第16話 やっぱり女の子たちの話がいい①

 セイターンの街、中央街――


 先日、魔王軍が攻め込んできたこの場所は、勇者フィーバーに連日お祭り騒ぎだった。

 しかし、その祭りも漸く佳境。お開きムードが漂っていたのだが……


〖祝! お姫様救出記念! 祝! 勇者御一行様! 祝! 歓迎会! 祝!〗


 という横断幕が、そこらかしこに掲げられ、どうやらお祭り騒ぎはもう暫く続くよう。っていうか、祝! 多すぎるだろ。


 相変わらずのフットワークの軽さを見せる住人たちは、祭りの続行にテンションが爆上がり。人目も憚らず、そこら中で盛りまくっていた。


 そんな騒ぐ理由としかとらえていない淫靡な連中を前に、両手で顔を隠すは三人の少女……レッド、エミリア、そして件のお姫様であるハルフリーダ王女だった。


 少女たちは耳まで真っ赤にし、『滑遁会なめとんかい』の扉に仲良く頭をぶつけては、そそくさと中へ入っていく。


 中には基本的に男客しかいない為か、若干騒がしいとはいえ、外に比べれば穏やかなものだった。まあ、ここでも盛り合ってたら地獄絵図どころの話ではないからな。


 レッドこと明芽あやめたちは空いている円卓へと腰を据える。

 まずは三人とも顔を手でパタパタ仰ぎ、火照った体のクールダウンを図るようだ。


「ふ、ふん! 相変わらずな連中ねっ! もう少し慎みってものを……ごにょごにょ」


 ドギマギという言葉がお似合いなのは、ぺったんこ界の姫であるエミリア。

 今まで友達が居なかったせいか、外の連中の距離感の近さに、動揺を隠せずにいるようだ。


「あはは……ほんとみんなアグレッシブだよね~。お姫様もいきなりでビックリしましたよね?」


 こんな時でも悪口を漏らさないのは、大天使界の大天使である大天使の明芽。

 お姫様を気遣う大天使っぷりに、男たちは私も含め大天使だった。


「はい……少々驚きましたが、賑やかで非常に良い街かと思います。わたくしの国とは正反対ですね」


 お淑やかで慎ましい佇まいは、まさしくお姫様なハルフリーダ。

 フードを外したお姿は美しいの一言に尽き、綺麗に結われたブロンドの髪と碧い瞳が、新たなるヒロインの可能性を照らし出す。光さす道t――


「お姫様の国か……。そう言えば、お姫様はどうしてこの街に? 悪い人たちに追いかけられてるって話は聞きましたけど」

「はい。実はわたくし……その……お友達が欲しくって……」

「友達……?」


 明芽が小首を傾げる中、エミリアもそのワードに聞き耳を立てる。


「お父様とお母様に愛されたわたくしは、過保護に育てられたがゆえに、お部屋で過ごすことが多かったのです。もちろん感謝はしているのですが、中々お友達を作る機会には恵まれなくて……。いつも一人、白鳥星雲のロゴがイカすゲームで遊んでいました」

「それはまた渋いチョイスで……」

「そんな悩みを抱えていた時、ある女性が現れてこう言ったのです。『サブロウくんに会えばその悩み、立ちどころに解決するわ!』と」


 明芽とエミリアは「「え? サブロウって……」」と、同時に顔を見合わせる。


「それを聞いたわたくしは居てもたってもいられず、城を飛び出したという訳なのですが……。その反応から察するに、お二方もサブロウ様をご存知なのですか?」


 その問いには親近感を抱きつつあるエミリアが答える。


「ええ。エミィたちもサブロウって人に会う為に、あの森に行ってたの。まあ、結局辿り着けなかったんだけどね」

「そうだったのですか……」

「っていうか、その……言い辛いんだけどさ。ひょっとして、お姫様……騙されたんじゃない?」


 ハルフリーダは「騙された……?」と、見る見るうちにその面持ちをお暗くしていく。


「だってそうでしょ? 出てった矢先に悪漢に追いかけられるなんておかしすぎる。その女に騙されたって考えるのが自然っていうか……」

「そう……ですよね。ハハ……やっぱりダメだなぁ、わたくしは。考えればすぐ分かることなのに。所詮、わたくしのような世間知らずは部屋で一人、白鳥星雲のロゴがイカすゲームを起動した瞬間にサウンドボタンを連打する人生がお似合いなんです」


 随分と個性的な落ち込み方を見せるハルフリーダ王女。

 エミリアも余計なことを言ってしまったと、あわあわしながら後悔の念に打ちひしがれている。


 そんな落ち込む少女たちを救うのは決まっていつも――主人公の役目。

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