第6話 魔法の暴発

 全身の筋肉を強化させるイメージで天属性の魔法を使う。


 すると、徐々に体が軽くなってきて皆と同様、いやみんな以上に驚異的なパワーアップを見せる。


「すごい!これが身体能力強化か!」


 初めてできた身体能力強化に喜ぶレイリー。


 しかし、体に徐々に異変が出始め、始めに心臓の辺りが急激に痛くなった。そして次に体のいたるところが悲鳴を上げだす。


「痛あああああああい!!」


「どうしたレイリー!おい!一回その魔法を使うのをやめるんだ!止めるイメージをするだけだ!早くしろ!」


 先生に言われた通り魔法をキャンセルするレイリー。すると徐々に心臓の痛みは治まる。しかし全身の痛みはまだ残っており、指先一つ動かすことができない。


「うううぅ、あああああああああああああ!!」


「やばい!回復系統の魔法が使える先生方!レイリーが事故りました!助けてやってください!」


 ジョージ先生が周りの先生に助けを求めると、保健室の先生2人が即座にやってきてレイリーの治療を始める。


「ど、どうしたらこんなことになるのよ?」


 少しどもっているのは昔から変わらない彼女の癖。しかし彼女の癖を知らないジョージ先生はその発言を気に留める。


「何か問題があったのか!?」


「あ、い、いえ。そうじゃなくて。彼の全身の血管がボロボロになっていたんです。だから、どうしたらこんなことになるのかなって思っただけでして。すぐに回復します。」


 保健室の先生2人がかりでレイスを回復させる。


 しばらくするとレイスの身体から痛みは引いていき、目に見える傷も全て完治した。


 そのことを見届けたジョージ先生は、何か思い当たる節があったのか、レイスに対して質問をする。


「……もしかしてレイリー。お前天属性で身体能力強化をしたのか?」


「は、はい。海属性が一切使えなかったので、天属性で代わりになるかなと思って使ってみました。」


「馬鹿野郎!そんな危ねえことするんじゃねえ!」


「あ、危ないんですか?」


「そりゃそうに決まってるだろ!そもそも……」


「あ、あのー、ジョージ先生。」


 長い説明が始まりそうになったことを感じた彼女は、咄嗟に割って入る。


「なんだ!」


「と、とりあえず、次の指示を出していただかないと他の生徒が困ってしまいます!」


「ん?ああ、そうか。それならレイリーは罰としてそこで黙って座ってろ!……それじゃあ次、地属性の魔法使っていくぞ!」


 レイリーは魔法の時間中ずっと見学することになった。しかし、どうしても地属性の魔法が気になったレイリーはこっそり魔法を使ってみる。


 だが、地属性の魔法も発動することはなかった。




***

 今日最後の授業が終わり、帰宅する。帰宅するとすぐに父親に呼ばれたため父親の部屋まで直行する。


「父さん。レイリーです。」


「入れ。」


 扉の向こう側から入室の許可が下りたため部屋に入る。


「私に何か用事でしょうか?」


「今日学校の魔法の授業でやらかしたそうじゃないか。」


「え?」


 帰ってきてすぐ父親の書斎に来たのに、もうすでに授業の内容を父親に知られていることに驚く。


「それで、体は大丈夫なのか?」


「はい、それは、大丈夫です。」


「『それは』とはどういうことだ?」


 彼は息子が少し言いよどむ姿を見て訝しむ。


「あの、もしかしたら私、海属性と地属性の魔法が使えないかもしません。」


「……何?もしかして、やってみても何も発動しなかったのか?」


「……はい。」


 レイスの報告を受けて少し驚きながらも、若干怒気が含んだような声音でレイスに確認をする。


「では、そこの甕の中の水を浮かした後、床を少しでもいいから変形させてくれ。」


 レイリーは言われた通りのことをしようと、海属性の魔法と地属性の魔法を使ってみる。しかし、水も床も1ミリも動くことはなかった。


「……そうか。わかった。とりあえず確認したかったのはこれだけだ。もう下がれ。」


「……はい。」


 レイリーはいつもよりかなり不機嫌そうな父親の姿を見て、申し訳なくなりながら部屋を出ていく。



 部屋に残った彼はそばに置いてあった資料を薙ぎ払い、机を拳で破壊しながら今度は怒気を多分に含んだ声で独り言ちる。


「“ユニーク”がなぜ私の息子にっ!」


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