第3話 魔王軍が攻めてきてるらしいけどお茶を飲む③

「という訳で、サブロウくん! 魔王軍を蹂躙しに行きましょ!」


 リリスはテーブルを叩く反動で豊かな胸を揺らしつつ、再び前のめりになりながらサブロウへと顔を近づける。


「蹂躙とは穏やかじゃないね。そもそも今、新人くんが戦ってるでしょ? 任せておけばいいじゃない」


 相も変わらず気乗りしてないサブロウ。

 周囲に悲鳴や爆音が鳴り響く中でも、我関せずといった態度でお茶をすする。


「そんなことしたら主人公の座を奪われちゃうじゃない! いい? 私たちの目的は主人公の座を取り戻すこと。つまり、名声を上げるためには、こういうイベントを取り逃しちゃダメなの。分かる?」


 リリスはサブロウの額に向かって連続チョップをぺちぺち繰り出し、


「私たちじゃなくて君の目的だろう? 僕を巻き込まないでくれ」


 当の本人は呆れながらも揺れるカップ片手に、今なお放たれ続けている鬱陶しい細腕を弾く。


「ハァ……夢がないわね、サブロウくん。私なんて主人公の座を取り戻した際のプランを既に構築済みだっていうのに」


 姿勢を戻したリリスは腕を組み、やれやれと言った表情でかぶりを振る。


「プラン……?」

「そうよ。まず魔王軍を殲滅します。すると名声が高まります。その結果、世界中の愚民共に感謝されます。そうなると信仰心が溜まります。それをもとに天界へと這い上がります。魔王軍を殲滅した功績と信仰心で、恐らく階級が前回のう〇こレベルから、美女の残り湯レベルまで引き上げられます。そこまで行けば、あとは簡単。私が持っている秘蔵写真を利用し、私を蹴落とした天使どもを一掃。こうべを垂れさせ、足を舐めさせてやるの。当然、その時まで足を洗わないわ。最大級の屈辱を味わわせる為にね。そして、最終的には天界のトップに君臨し、イケメンたちを手中に収めては、夜な夜な下の世話をさせてやるって算段よ! どう? 完璧でしょ?」

「長い。あと、後半が酷すぎる」


 サブロウにとって目の前の猥褻ビッチ陳列ファッキン堕天使のお下劣漫談はいつものこと。

 この手の話では毎度の如く溜息をついているサブロウは、ティータイムを邪魔されないためにと一気にお茶を放り込んだ。


「何よ~、サブロウくんだって女の子にモテたいでしょ?」

「いや、特には思わないけど」

「嘘おっしゃい。そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫! 異世界の女の子ってのは基本的に頭パッパラパーだから、転生者って肩書きが付けば自然と股を広げて寄ってくるものなのよ」


 リリスは異世界女の尻軽さを再現する為、短めのスカートを挑発的にたくし上げるも、ギリギリで見せないことで痴女感をアップ! これで気になるあの子にモーレツアピールだ!


「君はそろそろ、方々に怒られるといいよ」


 しかし、はなっから眼中にない意中の男の子。

 そんな彼が上に設置してあるパラソルを見上げつつ、呆けたような顔でスルーの構えを取っていると……


『ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン! ドシン!』


 という自分の声で地響きを表現するバーバリアン将軍が後方から登場だ。


「見て、サブロウくん! あれ、魔王軍幹部のバーバリアン将軍だわ! 成り上がるチャンスよ! チャーンス!」


 小声で捲し立てるリリスによって、仕方なしにと振り返るサブロウ。

 すると、圧倒的な威圧感を放つ将軍と視線が鍔迫り合う。


 そう! まさに一触即発の状態! 人類と魔王軍の闘いが今――

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