第5話 魔法の授業
レイリーが入学式が終わり家に帰ってくると、先に帰っていたソフィアは父親に呼ばれ【スクリク】のことについて事情聴取を受けていた。
レイリーが聞き耳を立てて分かったことは、ソフィアの【スクリク】のLv.1のスキルは、【流星光底】という名称で、効果は『鞘から武器を抜く前後1秒に限り、抜剣速度・威力と身体能力を強化される。ただし、このスキルを使用すると同時にMPの9割を削られ、削られた分に比例して強化される。』というものである。
おそらく、一瞬でもいいから格上相手に勝りたいというソフィアの願望が聞き届けられたのだろう。Lv.1のスキル故にデメリットがたくさんついてかなり使いどころを選ぶスキルとなったが、1秒間のみ強者に届きうる力を得るのはやはり人外の技といえるだろう。
ちなみに、ソフィアが気絶したのはMPが急に9割も減ったからである。MPは使えば使うほど、体の不調が増していく。3割を切るころに息が切れだし、2割を切ると体を安定させるのがやっととなり、1割を切ると40℃の熱が出た時のような症状になり、0になると死亡する。しかし、理論上は死ぬことなく無制限に打てるということである。やはり驚異的である。
レイリーは聞いた後にどうしても気になって、家の訓練場で自分に向けて【流星光底】を使ってみてもらったところ、始め!の合図とともに場外まで吹き飛ばされた。それと同時にソフィアはまた気絶した。兄妹そろって前回から何も学んでいないバカである。
バカではあるが、彼らの努力の量は異常である。学校が終わって家に帰ったら即座に訓練場へ赴き、ソフィアは【スクリク】を使用して気絶して臭すぎる液体をかいで復活してを繰り返し、レイリーは脇差しで居合の練習をしてその実用性を確かめ自分のものにしようとしている。
***
そんなことを繰り返すこと1カ月。レイリーは相変わらずクラスメイトとほとんど仲良くなっていないが、強さだけは相も変わらず成長を続けている。
そして今日ついに、レイリー含め1年生全員が心待ちにしていた魔法の実技授業が開催される。レイリーはこれでようやく兄弟と手札をそろえられることに喜び、他の生徒は入学式で見た魔法を自分も使えるようになることを夢見て興奮する。
キラキラした目で運動場に出てきた生徒たちを見て、担任のジョージはいささか不安になる。昔自分が同じくらいの年の時に大惨事を引き起こしたことを思い出したからかもしれない。
「おいお前ら!浮かれるのはいいが、先生の言うことはちゃんと聞けよ!」
「「「はーい!」」」(×7)
返事だけは一人前の計21人の生徒たち。今日は1,2組合同で授業を行う。始めて魔法を扱うということもあり、先生陣も普段よりはるかに多い。担任2人、保健室の先生2人、校長1人、教頭1人、魔法の扱いに長けた事務員5人の11人。生徒二人につき先生一人がつける計算だ。
「よし!じゃあ早速始めるぞ!とりあえず海属性の魔法を体験してみるぞ!全員胸のあたりに手を当てて深く深―く深呼吸しろ!」
生徒二人につき先生一人が付いているが、全員に指示するのはジョージ先生。そして彼が受け持っている生徒の一人がレイリーである。
「深呼吸したら次はイメージだ!心臓が速く動くようにイメージするんだ!ちょうどお前たちが全速力で走った後みたいな感じだ!」
全員言われた通りに、深呼吸で落ち着いた心臓辺りを上から抑えながら、運動後のバクバクした心臓を思い浮かべる。
「よし!全員イメージしたな!これが魔法だ!その辺りで軽くジャンプやダッシュしてみろ!自分が思っているより体が軽く感じるはずだ!」
実際に走ってみて本当に軽くなっていることを実感した生徒たちは喜びの声を上げる。
「よしよし!皆できたようだから次行くぞ!次は天属性だ!目の前に明かりを出すイメージだけをしてみろ!」
『天属性は気体操作とエネルギーの増強、地属性は固体操作とエネルギーの固定、海属性は液体操作とエネルギーの減衰』、これらはここ1カ月の間に授業で習ってきたことである。
といっても、7歳児がこのようなことをしっかり理解したうえで覚えているはずがない。それでも、イメージしやすい魔法は簡単に行使することができる。
しかし、レイリーには海属性の身体能力強化ができなかった。
(できない⁉何で⁉全然体が軽くならないじゃないか!何で俺だけできないんだ!)
焦るレイリー。家族全員できて自分だけできないとその分差がついてしまうと考え、必死に習得しようとする。だが、ろうそくの火は出せても身体能力強化はどうやってもできない。
(やばいやばいどうにかしなきゃ!……あ、そうだ。筋肉も固形だから天属性で代用できるのでは?)
レイリーの考えはある程度は正しい。実際多くの冒険者たちも、血流の操作による全体的な強化のための海属性のものと、筋肉の操作による部分的な強化のための天属性のものの2種類の身体能力強化を使い分けている。
そして一部の強い冒険者は、その二つを同時に扱う。だが、そんな人でも天属性の身体能力強化のみを全身に使うことはない。レイリーがやろうとしていることはこれだった。
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