第2話 繋がり

「た、大変な事……?」


しかもこの町に?

俺と何の関係があって?

一体どう言う話の流れなのか?

全くついていけない!


きっとこの子は何か神聖なものだろうとは思うのだが、果たしてどこまで信じて良いのか?


そもそもこれ、脅されてるよね…。

よく分からない神聖な力でこの町破壊してやるぞとか?!怖い怖い!


つい数秒前までのデレデレしていた俺は何処へやら。今度は顔面蒼白になって後退りする俺をみた少女は、既に少し下がっている瞼をさらに下げて、ジト…………っとした目でこちらを見た。


「カナデ、信じてない。」

「そりゃ……なかなか信じられないでしょ。脅しっぽいし。」

「また光ればいい?信じる?」

「いや、光るのはもう勘弁!もう君が神様(仮)?ぽいのは分かってますので!」

「むっ。(仮)とかハテナとか付いてる。」

「いやいや、神様!神様!!ね?」


それでもジト目は終わらない。


「どうしたら信じる?」

「と言われても……。もう少し情報が欲しいところではあるかな。訳が分からないことばっかりで。」

「情報……。」

「まず、君が神様なのは、まぁとりあえず信じることにして。」

「とりあえず……?」

「何で俺が君から離れるとこの町に良くないことが起きるわけ?良くないことって具体的には何が起こるってこと?」


彼女のジト目は華麗にスルーすることしにて、詳しい説明を促した。

どうやら彼女は口下手なのか、こう言う状況説明が苦手らしい。

悩まし気に眉を寄せていた彼女は、長くなるから座って、と、近くのベンチを勧めてくれた。


のはいいのだが、なぜか彼女は俺の隣にピッタリとくっついて座った。それどころか、くっついた側の腕に、彼女がぎゅっと抱きついている。


近い近い近すぎるわ!!


