第2話 魔王軍が攻めてきてるらしいけどお茶を飲む②
自然が生い茂る町の一角。
この場所を本隊の一時的な拠点にしようと、ピクニック気分でレジャーシートを広げる魔王軍。
その中心には幹部であるバーバリアン将軍が、御大層な椅子に腰かけつつ、大好きなツナマヨおにぎりに舌鼓を打っていた。
『将軍! バーバリアン将軍! 緊急事態です!』
そんな小春日和の中、鳥人型の魔物は慌てた様子で翼をはためかせながら、獣人型の魔物である将軍の下へ小走りで駆け寄る。
『どうした? 最近、この部隊に配属されたばかりのバードマン参謀』
『あ、わざわざキャラ説明ありがとうございます! ってそれより、奴がっ……サブロウがこの街に居るのを見かけました!』
『何っ⁉ あのサブロウが⁈』
ウキウキ気分でお弁当箱を広げる部下たちは、上司たちの口から出た知らぬ名に、
『誰なんすか、その……サブロウって?』
と、タコさんウィンナーを頬張りながら尋ねる。
『あぁ、お前たちは知らんのか。まあ、奴のことなんて一部の連中くらいしか知る由もない。奴は……サブロウは……俺ですら一目置くほどにヤバい奴なんだよ』
『え……それって、どんくらいヤバいんすか?』
『まあ、そうだなぁ……。例えるなら百巻以上続いた漫画が、しょうもない終わり方した時くらいヤバいな』
『マジっすか⁈ めっちゃヤバいじゃないっすか⁈ そんな奴がこの街に居るんじゃ、俺ら勝てないっすよ⁈』
よく分からない例えに慌てふためく部下たちは、キャンプ用のテントを組み立てていた手を思わず止めてしまう。
『いや、つってもアレだよ? お前らが勝てないんであって、俺だったらギリいけるかなぁって感じのアレだかんな? あんまり一緒にすんなよ?』
『なーんだ、じゃあ安心っすね! あまりにも怖い例えするから、ビビっちまいましたよ』
落ち着きを取り戻した部下たちは一様に笑いだし、和気あいあいとテント組み立て作業に戻る。
『だとしても、ここに留まるのは危険だ。前線に居る奴らに撤退するよう伝えろ。お前らもキャンプはなしだ』
将軍はおにぎりを口に放り込むと、御大層な椅子から重い腰を上げる。
『えー⁉ せっかく今回の為に買ったんすよー⁉ 勿体無いじゃないっすかー⁉』
『それはー、アレだ。今度、社員旅行あるだろ? その時に使うってことで、手打ちにすりゃあいいじゃねえか。だから、それまでは、ちゃんと保管しておけ。な?』
部下たちは『ハーイ……』と不服そうに返事し、広げていたお弁当箱を片付けては荷造りを始める。
それを確認した将軍は頷きながら振り返り、一人……歩き出していく。
『将軍。私も同行します』
将軍の背にそう語りかけたのは、翼を胸に当てて頭を下げるバードマン参謀だった。
『気持ちだけ貰っておこう、バードマン参謀。俺と奴とじゃ、戦力の差は五分と五分。恐らくレバニラとニラレバくらいの戦いなるだろう』
将軍は立ち止まると、その大きく、毛深く、時に切ない、心強さを持った背でそう告げる。
『なるほど……いや、すみません。やっぱ、よく分かんないです……』
バードマンは頭を上げて一瞬納得しかけるが、根底にある真面目さが断じて許し難しだった。
『フッ……つまり、こう言いたいのさ』
将軍は目一杯白い歯を見せ、
『休みの日に会社の人に会うと、めっちゃテンション下がる……ってな?』
振り返ると、煌めくサムズアップで答えた。
『あ……はい……』
だが、当然バードマンには届くはずもなく、将軍は何を勘違いしたのか、やり切ったような笑みでキメると、腕を天高く掲げて歩き出していった。
『『『ウオオオオオオッッッ‼』』』
『かっけえ! 流石はバーバリアン将軍だぜ!』
『今夜、抱かれてもいい!』
『ケツの穴の準備はできています!』
何故か盛り上がる部下たちと、震える足取りで死地に向かう将軍。
そんな光景を見ながらバードマンは、『入る部署、間違えたかなぁ……』と心の中で呟くのであった。
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