第3話 入学式
入学式は厳かに始まった。つたないながらも頑張りが見られる魅力的な演奏と共に新入生が入場し、会場に並べてあった椅子に座る。椅子は土色一色で、綺麗な木材で作られている会場に全く似合っていなかったが、誰もそんなことは気にせずに座る。
壇上には両端に巨大な花が飾られており、クラウンを載せた金縁の赤い盾の中にライオンの絵が描かれたような紋章が国旗として飾られてある。国旗の前には机が一つあるだけで声を拡張するような道具は見当たらない。
そんな会場内を見渡しながらレイリーが思ったのは。
「家より質素だな。」
貴族が口にしたら嫌われる言葉ランキング上位のセリフだった。もちろんこの独り言を聞いている生徒は数名おり、レイリーを見てあからさまにいやそうな顔をする。
そんな気まずい状況の新入生側だったが、そんなことは関係なしと式は開催する。
誰も壇上に立っていないにもかかわらず、突然全員の耳に直接話しかけるように声が降ってきたのである。
「みなさん、ここアンク基礎学校にご入学おめでとうございます。ここでは3年間だけですが、たくさんの経験を通じて大きく成長できると思います。皆さんには、先生にはたくさん質問をして、お友達とは笑顔で楽しく遊び、家族とは学校であったことを嬉しそうに話す、そんな生徒になって頂きたいと思っています。早速今日からでもそんな生徒になれるよう、皆さんが経験したことのない面白い仕掛けをいくつかしてみました。
この直接耳に声を届けるような仕掛けは、風魔法を利用しています。そして、私は……この壇上にずっと立っておりました。今皆さんの目からは突然現れたように感じたかもしれませんが、これも風魔法です。私は風魔法を使ってずっと透明になっておりました。さらに面白いことをしましょう。
……パチッン!いかがでしょう。皆さんの座っている椅子が消えたのに、皆さんは何もない場所で空気椅子をしています。これも魔法です。土魔法で作っていた椅子を消して、すぐに風魔法で皆さんのために文字通り空気椅子を作りました。これが魔法です。
皆さんも日常で使っているところを見たことがあるかもしれませんが、皆が思っているより魔法は自由なのです。たくさんの経験をして皆さんだけの魔法を作ってみてはいかがでしょうか。これで私、校長のウイリアムからのお祝いの言葉とさせていただきます。」
期待を裏切らないくらい長く話した学園長だったが、新入生は誰も寝ておらず、むしろみんな目をキラキラさせている。
家庭でも火を使うときや暑いとき体を洗うときなどに魔法を使用することはある。だが、こんなにも自由に大規模に魔法を使用しているところを見たことがなかった。魔法は何でもできるのだと。私は、俺は、どんな魔法をつかってやろうか。そんなことを皆考え出す。
ほとんどすべての新入生が学園長の思惑通りに考えていることから、彼のスピーチ力のすごさがよくわかる。
「それでは、次に進みたいと思います。続いては在校生による魔法の使用を見ていただきます。皆さんもこれを目標に魔法の授業を頑張ってみてください。それでは、在校生の皆さんよろしくお願いします。」
校長先生がそう言うと、土でできた人形が初めに出てくる。
土でできた人形は、両端においてある大きな花瓶と真ん中の机を持ちあげ壇上から持ち去る。地味ではあったが、巨大な土人形が労働している様は迫力があり、特に男の子は目をキラキラさせていた。
次に出てきたのはアイドルのような服装をした3人組。3人ともが自分の周囲で水を自由自在に操り、ステージ上を幻想的に彩る。アイドルを夢見る少年少女は、綺麗な演技を見て私たちもこんなことをしたいと目を輝かす。
このような様々な魔法を使った見世物がしばらく続き、とうとう最後となった。
最後に出てきたのは一人の少女とレイリーを正門からここまで連れてきてくれた先生。二人とも木剣を持っており、これから何が起こるかは明白だった。魔法ありの模擬戦である。
初めに動いたのは少女の方。とても9歳とは思えない速度で距離を詰め、先生に木刀を上段から叩き込む。先生はもちろんそれを軽く受け止める。しばらくそのような剣戟が続いた後、またも少女の方から仕掛ける。
少女が使用したのは火魔法。重たい一撃を見舞った後少し距離を取り、先生がいたところに火球を連続で5球放り投げる。誰もが先生がまる焦げになる姿を幻視したが、そこにいたのは土魔法で作った土で体を覆った先生。ノーダメージである。
それから先生は、剣を下ろした。この土鎧に打ち込んで来いということだろう。その意図を読み取った少女は土の鎧に連撃を打ち込む。しかし、カンッカンッと木と土がぶつかって出る音でない音は出るも、傷一つ付けることができない。
先生は少女が疲労してきて動きが鈍ってきたところを見て、そろそろ決着を付けようと試みる。土でできた鎧から触手のように土を伸ばし、少女から剣をからめとろうとする。
少女は剣を叩きつけたり火球をぶつけたりして必死で逃げるが、10本に増えた触手に徐々に追い詰められていく。
ステージ端まで残り1メートル。先生はとどめを刺そうと10本同時に土の触手を少女に向ける。
……が、これでは終わらなかった。
本来であれば、事前の打ち合わせ通りであれば、これで終わりだった。
模擬戦ゆえにある程度やることはあらかじめ決められていたからである。初めに身体強化した体で剣戟を行い、次に火魔法の火力を見せつけ、土魔法の硬さを見せ、魔法の汎用性を生徒に見せる。そして、先生が生徒を圧倒しこれからもがんばれよ的な感じで握手をする。シナリオ上はこうだった。
シナリオ上は。
少女の名前はソフィア・ラビ・アンク。戦闘一家と呼ばれるアンク家に生まれ、幼いころから戦闘訓練を受け、日々兄弟と模擬戦を行い、彼らとの勝敗を気にする毎日。つまり、戦闘に関しては物凄く負けず嫌いに育ってしまったのである。
そんな彼女だから少し、いやかなり熱くなってしまった。どうしても先生に勝ちたい。なんとかして。なんとかしてこの触手を破り、先生に一撃でも浴びせたい。そんな気持ちが溢れてしまった。そして、そんな彼女の気持ちに何かが呼応する。
「【流星光底】」
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