彼女の前では弱いところを見せたくなかったレイリーは、今聞いた話をすることもなく、顔に笑顔をはりつけて一見楽しそうに登校するのだった。
***
「お前たちに任務を与える。……『レイリーをドミナス付近の森の中に捨ててこい』。」
「「!」」
「おい!返事は⁉」
「「は、はい!」」
「よし、お前は出ていけ。お前はもう少し残れ。」
使用人二人のうち一人が部屋から退室する。
「お前にもう一つ任務を与える。……『ドミナスまでレイリーを送り届けようとしたが、途中で偶然盗賊に襲われ死んでしまったというシナリオを創り上げろ』。」
「そ、それは、本当によろしいのですか?」
「構わん。“ユニーク”が家から出たなんてことが知られることに比べたらましだ。」
「そ、そうですか。……。」
「おい、俺の命令に不服があるのか?」
「いえ、めっそうもないです。」
「ならさっさと準備しろ。出発は今日の午後、レイリーが学校が終わった時間だ。」
「承知しました。」
***
学校が終わって正門に向かうと、そこにはいつもいるレベッカではなく馬に乗った男性の使用人が二人いた。
「レイリー様。お迎えに参りました。このまま直接参りますのでどうぞ私の前にお乗りください。」
「……はい。」
レイスは2頭の馬のうち、呼びかけてくれた使用人の方の馬に乗る。
レイリーと使用人の一人を乗せた馬と、もう一人の使用人を乗せた馬の計2頭のみで、ドミナスまで最速で駆ける。
レイリーの死への旅が今始まった。
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