5. メルカトリオ錬金術師店での一夜

「……困った、宿、どこも取れなかった」


 はいどーも、宿なき子のシズクです……。


 ミネルとキントキを連れて普通の宿に泊まろうとすると「動物はお断り」といって追い出され、高いのを覚悟でテイマー専用の宿に向かうと「君はテイマーじゃないだろう?」といって追い出されてきました。

 日もどんどん沈んでいき、もうすぐ日没。

 このままじゃ、街中なのに野宿になっちゃう……。

 どうしよう……。


「あら? シズクちゃん? どうしたの、こんなところで」


「……メイナさん?」


「ええ。薬草の買い取りが終わったのに、私のお店前まで来るなんて珍しいわね?」


 あ、ここ、メルカトリオ錬金術師店……。

 知らない間にこんなところまで歩いてたんだ。


「……ひょっとして、訳あり?」


「……はい。いつもの宿から追い出されて、街中の一般宿からはすべてお断りされてきました」


「ああ、ミネルとキントキ」


「はい。動物と一緒だと泊められないと言われて……」


「テイマー向けの宿は?」


「テイマーじゃないだろうって言われて……」


「そんな小動物をテイムして歩くなんて普通いないわよね」


「はい……」


『酷いよね! 僕たちだってテイムされているのに!』


『人から見れば普通の動物と大差ないのじゃろう』


「キントキとミネルもなにか言ってるけれど……私じゃわからないかな?」


「そうですよね。私にはわかるんですけど」


「とりあえず、私のお店に入りなさい。そして、しばらくの間、泊まっていきなさい」


「えぇっ!? メルカトリオ錬金術師店にですか!?」


「そうよ。先代オーナーは子供もたくさんいたらしいから部屋は余っているの。部屋のお掃除だけしてもらえれば、すぐにでも使えるから泊まっていきなさいな」


「でも……そんなに甘えていいんですか?」


「ステップワンダー同士、気にしないの。私はお店の片付けもあるから少し遅れるけど奥で待ってて」


「あ、私も手伝います!」


「じゃあ、表の看板だけ片付けてもらえるかな? 私は店内のお片付けをするから」


「はい!」


 よかった、野宿にならなくてすんだ!

 でも、メルカトリオ錬金術師店ってそんなに広いのかな?

 お邪魔だったら今日だけ泊めてもらって、明日からはちゃんとした宿屋を探そう。


 そう思ってたんだけど……。


「ここがメルカトリオ錬金術師店の居住スペース……」


「ね? 広いでしょう?」


「驚きました。お店のスペースよりも広いですね」


「うん。私ひとりじゃ困っちゃうくらいの広さなの。だから、よければこの街にいる間だけでもしばらく泊まっていって?」


「じゃあ、お言葉に甘えます。でも、宿代とかは払いますね」


「そんなこと、気にしなくてもいいのに……」


「だめです。そこはけじめをつけないと」


「わかった。お夕食はもう済んでる?」


「はい。街の食堂で食べてきました」


「じゃあ、お夕食は必要ないね。お部屋に案内するから、先にお掃除をお願い」


「はい!」


 メイナさんに案内してもらったメルカトリオ錬金術師店の住居スペースだけど、本当に広かったなぁ。

 メイナさんが使っている部屋以外にも寝室が4つもあって、ひとつは先代オーナーさんの寝室でいまはメイナさんの寝室になっているらしい。


 私は一番狭い寝室を選ぼうとしたんだけど……メイナさんたっての希望によりメイナさんが昔使っていたというメイナさんの隣の寝室へ泊まることになったよ。

 正確には残りの寝室には家財道具がもう置いていないそうなんだ。

 私、床でも寝られるんだけどなぁ。


 ともかく、お掃除をしてお部屋を使える状態にしているとメイナさんもやってきて手伝ってくれた。

 ひとりじゃ大変だろうからって。

 メイナさんって本当に優しい。


「……そう、あなたの『天職』って小動物と契約する能力だったのね」


 メイナさんに私の『天職』、〝ペットテイマー〟について少しだけ話をすることにしました。

 ミネルの許可が出ている範囲だけでも話していいって。


「そうらしいです。他にもいろいろできますが、それは他人に喋るなってミネルが」


「賢いのね。その鳥さんは」


「シロフクロウっていうらしいですよ」


「そうなんだ。ミネル、私の方に来る?」


「……行かないそうです。自分の爪は鋭いから普通の人の肌に止まっちゃうと怪我をさせるって」


「あなたは頑丈なレザーアーマーを身につけているものね。でも、寝るときはどうするの?」


「……部屋の外の木に止まって寝るそうです。ただ、本来は夜行性ですし私との契約で数日なら眠らなくても平気になったらしいですが」


「でも、眠らなくちゃだめよ、ミネル。いざというときのためにね?」


「ホッホッホッホー」


「わかったって言ってます」


「それならよかった。ところでこっちの小さい犬の……キントキちゃんは私と積極的に遊んでいるけど平気?」


「……私以外の人で優しそうな人を見るのが初めてなんだそうです。だから遊んでほしいって」


「そっか。なにをして遊ぶ?」


「ワン!」


「本当は追いかけっこがいいけど部屋の中でできないから、なにか柔らかくてかじりついても問題ないものを投げてくれれば取ってくるそうですよ」


「軟らかくてかじりついても問題ないもの……これかな?」


 メイナさんが取り出してきたのは布を球状にした……軟らかそうなボール。

 一体なんなんだろう?


「昔、手慰み代わりに作った綿を詰めたボールなの。これなら軽いし問題ないでしょう?」


「キャンキャン!」


「早く投げてほしいそうです」


「行くわよ、えい!」


 メイナさんが投げたボールをキントキが追っかけていき、それを拾ってメイナさんのところに持ち帰ってきた。

 これ、もっと投げてって催促だよね。


「もっと投げてほしいの? もうちょっとだけだよ? もうすぐ寝る時間だからね」


「キャウン……」


「明日も遊んであげるから。行くわよ、えい!」


「ワンワン!」


 そのあとも寝る間際までメイナさんとキントキの遊びは続き、メイナさんが自分の部屋に戻るときはキントキも大満足していたようだったなぁ。

 綿のボールも私がもらっちゃったし、明日からは私が遊んであげないと。


 ともかくこの日はこれで就寝。

 ミネルは宣言通り窓から外に出て木の枝に止まって眠るようだし、キントキは私のベッドの下で眠ることにしたみたい。

 明日もいい一日でありますように。

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