さすがに腕からは引き剥がした。


「むぅ…。」

不満気に頬が膨れているが、それは見なかったことにする。


「わたしは、この土地、この町を大切に想うヒトの気持ちから生まれた神さま。

だから、その想いの強さによって、わたしの力も左右される。


最近は昔ほど、皆んなの想いは強くなくて、少しずつ力が弱くなっていっていくのを感じてた。

でもそんな時、カナデがここによく来てくれるようになった。


カナデは特別だった。

カナデがここに来て、わたしに何か話しかけてくれるだけで力が少しずつ戻ってきた。カナデは知らなかっただろうけど、ずっとわたしを助けてくれてた。

……わたしはカナデのお願いを叶える事は出来なかったけど……。」


ごめんなさい。と呟くように聞こえたその言葉を聞いて、俺は確信した。


そうか、俺は昔から彼女に会いにここに来ていたのか。


キラキラと光に満ちて美しいこの場所。

不思議と心落ち着いて、なんでも許される気がして、叶わないと知りながら、いつもお願い事をしていた。


それを神様と呼ぶのなら、きっとそうなんだろう。


「叶うなんて思ってなかったから。気にしないで。」


まさか神様を慰める時がくるとは、と思ったら笑えてきた。

その笑いをどう受け取ったのか、少し顔を赤くした彼女は余計にくっついてきてまた話し始めた。


「カナデがこの町を出ることが決まって、今日ここにお別れを言いにきたよね。


今までは、“カナデがわたしを想う気持ち“から力を得て、なんとか力を保っていたけれど、カナデが遠い所に行ってしまったら、わたしの力は元に戻ってしまう。


ううん、前よりもっと弱くなっちゃう。」


「どうして弱くなるんだ?町のみんなの想いがあれば……。」


「………カナデを、好きになったから。」


「えっ?」


「本来、神さまはヒトから想われ、ヒトは集団として神さまから想われる。それが神さまとヒトとの繋がり。


だけど、わたしがカナデを好きになってしまったことで、カナデという個人と、わたしという神さまに、繋がりができてしまった。

……カナデがわたしを想う気持ちと、わたしがカナデを想う気持ちの繋がりが。


だから、もうわたしには、集団としての町の皆んなからの想いは届かなくなってしまった。もうカナデの想いからしか力を得ることができない。


だけど、カナデが町から出てしまったら、わたしを想う気持ちは薄れゆき、いずれは届かなくなる。」


そうか。確かにそうかもしれない。この町を離れたら、きっとこの場所のことも思い出す事は少なくなるだろう。


「なるほど。つまり、俺と君の間にその繋がりってのができてしまったせいで、俺がこの土地を離れると、君が弱ってしまうと。」


「……そう。本当はあり得ない。本来あるべき、神さまと人々との繋がりが、神さまとたった1人のヒト…カナデとの繋がりに変わってしまった。」


これは……。

神様に見染められるって、きっと多分光栄な事なのだろうが、なんか恐ろしさも感じるぞ。


逃れられない感が半端なくないか?


悶々としていると、彼女はさらに畳み掛けてくる。


「ここから、やっとカナデの疑問に答えられるよ。


わたしの役目は、この町を護ること。

わたしの力が強ければ強いほど、人々の悪い想いの暴走を抑えられる。悪い想い……カナデは視えるよね?


アレはそれだけだと力を持たないただの“悪い気”だけど、わたしの力が弱くなれば、“悪い気“から“有象無象の邪神“に変わってしまう。


邪神が暴走すると、どうなるか、わたしにもハッキリとは分からない。

この町で今までそんなことはなかったから……。


でも、この町の人々が傷ついたり、悲しんだり、困ったりする事になるのは確かなの。

そんなこと許されない。」


だから…と、彼女は続けた。


「カナデは、わたしの近くにいないとダメ。」


「え、まって。

俺、すっごく、荷が重くないか?


俺がこの地を離れたら、君が弱ってしまうから邪神が暴走してこの町に良くないことが起きるって?」


「うん。」


「……俺、やっとの思いで第一志望の大学に合格したんだけど?!」


「うん。知ってる。」


「俺、高校までそんなパッとしない方だったし、彼女もできなかったし…。大学では高校の知り合いもいないし、気持ち新たにやってく気満々で…。」


「……大学デビューして、可愛い彼女作って、キャンパスライフ満喫する予定なのも知ってる。」


「えっ……何でそんなこと知って……。はずっ!!」


「絶対、そんなことさせない!!」


そう言ってまた腕に抱きついてきた彼女を見ると、俺を町から出したくない本当の理由ってこっちか?!と疑いたくなる。


「そもそも、今月中に引っ越す予定で……あ。大学近くの部屋借りるから、早いとこ目星つけとけって父さんに言われてたんだった。週末は部屋探しに行かないと。」


「……。」


「何とかならない?ほら、こんな訳でもうこの町から出る事は決定事項な訳だし……。

何か他にいい方法が……。」


「ない。」


「いやいや、そこをなんとか!」


「ないもん!!」


力強い語気の割には声が震えていたので様子を伺うと、なんと大きな瞳いっぱいに涙が溜まっていた。


そそそそんな泣くほどか?!

てか神様ってこんな簡単に泣いていいの?!


「わ、わかったよ。とりあえず引っ越すまでには後少し時間ある訳だし、何か方法がないか考えよう。」


ぐすっと鼻を啜る音をさせた後、彼女は小さくコクンと頷いた。


あ、そういえば。


「ずっと聞くタイミングがなくて聞けなかったけど、名前は?

神様にヒトみたいな名前が付いてるかは知らないんだけどさ。


なんて呼べばいい?」


「……ヒメ。」


「ヒメか。」


神様だからずいぶん大層な名前かと思ってしまっていたが、ずいぶん可愛らしい名前だ。


俺が意外そうに呟いた名前を聞いて、ヒメはぱっと顔を上げて、それはもう本当に嬉しそうに笑った。


「うん!カナデ、大好き。」


嘘みたいに整ったヒメの笑顔を向けられ、

さらに大好きと言われ、心臓は高鳴る。



とんでもないヤツに好かれてしまったという……若干の恐怖で。



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