第33話 逃げるといこう
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金属音が聞こえるくらいに近づいてくると、気づいたソフィアは走り出し、いったん距離を取ってこちらを見た。
「させるか!」
しかし少年がナイフを放り投げ、着弾点から魔法で線を張り封鎖。ソフィアを進めなくしてそこにとどめ、また切り結ばせる。はじける光と飛ぶ残響。
また進もうとしてもさせられぬ、殴打と反駁の連続が満ちる。
「ちょっとG、かけるよ!」
それとほぼ同時に、こちらへと何かが飛んできているのが篝の目に映り、身体をかすめて飛んで消える。わずかに熱く、あの少年が片手間で放ったのだとわかる。回避したと思われたが、それから超自然の青白い板が連続して放出され、まるでミサイルめいて篝とアーティアを追いかける。
それを加速して抜けて、アーティアはソフィアの元へと、急いで急いで飛んでいく。
弾幕、弾幕、弾幕。
光の波を抜けて顔のつくりが確認できるくらいに近づいたならば、ソフィアの声が強く響いて、二人は顔を合わせて手を伸ばす。飛び乗れと、互いに意思が通じ合う。
交差軌道に入り、ソフィアが20メートルほどのジャンプ。いつの間にか手にしていた複数のナイフを少年に放り投げて、彼女はワイヤーを手から伸ばし、アーティアに巻きつけ、引っ張って跳躍し、着地。
「いいタイミングでやってきたわね。ならさっさと逃げるといこうかしら」
そして魔法を少年に放ちつつ、準備は終わっているのよねとアーティアに問いかけた。
「聞こえているし、させると思うか?」
当然、少年はローゼンと同じ銃を取り出して撃つ。先の魔法のとは速度が違う。追尾をされたら、よけきれそうにない。
しばらく飛ぶことは出来たけれど、ふいにガンと空がずれ、ソフィアは友への被弾を理解。
「ネグラール、あと何発持ちそう?」
自分が受けないとまずいなと壁を張って聞くと、
「らんすうで22。そうじゃないならしらないよ」
と、血めいたマットな液を出す彼はゆっくり降下しながら答えるのだった。
「良いでしょう————次で全て決めるわ。持つわね?」
そもそもの目的は自分の排除だからとソフィアは立って射線をずらそうとしてみるものの、先に
「力は私が、制御はあなたが」
「まかせたよ」
そして力をこめて敵を眺め、軽く熱を入れて示す————続いて黒くねばつく煙をあたりに吐き出し、どこに撃てばよいかを塗りつぶすのだ。追い切れず少年はスコープを取り出す。魔術的の光が科学のレーザーを放ち、煙幕を貫いてソフィアの髪を焼く。
「……さすがに早い!」
クルリと頭を反らし、ソフィアはさらに、両手で魔法の円を開いた。もう一度射撃が届き、今度は彼女の首をかすめる。おそらく400メートルは遠くにあるはずなのに、間髪を入れず狙撃がやってくる。
一発、二発、三発、四発。どれも直撃コースだが、煙もあってわずかに当たらない。しかし突き抜けるわけでもない。
とどまりポインターとなり、どこへ行けばいいかを少年に示す。
当然中央は一つだ。とどめの一発を、完全に当てられるようになった彼は、決め打ちの弾丸を装填し構える。
「来るわね!」
ソフィアが間に合わないかなと叫ぶ。
「!」
完全に直撃と篝が気づく。弾丸の軌跡が、一瞬だけ先に走り抜ける。
だが、それでも着弾をすることはなかった。
翠の平滑なる曲面が、ロータスめいて重なり合い、三人を守るのに間に合ったからだ。一枚一枚はばらついた円。隙間はあれど穴ではなく、よって続くものも抜けはしない。発したのはアーティアで、整えるのはソフィア。
強靭な壁ゆえに反動も厳しかったらしく、彼女は右腕だけを出して傷口に当て、シュワシュワ封鎖していた。当然それは、アーティアも。
「おなじてをくうかい…………さあいっておいで!」
しかし彼はそれを逆用。落ちていく液体を硬質なテクスチャにして、クリスタルの鳥となって少年へ襲い掛からせるのだった。ソフィアはそれに熱を放って、スレイヴにして強化。撃ち落とそうとの試みを無にさせる。
着弾したそれは、見た目のように固まって動けなくなる。
百八十度方向を変えて、アーティアは両足に光を貯め、放出した。ソフィアはそれにつかまり、まるでクモのように姿を消す。
これで完全に逃げ切れる。機械たちは落ち着きようやっと、固まった息を吐いて砕ける。
「……クソ!」少年はそれが溶けるまで、見ているしかない。
銃の射程を超えてしまったのなら、ただ見ているしかすることはない。
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