3.〝ペットテイマー〟にできること
「ああ、やっぱりここからの眺めっていいなぁ」
薬草採取も無事終わったし、沢を降りるのも《静音飛行》で降りられるのですぐに終わっちゃう。
なので、私は少し崖の上から眺めを楽しむことにした。
この崖の上からならアイリーンの街もよく見えるからね。
アイリーンの街はちょっと田舎の方にある規模の少しだけ小さな街らしい。
ただ、私たちの里からは距離的にアイリーンの街かドラマリーンの街に行くかの二択なので、アイリーンの街にもステップワンダー仲間は結構住んでる。
……私はよくわからない『天職』とスキル持ちだったせいでのけ者扱いだったけどさ。
狩りではそれなりに役に立ってたのに、みんな酷いよね。
『さて、一息ついたところじゃ。お主の『天職』〝ペットテイマー〟について少し教えておこう』
「え? ミネル、ペットテイマーのことを知っているの?」
『儂の知り合いにペットテイマーの従者だった者がいる。その者からの伝聞になるがよいか?』
「うんうん! 私、自分の力がまったく理解できないから教えてほしい!」
『よかろう。まず、ペットテイマーとは〝小型の動物のみを対象とした〟テイマーを指す『天職』のことらしい』
「小型の動物?」
『儂のような鳥。キントキのような犬。そのほか、猫やウサギなどだな。馬はペットの範囲に入らないらしいぞ』
「馬はいいや。飼うのに結構お金がかかるって聞くし、街に入るときもお金を多く取られちゃうもの」
『キントキがいれば、そもそも騎乗可能な生物など必要もないか。ここで注意してもらいたいのは〝動物のみ〟が対象ということじゃ。ビーストテイマーやモンスターテイマーのように〝魔物〟はテイムできん』
魔物は無理かぁ。
ミネルもキントキも一目見ただけじゃ、すごさが伝わらないんだけどなぁ。
わかりやすく威嚇できるペット、ほしかったなぁ。
『話を続ける。ペットテイマーのできることは幅広い。契約したペットの能力を一時借りることによって様々なことができるからな』
「それって、ミネルから借りた《静音飛行》みたいなもの?」
『その通り。儂からは他に、《夜目》、《魔の鉤爪》、《超聴覚》を貸すことができる』
「《魔の鉤爪》はさっきウルフをグシャってしたあれだよね? 《夜目》と《超聴覚》は?」
『《夜目》はその名の通りくらい場所でも明るくものを見通せる能力じゃ。《超聴覚》は小さな音でも聞き逃さず、しっかり聞き取り、判別できる能力じゃな』
「そうなんだ。一時的に借りることのできるスキルって一度にひとつだけなの?」
『いや、一度に複数借りることができるはずじゃぞ。何個借りることができるかはペットテイマー本人の慣れと成長次第とも聞いたな』
「慣れと成長次第……頑張れば同時にたくさん使えるってこと?」
『そうなる。試しに儂の能力を全部借りてみろ』
よし、能力を4つとも借りてみよう。
まずは、《夜目》……おお、薄暗いところでもくっきり見える!
次は、《超聴覚》……うん、かすかな木の葉の音も聞き取れるようになった。
3つ目、《魔の鉤爪》、これもバッチリ!
なにもないところで発生させてみたけれど、しっかり鉤爪が出てきた!
最後は《静音飛行》……あれ?
「ミネル先生。《静音飛行》ができません」
『なるほど。他の能力は同時に使えているようじゃし、いまのお主は同時使用限界数が3つということじゃな』
「3つか……残念」
『使いどころとスキル選択を誤るな。特に《魔の鉤爪》は攻撃用、《静音飛行》は移動用じゃ。使いどころを見誤ればそれだけで命を落とすぞ』
「い、いやだなぁ……そんなに脅さないでよ……」
『事実じゃ』
「……はい」
怖いけれど、いままでよりできることは増えたんだよね。
慢心しないで少しずつ鍛えていこう。
『さて、儂から貸せるスキルは説明したな。次、キントキから貸せるスキルを説明してやれ』
『うん! 僕が貸せるスキルは、《ディスアセンブル》、《ストレージ》、《土魔法》の3つだよ!』
「え! 解体魔法や空間収納魔法も私が使えるの!?」
『そうだよ! 《ストレージ》の収納空間は僕と共有だから、どちらがしまったものでも好きに取り出せるからね!』
「うわぁ、便利! それに、《土魔法》っていうのもすごいよ! 私、魔法なんて使ったことがないから!」
『僕、役立てる!』
キントキ、ちっちゃいけれどとっても優秀だった!
私が乗れるくらい大きくもなれるし、本当に優秀な子!
『さて、スキルを貸すことについての説明は終わったな。次、ペットテイマーの持つスキルそのものについての説明じゃ』
「はい!」
『ペットテイマーのスキルにおいて一番重要なスキルは《ペット用ご飯作り》になる』
うん?
