第24話 しばらくは君の味方
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髪がいくらかエミッシブの赤みを持ち、小さく固めた粒が熱い。追いつ抜かれつを繰り返して、三人とローゼンは生と死をかけたレースをしている。いやな予感がして、篝は制止を試みる。
通ってきた道はとうに見えなくなり、ボロボロの街をモンテカルロめいて四人が走り抜ける。かつては大型の店だったらしきところを越えて、ソフィアがまた魔法を組みなおす。
「まさか。少し休んでもらうだけよ……ウィズ!」
自力でウィズは飛行できるので、色々あったのから避けるために遠くにいてもらった少年に、彼女はワイヤーで伝達した。それから粒子を放出して再加速、次の曲がり角を左に抜けようとする。
「だからぁ!逃すと!」
やらせるかとローゼンが再度近くにワープさせようとするが、それをウィズが逆用。開いたポータルに何かを投げ込んで、男の手の元に転移し破裂させた————無差別に入って出す仕組みになっているなら、こっちの攻撃だって通るだろう。
それが彼の腕を氷漬けにしたので、無理やりに転移ゲートが閉じられた。飛行機械の操作にも影響が出たのか、バランスを崩して大地に擦れかかるけれど、それでもあきらめずに彼は銃を抜き、射撃してくる。
仕方ないので防壁を張るが、やはりまた抜かれてしまう。
「これで、ゲートだけは開かれなくなった————」
けれど状況は好転したとみて、ソフィアは瓦礫の山を抜けて川沿いに出て篝に話す。
「ここからしばらくまっすぐね。やってきたときを覚えているでしょう?あれを私の屋敷に来た時の再現にしていたのだから、戻るには当然その時来た道を再現しなくてはいけない」
「なら、あの時みたいに飛び去るしかない?」
存外今回は呑み込みが早い。それだったら何が必要かわかるでしょうと、彼女は後ろで知らないものをもって追いかけてくる人間を見る。
「そう、だけど————」
「あの人が今回は追いかけてきている。だから、世界樹へ戻れない」
ペダルが二度踏み込まれ、車輪モードに切り替わる。ウィズを引っ張り寄せて、ソフィアが耳打ちをしてから篝に答える。ローゼンの氷から雫が落ち始めているのが、彼女らの目に映る。
「ならあの人をどうにかすれば、ってこと?」
「あと、それもあるんだけど」
ガチリ、ガチリ。
モードを切り替え、90度ほど横を向く。それと同時に、ウィズが飛び出す。
「悪いけれど、彼のことは頼んだわ!」
ソフィアはウィズを巻き込んで線を吐き出し、彼そのものを重りとしてローゼンへと絡みつかせた————すると急激に巻き付いていき、先端の少年へ末端が噛みつくと、切る以外では抜け出せない輪となった。
「いいけど、次の出番にはまとめて出してよね!」
そのままウィズも魔法をかけて、空気の壁で減速させる。一気に姿が遠ざかっていく彼に光の伝書鳩を放って、地平に消えていくのを眺めて少年は息を吐く。
「だいじょうぶ!あなたの出番はまだあるから!」
そしてそれを聞くと同時に、彼の眼からは二人が見えなくなった。
少女の声を聞いて安心して、ウィズはつかんだ男へ肩をすくめて見せる。
「というわけだ。またしばらくは君の味方らしい」
よかったね、と続けて笑うと、ローゼンはいつもこうなんだよなぁ、と固められた身体をギシギシ。もちろんそれはウィズにも離せるわけがない、だってローストにできそうなほどにしっかりとしたぐるぐる巻きなのだから。
「……だったらさっさと溶かしてくれよ」
このままだと飯も食えないで死んでしまうぞと、安息に着陸して彼は地に転がった。
「それはできないよローズ。君以上に今の僕は、カガリの味方。それに…………」
下にならないようにしてくれたのを感謝しつつ、少年は彼から目を背ける。
「それに?」
ちょっと嫌な予感がしたのを、彼は聞かなければいけない気がした。
「これ、僕にも解けない」
「ああ?!」
「いや、ね、ほら。これソフィアでも切れないっぽくて。だから……………ほら、そこ動かして」
「おい!お前どこ触ってんだよ!ってそっちは!高いんだぞ!」
「しょうがないじゃないか!それ以外方法がないんだから!」
「つーかそれ逆だろ!おい!ちょい待て!折れる!折れるから!」
というわけで彼らは進むこともなく、戻ることもなく。ただそこで佇んでいた。
解き終えるまでには、きっと日が暮れていただろう。
時間を稼げればよかったから、二人にとっては良いのだけれど。
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