第2章 アイリーンの街で冒険者になりたいな

4. アイリーンの街で

 ミネルから〝ペットテイマー〟のスキルについても教えてもらったし、あとは帰るだけ……なんだけど、ミネルからの提案でもう少しウルフを狩っていくことになった。

 倒すのは《魔の鉤爪》で頭をグシャってして終わりだし、解体は《ディスアセンブル》を使って一瞬で終わっちゃう。

 昨日まではウルフ1匹倒すのも苦労していたのに、今日は怪我ひとつすることもなくウルフを面白いように倒すことができて……この子たち、最高!


『さて、そろそろ帰らねばならぬのではないか?』


「あ、そうだね。日もかなり傾いてきたし、今日手に入れたお肉や毛皮、薬草も売りに行かなくっちゃ」


『街まで僕に乗っていく?』


「よろしくね、キントキ」


『うん!』


 キントキに乗れるサイズへとなってもらったら、今度は木の枝に頭をぶつけて落とされないようにしながら林の外まで移動。

 そこで《ストレージ》からウルフの肉や毛皮、薬草を私の背負い袋に詰め直して街まで再出発だよ。

 さすがに街中で《ストレージ》を使ったら大騒ぎになっちゃうから注意しないと。

 街道まで出て、道なりに走って……ってキントキ、馬を追い抜かしてる。

キントキってすごく速く走れるんだね。


 そんな感じで、馬車も馬も追い抜きながらアイリーンの街まで帰ってくると……街門の門衛さんたちが私のことをすごく驚いた顔で見ていたよ……。

 もっと離れた場所で降りて歩いてくるべきだったかなぁ?


「……お前、シズク……だよな?」


「はい、シズクです」


「……その……なんだ? 乗っている動物は?」


「シーズーのキントキです!」


「シーズー? 騎乗用の魔獣かモンスターか?」


「違いますよ?」


「じゃあ、なんだ?」


「あ、いま降りて本来の姿を見せますね」


 私はキントキから降りて、キントキにも普通のサイズになってもらった。

 それを見ていた門衛さんは……唖然としていたね。


「……小さくなれるのか?」


「私が乗るときだけ大きくなれるだけです」


「じゃあ、本来はこのサイズ?」


「はい。このサイズです」


「……お前、どこでこんな魔獣を?」


「私、ビーストテイマーやモンスターテイマーじゃないですよ?」


「そうなのか? でも、首にかかっているのは従属のネックレスだよな?」


 従属のネックレスとは従魔にした魔獣やモンスターの首にかけられる支配の証のこと。

 そういわれると確かに似てるけれど……ちょっと違うよね?

 なんなんだろう、これ?

 でも、とりあえず従属のネックレスで通しちゃおう。

 ややこしくなりそうだし。


「ちょっと違いますけど、契約の証なので似たようなものかもしれません」


「そうか。その肩に止まっている鳥の首にもかかっているが、同じか?」


「はい。同じです」


「ふむ。お前、『天職』はなんだったっけ?」


「〝ペットテイマー〟ですよ?」


「〝ペットテイマー〟……聞いたことがないな。でも従属のネックレスがかかっているっていうことはテイムした証だし、それって〝ペット〟なのか?」


「はい。私のテイム対象は小動物らしいので」


「〝ペット〟っていうのはお貴族様や豪商の連れ歩くものだと思っていたんだが……違ったのか」


「違ったみたいですね」


「……そうなると、困ったな」


「え?」


 一体、なにに困ったんだろう?

 困ることなんてなにかあったかな?


「いやな。テイマーがテイムした魔獣やモンスターを街に連れ込む場合、入街税を高く設定することになっているんだよ。特にお前のように冒険者へなっていない、身分証なしのテイマーは」