ご飯を作ることが大切なこと?
お腹が空いたらかわいそうだし、ちゃんとお食事は食べさせるけれど……そんなに大事なの?
『《ペット用ご飯作り》のスキルによって作られた食事を契約したペットが食べると、食べたペットの能力が上昇する。わかりやすくいえば、食事をきちんと食べさせればそれだけでペットは強くなっていくのじゃ』
なにそれ、すっごい!
他のテイマーはいろいろ学習させなくちゃいけないのに、ペットテイマーは食事を与えるだけだなんて!
『ただし、契約直後のペットはあくまで小動物。強くなるまでは、お主が守ってやらねばすぐに死ぬからな』
「わかった! 契約したら誰も死なせない!」
『そのくらいの意気込みがあればいい。そしてこのスキルじゃが、ペットの好みに応じた食材をもとにして食事も作らなければいけない』
「つまり、お肉が好きな子はお肉を材料に、お野菜が好きな子はお野菜を材料に、ってこと?」
『その通りだ。試しに儂とキントキの食事を作ってみよ。儂らはともに肉が好み。《ストレージ》から先ほどの肉を少量とりだし、スキルを使って〝ペット用ご飯〟を作るのじゃ』
「うん、わかった。でも、具体的にどうすればいいの?」
『食べさせたい相手をイメージしながらスキルを発動すれば勝手に適した〝ペット用ご飯〟になる。ほれ、試してみよ』
「はーい」
私は早速ウルフ肉を取り出して《ペット用ご飯作り》を発動してみた。
ええと、ミネルが食べたそうなものとキントキが食べたそうなものをイメージしてあげればいいんだよね。
……よし、イメージ完了、スキル発動!
すると、ウルフ肉がピカッと光って一部がなくなった。
これで〝ペット用ご飯〟は完成かな?
……あれ?
できたのは、小さな肉の端切れと小さく切り分けられた肉の塊?
これでいいの?
『できたようじゃな。早速食べさせてもらうぞ』
『いただきまーす!』
「う、うん。どうぞ、召し上がれ」
完成したご飯……肉の端切れはミネルが、肉の塊はキントキが食べ始めた。
食べ始めたけど……それで合っているの?
普通にウルフ肉を切り分けた方がよかったんじゃないかなぁ?
『ふむ。ごちそうさまじゃ』
『美味しかったー』
「どういたしまして。……でも、本当にそれでよかったの? ウルフ肉を切り分けた方がたくさん食べることができたよ?」
『ああ、これでいいんじゃよ。契約ペットにとっては量など大した問題ではない。〝契約主が作ったペット用ご飯〟ということが重要なのじゃ』
『うん! とっても美味しいお肉だった! 見た目よりもお腹もいっぱいになったし!』
「そ、そう? ならいいんだけど……」
『〝ペット用ご飯〟の効果で儂らの力もわずかながら強まった。目に見えて効果が出るには一週間くらいかかるかのぅ?』
「それくらいなら待つけれど……本当にお腹が空かない?」
『〝ペット用ご飯〟とはそういうものじゃ。最悪、一日一食でも飢えはしない。ただ、鍛える目的であれば一日三食ほしい。連続で食べても効果がないので時間を空けて三食じゃな』
「うーん、減ったお肉の量から考えても納得できないけれど……そういうものだって割りきるしかないか」
『そういうものだと割り切れ。次、《ペット語理解》と《ペット主従契約》の説明はほしいか?』
「ううん、いらない。《ペット語理解》はこうやって話せること。《ペット主従契約》はテイムのことだよね?」
『その認識で正しい。ただ、《ペット語理解》だけは補足説明じゃ。お主から儂ら契約ペットに話しかけたい場合、心の中で念じるだけで構わん。それだけで意思疎通ができる』
「本当?」
『街中で儂らへ普通に話しかけても変な目で見られるだけじゃぞ?』
うっ、それもそうかも。
ビーストテイマーやモンスターテイマーが話しかけるときは命令だし、こんな小動物を連れ歩いて話しかけていたらかわいそうな子扱いされそう。
街中では気をつけないと……。
『このふたつは理解できたな。最後、《ペット強化》じゃ。これもそのままの意味じゃが、お主が契約ペットに魔力を流し込むことであらゆる能力を強くすることができる。お主自身の魔力切れには注意してもらわねばならないが、便利なスキルじゃぞ。ああ、あと、契約さえしていれば魔力を送り込んでいない状態でも契約前よりパワーアップしている。儂らのような小動物にとって〝ペットテイマー〟との契約は生存率を上げる選択肢でもあるな』
へー、そうだったんだ。
深いところまでは考えていなかった。
お互いお得なところがあるんだね。
ミネルもキントキも頼りになるし、探せばもっと契約してくれる小動物っているのかな?
そっちも楽しみになってきた!
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