第27話 何もかも嫌いだった

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「私には不満足だって言ったのに」


ソフィアがつぶやく。篝の反論はなく、目が逸れる。

自明の理と内心では固まっているはずなのに、やはりどうしてか返すことはできなかった。そんな自分が死んでしまったかのようだった。だから近づけられる顔に彼女は、何も返せない。


「本当に『あなた』は、ここで終わりたいの?」


そろそろ向き合わなければならないとは考えていたけれど、ずっと彼女はそれについては、置いておかせてくれと願っていた。

そういうのは違う自分なんだと、受け入れたくなかった。それを考えるのは、ここにある自分だとは思いたくなかったのだ。



「…………私は、終わっていいと思ってる」



だから少女は、黒く黒く返事する。

多分嘘なんだろうけれど、篝の中では真実だ。真実であってほしい。真実でなければ困る。彼女は苦い顔をする。



「この世にあることは、何もかも嫌いだった。食べること、体が動くこと、呼吸すること、知を得ること。本当に全てが痛くて、これ以上何もほしくない」



その言葉はどこか、自分で決めたんだからと何かに言わされているようでもあった。押し込められた学習塾、ろくでもないエネルギーバー、重圧ばかりの空気。確かに自分で感じてきた物事のはずなのに、どれも実感がない。

ずっと苦しんだこと、ずっとそれしか選べなかったこと。でもその中でもちゃんと喜びもあったはずなんだ。だから、私なんだ。


私が選んだのだから、私に違いがないはずなんだ。


「私には何がいいことなのかも分からないし、何が良かったことなのかも知らない。教えられたことしか頭には入ってない。そんななのに、感じることはマイナスばかり…………!」


発するものはどれも切実に、驚くほどに熱的に満ちているように自分では思うのに、同時に理性部分は冷静に否定を出す。

私の中には、私ではない私が存在している。そのことは確実にわかっているのだ。わかっていないとおかしいのだ。本当に単純なことなのに、それすら私は見たくはないのだ。埋めこまれて従って、何も感ずることなく平穏にありたいのだ。


篝は無理をして、つれられる先に何があろうともよかったと語る。語らなければ、自分でない気がしてしようがないと涙しかける。泣いてはいけないんだと、自分を無理に戒める。


「だから、私は死にたいって、決めたんだって…………!」


けれど、それからしばらく整理がつかないままに言葉を吐き出し続けたならば、目に液体があるのだ。

ぐだぐだとあるまま表現し続けたのが、何ぞを矛盾して破壊したからだろうか。


何がぶち壊れたのだろうか。

今の自分が消え去るような破壊があったなら、うれしいのに。



「だから、私は、私は…………!」



無理な発露が、少女の取り繕っていたひとまずの強気を、どこかへ流して消し飛ばしてしまう。




気が付けばソフィアは説明する気を無くして、ガラス細工をどこかにやっていた。代わりにレースのハンカチを渡して、彼女は篝を引っ張り、どこかへと連れていこうとする。

周りを見ることもできない少女を、導いてくれようとする。


やめて。


けれど何かにひびの入った人間は、しゃがみこんで抗う。

どこかに連れて行ってくれる者のことを、ありがたいとはわかっているのに、それでも嫌だと抗ってしまう。うれしいことを、いらないと投げ出してしまう。



私はどこにいるのよ。あの確実な悪意の私は。



ソフィアは少女を抱き上げて、揺らさぬように歩き出した。そうすれば抵抗することも、拒絶することもしなくてよくなった。

そうしてくれることが、今は一番うれしくて、余計なお世話だった————いくらかの時間ののちに、それはやさしく解消された。



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