「えぇ……」


 困ったなぁ……。

 お金、あんまり持ってない……。

 毎日毎日がぎりぎりの生活なのに……。


「うーん……おい、どうするよ?」


「そんな小動物をテイムモンスター扱いするのも……なぁ?」


「衛兵長に聞いてみるか」


「そうしよう。シズク、すまないが少し待ってろ」


 門衛さんふたりで話し合った結果、私の待遇は衛兵長預かりになりました。

 そして、衛兵長さんがやってきて出た結論は……。


「……こんな小動物から入街税を取るわけにもいかんだろう」


「……衛兵長も同じ意見ですか」


「魔獣ならわかるが……私の《鑑定》スキルを持ってしても普通の動物としか出ないぞ? シズク、他人に危害を与えたらお前が責任を持って賠償しろよ」


「ありがとうございます! 衛兵長さん!!」


「お前の懐事情も把握しているからな。今日もミノス精肉店とウェイド毛皮店、メルカトリオ錬金術師店に顔を出すんだろう? 入街税を支払ったらさっさと行ってこい」


「ありがとうございます! これ、入街税です!」


 衛兵長さんに入街税を支払って私はアイリーンの街へ入っていった。

 この時間帯はわりと人が多いから気をつけて歩かないとね。

 キントキは小さくて踏み潰されそうだから、抱っこして歩かないと。


 そのまま中央通りへ向かい、まずはミノス精肉店へ。

 ミノス精肉店は……結構、混んでるなぁ。

 タウルさん、私の相手してくれるかな?


 ちょっと不安になりつつ、いつも通り裏口側に回って扉をノックしてみることに。

 すると、いつもの店員さんがやってきて、タウルさんを呼んできてもらえるらしい。

 私は先に解体場へ案内されたし、そこで大人しくタウルさんを待っているとすぐにやってきてくれた。


「よう、シズク嬢ちゃん。今日は遅かったな?」


「ごめんなさい、タウルさん。忙しいですよね?」


「忙しいのは肉を切り分ける係と客の相手をしているやつらだから気にするな。正直、肉の在庫も切れかかってきていて丁度よかった」


 タウルさんは、ここミノス精肉店の店長さんで大柄の筋肉質な男性獣人。

 熊の獣人らしいけれど、人間とのハーフだからあまり特徴がないんだよね。


「それで、今日のウルフ肉はどれくらいある?」


「はい。今日はこれだけです」


 私は背負い袋からウルフのお肉を取り出して台の上に並べた。

 それを見てタウルさんは驚いたみたい。


「シズク嬢ちゃん、今日はやたら多いがウルフを何匹倒してきた?」


「10匹ちょっとです。頼りになる仲間も増えたので」


「仲間? ……ああ、その肩に止まっている鳥と足元にいる……犬?」


「はい!」


「無理をしてないならいいし、今日の肉は綺麗に解体されてるからこちらとしてもありがたいが……シズク嬢ちゃん、無茶はしてないよな?」


「大丈夫ですよ。私の『天職』もようやく使い道がわかりましたし」


「『天職』……ああ、〝ペットテイマー〟か。小動物をテイムする『天職』だったのか?」


「どうやらそうみたいです」


「そっか。無理をしていないならいいんだ。毎年この時期になると、ある程度のステップワンダーが街にやってくるが、街に馴染めないのか別の街に渡ったのかわからないが突然いなくなる連中も多いんだ。シズク嬢ちゃんも無茶はするなよ?」


「はい。あ、お肉ですけど、少しだけ残してもらってもいいですか? この子たちのご飯にするので」


「おうよ。必要な量を教えてくれれば切り分けるぜ」


 タウルさんに頼んでお肉をちょっとだけ残してもらい、残りは全部買い取ってもらった。

 普段はウルフ5匹から7匹分程度のお肉しか持ち込めていないから、お金も一晩の宿代と朝夕の食事代がなんとか出るくらいだったけれど、今日はたくさんのお金がもらえたよ。

 これなら、夕食で少しくらい贅沢ができそう。


 さて、次は……。


「ごめんくださーい」


「おお、来ましたか。シズクさん」


「お待たせしました、ドネスさん」


 今度はウェイド毛皮店にやってきてウルフの毛皮を買い取ってもらうことにした。

 ドネスさんもいい人で、私みたいな身元保証のないステップワンダーからでも毛皮を買い取ってくれるんだ。


「さて、今日の毛皮はいかがでしょうかな?」


「はい。今日はこれです」


 私は背負い袋に入っていた毛皮を全部取り出してドネスさんに鑑定してもらうことにした。

 驚いているのはドネスさんだけどね。


「これはこれは……頭部がありませんが、それ以外は綺麗に解体された毛皮だ。しかし、毛皮そのものにも傷がない。シズクさんの武器はナイフでしょう? どうやって倒したのです?」


「それは……えへへ……」


「まあ、秘密にしたいのでしたら聞きますまい。当店としても、これほど上物の毛皮を入手できるのはありがたいことです。今の時期は需要が少ないですが、これから寒くなってくればウルフの毛皮を使った防寒具は一番手軽に手に入る一品ですからね」


「よかった。それで、全部買い取ってもらえますか?」


「もちろん。普段よりも高値をつけましょう」


「やった!」


 ドネスさんからも多めにお金をもらってウキウキ気分です!

 これなら、少し生活に余裕ができそう!

 あとは、メルカトリオ錬金術師店に行かなくちゃ。


「失礼します」


「あ、いらっしゃい、シズクちゃん。今日は遅いから心配してたんだよ?」


「遅くなりました。メイナさん」


 メイナさんは私と同じように、里から修行に出てアイリーンの街にやってきていたステップワンダー。

 ただ、『天職』が〝錬金術師〟でこのお店の店主さんを手伝っていたところ、店主さんからこのお店を託されたんだって。

 それで、最低でも修行期間はずっとここでお店を経営するらしいし、その間に適切な後継者が現れてくれなかったら里に帰らないでお店を続けるそうだよ。


「今日も薬草を採ってきてくれたの?」


「はい。ないと困りますよね?」


「うん。あった方が助かるわ。ポーションも傷薬も薬草がないと作れないもの」


「よかった。それじゃあ、いつもの枚数があるか確認してください」


「ええ、ちょっと待ってね……うん、枚数もいつも通り。いつもの場所、誰かに荒らされてない?」


「大丈夫ですよ。1時間くらい沢登りをしなくちゃたどり着けない場所にある薬草の群生地なんて誰も行きたがりませんから」


「じゃあ、もうしばらくは入荷も安定ね。ところで、シズクちゃんの抱えている子と肩に止まっている鳥はどうしたの?」


「私の……ペットです。『天職』の力がようやくわかりましたから」


「〝ペットテイマー〟の意味がようやくわかったのね。よかったわ。それじゃあ、冒険者登録もするの?」


「できればしたいです。入街税、安くなりますよね?」


「冒険者になれば身分証にもなるからね。でも、そうなっちゃうと薬草の仕入れもできなくなっちゃうかな」


「え? どうしてですか?」


「冒険者ギルドでは各種素材の買い取りもしているの。シズクちゃんがいつも相手にしているウルフのお肉や毛皮、私に売ってくれている薬草も買い取り対象よ」


 そうだったんだ……。

 私は便利な身分証くらいにしか考えていなかったけど、冒険者ギルドって買い取りもしているんだね……。


「そういうわけだから、冒険者になったら私のところに売りに来なくても大丈夫だからね? 私も冒険者ギルドとかから仕入れることができるし」


「でも、それって私から買うより高いですよね?」


「うーん……ちょっと高いかなぁ……」


「じゃあ、薬草はメイナさんのところに売りに来ます。あと、お肉や毛皮もいままでと同じお店に売りに行きたいです」


「それはありがたいけど……冒険者って定期的にクエスト、つまりお仕事を達成しないと資格を消されちゃうのよ。買い取り品の納品もお仕事のひとつとしてカウントされるから、無理をしなくてもいいからね?」


 そっか、冒険者って定期的にお仕事を達成しないといけないんだ。

 でも、私の手に入れたものはいままでよくしてくれた人たちに直接渡してあげたいなぁ……。


「とりあえず、この話は後で考えましょう。まだ、冒険者になれていないんだし」


「そうですね。冒険者になってからいろいろと聞いてみます」


「それがいいわ。はい、今日の薬草代」


「ありがとうございます、メイナさん。今日はこれで失礼しますね」


「ええ。明日も天気が悪くなかったらよろしくね」


 天気が悪かったら薬草採取はお休み。

 メイナさんとの間で決められた決まりごとなんだよね。

 私が沢登りをしていることはメイナさんも知っているし、雨の日は特別滑りやすくなるから薬草を採りに行っちゃ危ないって。

 いまならミネルの《静音飛行》もあるから安全なんだけど、詳しく話せないし仕方がないかな。


 そのあとは食堂に夕食を食べに行った。

 ただ、キントキをお店に連れ込むことを許可してもらえなかったから、ミネルに頼んで外で様子を見ていてもらうことに。

 私の夕食が終わったらミネルとキントキにもご飯をあげて、あとはいつもの宿に行くだけ……だったんだけど。


「え? この子たちと一緒じゃ宿に泊まれない?」


「悪いけど動物と一緒じゃねぇ……。シズクちゃんには悪いが余所に行っておくれ」


 ……私、いつもの宿を追い出されました。

 どうしよう、この時間から他の宿って空いているかな?

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